「んーっ!結構買ったわね!」
結構というか、かなりだ。もう両手にこれ以上荷物は持てないぞ。
「ごめんね♪」
両手を合わせてウインクしてみせる朝倉。全く…俺がこれに弱いことを知っててやるんだからな。
「うふふ、でも感謝してるわ」
まぁ、あのネックレス買ってもらったのもあるが、何より朝倉にこんな重い荷物持たせるわけにはいかないからな。
「あら、嬉しいわ。大切にされているのね、私って」
そりゃそうだろ。
「あんまり、大切にされたことってないから、ちょっと不思議な感覚ね」
ん?親御さんは…。
「両親とも海外出張とか多かったから、家にあまり居なかったのよね。だから一人でなんでもできるようになっちゃったのよ」
既に暗くなり始めた空を朝倉が見上げた。俺もつられて見上げると既に一番星は顔を見せていた。雲ひとつないし、今日は満天の星空になりそうだ。
「だから高校ではいい機会だから、って一人暮らしを始めたの。家に居てもあまり変わらないし、一人暮らしのほうがいろいろと都合がいいじゃない?」
俺には考えられないけどな。食事は毎日コンビニ弁当だとしても、掃除や洗濯とか面倒でやらないこと必至だ。
「だめよ、コンビニのお弁当ばかりじゃ。栄養が偏るし、塩分も多いんだから」
と、言われてもな。正直料理なんかほとんど作ったことないから、作れと言われても無理だと思うんだが。
「そうね…だったら今度一緒に作ってみない?」
そうだな…考えておくよ。
「もう、乗り気じゃないんだから」
少しふくれっ面をする朝倉。と、その朝倉が動きを止めた。どうした、朝倉?
「あそこ、ダンボールの中」
寒空の下、電柱に付いている蛍光灯に照らされていたダンボールの中から、みーみーと声が聞こえる。おいおい、マジか?
「猫ね。それもまだ子猫みたい…」
これで”拾ってください”とか書いてあったら、あまりに古、
「あ、何か書いてある。”拾ってください”だって」
…あまりに古風だ。
それにしてもどうするか。さすがに、このまま放っておいたら死ぬよな。
「そうね…。どうしようかしら」
保健所に連絡…っていうのは可哀想だよな。
「でも、そうするしかないかもしれないわ」
案外、朝倉って冷静なんだな。てっきり、「可哀想なこと言わないで!」とか言うのかと思ってたが…。
「そう?」
まあ、こっちの勝手な思い込みだ。あまり気にしないでくれ。それよりもこの猫のことをどうするか…。うちには既に居るからさすがに飼えないしな。
「じゃあうちで飼おうかしら」
朝倉、お前の住んでる場所はどこだかわかっているのか?
「マンションでしょう?大丈夫よ、私が住んでるマンションは動物飼えるところだから」
そういうところがあるのか。それは知らなかった。
子猫を抱き上げる朝倉。名前つけてやらないとな、どうする?
「そうね、キョンはどうかし…」
やめてくれ。
「即答されちゃったら、さすがにやめるしかないわね。それじゃあ…ずっと一緒に居られるように、”ハルカ”でどうかしら?」
いいんじゃないか?…あ、その前にそいつオスかメスか…。
「んっと、メスみたい。やっぱりハルカにしましょう」
んじゃハルカのためにいろいろ買ってやらないとな。…とりあえず、朝倉の家に荷物と子猫を置きにいくか。自慢じゃないが、このまま他のものを買いに行けるほど体力はないぞ。
「そうね。じゃあ行きましょ。ね、ハルカ」
朝倉に抱きしめられて、にーと鳴いたハルカ。既に母親と勘違いしているのかもしれないな。
「ふふっ、そうかもね」
嬉しそうに笑って先を歩く朝倉の後を追って、マンションまでやってくる。玄関口で、「ちょっとハルカを抱いてて。管理人のおじさんに話してくるから」と言ってじーさんと会話を始めた朝倉。そうだよな、いくら動物を飼っていいというマンションとはいえ、管理人に挨拶はしなきゃいけないよな。朝倉はじーさんと2、3言葉を交わしてこっちを、正確にはハルカをだな、指差して笑った。じーさんもすぐに承諾したらしく、朝倉は足取り軽く帰ってきた。
「じゃあ、部屋に帰りましょ。ほらハルカ、おいで」
ハルカを渡して荷物を持ち直し、朝倉の後をついて部屋まで行く。部屋に荷物を置くと、朝倉が「ありがとう」と礼を言ってくれる。いや、これくらいお安いご用さ。
「結構疲れたでしょう?」
「正直言うと、既に腕が痺れてきてた」
「久しぶりに買い物しすぎちゃったし、本当に助かったわ。ありがとう」
朝倉はもう一度俺にハルカを渡すと、部屋の奥からタオルやらもう使わなくなったんだろう服などを持ってきた。そして、それをクッションの上に広げてハルカを寝かせてやる。一度みー、と弱く鳴いた後、その布の海に顔を埋めて眠り始めた。
「これでとりあえずは寝る場所ができたわ。あとはこの子にあげる食事とかが必要ね。これくらいの猫にはまだミルクかしら。缶詰とか食べるのかな…」
よく分からないが、とりあえずペットショップで店員さんにでも聞いてみるのが早いだろう。
「そうね。じゃあ、いい子にしてなさいね、ハルカ」
軽くハルカの頭を撫でてから、俺と朝倉は部屋を出た。