親からも全面許可(大学で一人暮らしするときの役に立つから、というのが本音らしい)のため、翌日朝倉の部屋に集まる面々。といっても、俺・朝倉・長門と、遊ぶのと場を和ませる要因のハルカの3人と1匹である。
「じゃあ、さっそく作りましょ。いろいろ考えたんだけど、まずはカレー辺りの比較的簡単なものから練習してもらおうかな」
ちなみに、だ。朝倉がつけていたうさぎ柄エプロンが俺と長門の分も支給された。どこで買ったんだ、こんなもの。いや、別に買ったところなんかどーでもいい。何故俺がこんなうさうさしたエプロンをつけにゃならんのだ。
「あら、可愛いじゃない。似合ってるわよ?」
嬉しくもなんともないぞ。
「残念。ホント似合ってるのに」
こういうものはな、朝倉と…そうだな、長門みたいな女の子がつけるものだろう。ほら、長門なんか似合ってるじゃないか。
「そう」
こっちはこっちで相変わらずの無表情無口。会話なんか成立しやしない。まあ仕方がないといえば仕方がないか。そんな仲が良いわけじゃないしな。いや、意外に心の中では喜んでるのかもしれない。この際、そう言うことにしておこう。
「さてと、始めましょうか。まずは、まな板と包丁、フライパン、それとお鍋かな」
朝倉は言いながら手際よく調理道具を取り出していく。俺は何をすればいい?
「冷蔵庫から材料を取り出して。えっと、玉ねぎ、じゃがいも、人参、にんにく、それと牛肉があるから全部ね。大体使うものは集めてあるけど」
了解した。
冷蔵庫を開くと、なるほど確かに目の前に野菜が集めて置いてある。全部取り出してまな板の傍に置くと、調理道具を揃えた朝倉が長門に、「じゃがいもを剥いてね」と包丁とジャガイモを差し出した。こくり、と1回頷くと流し台の上で危なっかしい手つきでじゃがいもを剥き始める。正直、見ているこっちがハラハラするぞ。
「あら、見ているだけじゃなくてキョン君もやるのよ。キョン君のお仕事は…そうね、玉ねぎを炒めること。まず、たまねぎをみじん切りにして炒めましょう」
なんだ、玉ねぎを炒めるだけか。楽勝だな。
「そうかしら?うふふ…」
含み笑いをして長門の包丁指導を始める朝倉。いくら料理したことがないからとはいえ、それは俺を甘く見すぎだぜ。
前言撤回。楽勝じゃなかった。
実際みじん切りはなんとかできたが…玉ねぎを1時間も炒めるとは聞いてないぞ。ちなみに朝倉は、じゃがいも、人参を切り終わった長門と共にリビングでテレビを見ていたりする。
「朝倉ー、あめ色になるまで炒めたぞー」
「だーめー。あと10分よ」
「マジか」
30分を過ぎたくらいからこれの繰り返しである。正直足も腕も疲れてきた。
それからしばらくして。リビングの朝倉が台所に戻ってくる。そして、その後ろから長門も。
「そろそろいいかな」
ふぅー…やっと終わりか。辛かったぞ、なかなか。
「だからそうかしら?って言ったじゃない」
くすくす笑いながら炒め終わった玉ねぎを別の皿に移す。付け加えて、「それにまだ終わりじゃないわよ。にんにくで牛肉を軽く炒めなきゃ」と。もしかして、それも俺にやれとおっしゃいますか。
「お願いしたいなー。あ、まだ牛肉だけ切ってなかったわね。ささっと切っちゃいましょう」
牛肉ね…。はいはいっと。
っ!
「あっ!」
疲れていたせいか、ちょっと親指の先を切ったらしい。血がにじんでいる。と、それを…口に含んだ。朝倉が、である。
「んっ…あ、あたし何やってるんだろう。あ、絆創膏、絆創膏」
少し頬を染めて小走りでリビングに行く朝倉。とっさのこととはいえ、さすがに朝倉も恥ずかしかったんだろう。にしても、朝倉の口の中温かかったな…って俺は何を考えてるんだ。
あぁ、朝倉。これくらいの傷だったら逆に絆創膏貼ると治るの遅くなるからって、もう居ない。
「……」
はっ、長門の視線がじっとこっちを向いている。いや、やましいことなんか何も考えてないぞ、うむ。
「………」
とても視線が痛いです。
「はい、絆創膏」
戻ってきた朝倉は絆創膏を差し出した。いや、これくらいの傷だったら逆に絆創膏、
「はい!」
貼ります。貼らせていただきます。こういうときの朝倉には敵わん。逆らうのはやめておくべきだろう。
結局絆創膏を貼っている間に、残りの工程を朝倉が全部一人でやり、あとは煮込むだけになった。
「うん、あとは煮込ませておけばいいから、弱火でしばらく放っておきましょう」
なんとかできあがったな。カレーだけでこんなに疲れるとは思わなかった。
「…ごめんなさい」
謝る必要なんかないさ。俺の不注意なだけだし。
「でも、料理慣れてないのに一人でかなりやらせちゃったし…」
実際にやったのは玉ねぎ炒めるだけだ。他は全部長門がやってくれたんだろう。朝倉もずっとついて見てあげてたみたいだし。
「でも」
大丈夫だ、気にするな。
「…うん、ありがとう」
そうやって朝倉は笑ってた方がいい。朝倉としても、俺としてもな。