さてと、しばらく時間があるが…どうする?この時間、なんかおもしろいテレビでもやってたかね。
「あ、そうだ。人形を作る続きしなきゃ」
人形?なんだ、藁人形でも作るのか?
「…冗談でも怒るわよ?」
すまん。
「ほら、ハルカが一人のときに寂しくないようにぬいぐるみを作ってあげようと思ったのよ」
ああ、そういう人形か。でも学校に連れて行くし、寝るときも一緒だろ?特に寂しくない気がするが。
「そうは言っても、テスト期間とか連れて行けないじゃない?」
確かにテスト中にゃーにゃー騒がれると苦情が出そうだな。まあ昨日の午後を見る限り、そんなことは気もするが。
「いつ連れて行けないことがあるか分からないから、そういう状態に慣れなきゃいけないと思って。でも一人じゃ寂しいだろうから、そういうとき私の匂いがするものが傍にあれば安心すると思うから」
朝倉についてリビングへ戻ると、おそらく裁縫セットのようなものから取り出したのだろう、長門が毛玉でハルカと遊んでいた。毛玉を追いかけるハルカと、ギリギリ触れそうなところで毛玉を引っ込める長門。タイミングがばっちりすぎて、少しも毛玉に触れられないハルカが可哀想でもある。とはいっても、ハルカは楽しそうだが。
長門、ちょいとその毛玉、ハルカに遊ばせてやってくれないか?
「遊んでる」
あー、そうじゃなくてな。触らせてやると言うか…。
「実際に毛玉に触れると、爪が長い場合爪に引っかかって取りにくく可能性がある。それに、これを噛んだ場合気管に毛が入り、吐き出さなくてはならないかもしれない。猫…ハルカのためにもよくない」
まぁ、そう言われればそうなんだけどな。
「そうね…。そういう遊び道具のためにもいいわ」
針と糸を取り出した朝倉は1発で針穴に糸を通し、既に完成形が見え隠れし始めている布を縫い始める。すごいな、俺の場合糸を通すのだけで時間がかかるっていうのに。
「これでも、ほつれたりしたら自分で全部縫ったりするんだから。慣れてるのよ」
確かに縫っていく様子を見ると、随分手馴れてる様子だ。
「朝倉はいい嫁さんになるだろうな。料理も美味いし、裁縫もできるし、頭もいいし、人付き合いも良好。容姿端麗となんでも揃ってるしな」
「もう、そんなに褒めないでよ。何も出ないわよ?」
といいつつ、満更でもないらしい。頬を染めながらすいすいと縫っていく。その様子を見て長門が熱い視線を朝倉に注ぐ。もしかして長門も作ってみたいのか?こくりと、縦に首を振った。
「そうね。せっかくだから、やってみる?あ、キョン君もどうかな?」
俺か?…そうだな。でも何すればいいか分からないな。
「自分の人形を作ってプレゼントしてくれるとか?」
不細工なのができるのは間違いなさそうだが。それでもいいならやってみるか。
「長門さんもそうする?」
またこくり。朝倉は短めの針を俺と長門に渡し、それぞれにいろんな色の糸を渡す。
「表に糸が出てくる場合は布の色と合わせるんだけど、ぬいぐるみなんかはまず布を表同士を合わせて端を縫って裏返すの。そうすると縫ったところは見えないでしょ?そして袋状になったところに綿を詰めてできあがり」
と、簡単に言うがなかなか難しそうだ。まず目の部分を切ってみる。しまった、随分小さくなっちまったな。髪の毛を、今度は長すぎか…。口もなんか変だぞ。朝倉、笑ってないで助けてくれ。
「いいのいいの。あれは違う、これは違うって言いながらがんばって作るのがいいんだから」
とはいってもだな。これは人間というよりバケモノに近いぞ。
「あ、目とか鼻の部分は表に出ちゃうから布と同じ色で縫ってね」
ということは黒目は黒で縫えばいいんだな。…付いたといえば付いたが随分不安定だ。これじゃすぐに取れるな。もうちょっとしっかり縫うか。
「なんだかんだ言ってもちょっと楽しくなってきたでしょ?」
意外にな。長門の方も大分できてきたみたいだが…こっちと似たようなもんか。
「……そう」
朝倉とは対照的に意外に不器用なのかもしれない。俺と同じようにいびつな人形が少しずつできあがりつつあるようだ。
「はい、できた」
最初からある程度進んでた為かもう完成したようだ。さすが俺の人形と違って可愛く作れてる。
「そお?えへへ、ちょっと自信作なんだ。ほら、ハルカー」
長門がハルカと遊んでいたが、人形を作り始めたせいでフリーになった毛玉でここぞとばかりに遊んでいたんだろうな、疲れて毛玉の上に頭を乗せてうとうとし始めたハルカは名前を呼ばれ、ぴくんと耳を立て起き上がった。
「はい、どうぞ」
と、ハルカにできたばかりの人形を渡す。くんくんとしばらく匂いを嗅いでいたが、朝倉の匂いがしたためか安心して、かじかじと噛んでみたり、ひっかいてみたりと遊び始めた。せっかくの人形だからちょっともったいない気もするが。
「ハルカのために作ったんだからもったいなくなんかないわよ。もし欲しければまた作ってあげるから、ね♪」
そして、一瞬思いつめたような表情で、
「…ねぇ、人形に人の心がこもることってあるのかな…?」
そう呟いた。ん、どうした?
「あ、何言ってるんだろう、私。そうだ、ちょっとカレーの状態を見てくるね」
と言って台所へ向かい、帰ってきた時はいつもの元気な笑顔だった。さっきのはなんだったんだろうか。
「カレーも大分良くなった感じ。もうそろそろ食べてもいいかもしれないわ」
そういえばさっきからいいにおいがしてる、そう思った瞬間だ。人生のうちに何度止められたらいいかと思ったことか。とりあえずそのうちの一回が今だな、ぐうぅと腹がなった。
「いい音。じゃあ、きりのいいところで夕飯にしましょう」
そうだな。長門の方はどうだ?
「…食べる」
「じゃあ、手を洗ってからね」
洗面台で手を洗ってくると、既に皿へごはんとカレーがよそわれていた。見た目はなかなかいいな。問題は味だ。
「さっそくいただきましょう。いただきます」
それぞれいただきますの後、口に運ぶ。…お、美味いな。
「おいしいね」
こくり、と相変わらず頷くだけの長門。しかし、スプーンの進む速度からして長門も満足してるようだ。
「これくらい作れれば上出来よ。明日もまた何か作る?」
いや、さすがに毎日は辛いな。またの機会に頼む。
「そう?少し残念だけど、仕方がないわね」