ばっ!と起き上がった。ここはどこだ。…家の…布団の中?
…なんだ、夢か。最近変にリアルな夢ばかり見るな。あまりに生々しすぎるぞ。
「やれやれ」
ずるずると布団から這って出ようとすると、同時に枕元に置いてあったんだろう何かが落ちた。拾い上げると、それは人形だった。あの色とりどりの石をはめたペンダントを掛けている。人形のほつれ方、ハルカの毛、ペンダントを掛けている状況まで一致している。
…前言撤回、やっぱり夢じゃねぇ。
「キョン君、おはよー。あれ、もう起きてたー」
妹がシャミセンを抱きかかえたまま入ってくる。シャミセンは他の猫の匂いがするせいか、人形の匂いをしばらく嗅いでいたが、しばらくすると興味を失ったのか布団の上で丸くなった。
「あれ、キョン君、そのお人形どうしたの?」
ある人からもらったんだ。
「いいなー。あ、とりあえず朝ごはんできたってー」
俺は鞄に人形を、もちろんペンダントをかけたままな、しまって階下に降りる。今日も一日がまた始まるんだな。
「よう、長門」
「……」
本から視線をこちらに向ける長門。まだ誰も来てないんだな。
「今日は涼宮ハルヒの都合で休み」
そういや休み前のテストでケアレスミスでもしたか、「あたしはこういう解釈で書いたのに!」とか喚いていた気がする。あれのせいか。
「おそらく」
やれやれ、相変わらず暴走機関車、ここに極まれり、だな。まあ、お陰で気兼ねなく聞けるわけだ。昨日…いや、今までの夢の話だ。いや、それも夢じゃない話のようなんだが。なんというか、
「分かっている。あなたは9時間23分15秒前にこの世界に戻ってきた」
やっぱりそうなのか。それで…だ、涼子はどうなった?
「データは帰ってきた。それ以上の詳しいことは知らない」
…そうか。分かった。
「…きっとその内会える」
「期待しておくよ」
俺はそう言って元文芸部、そういやあっちの世界はハルヒがいないせいで文芸部の部室のままだったな、現SOS団の会議用部屋を出る。靴に履き替えて外へ出て空を見上げると、雲一つない真っ青な空。この空の果て、宇宙には涼子や長門を作った情報統合思念体とやらが居るらしい。そいつに一言言っておきたい。
朝倉涼子と出会わせてくれて、ありがとうな、と。
あの夢のような現実から1週間。特に何事もなく…というのは嘘だな。相変わらずハルヒが山のように厄介ごとを持ってきてはSOS団の団員、主に朝比奈さんと俺に多大な被害を及ぼし、長門や古泉の助けを借りつつ毎日を過ごしていた。そして俺は、相変わらずあの人形を枕元に置き、学校へは鞄の中へ入れて持ち歩いた。おまじないを信じてる、とでも知れたらハルヒが騒ぎ出すだろうからばれないように気を使ってたが。
「おーう、キョン」
「谷口か」
いつもの坂。いつもの顔ぶれ。早朝ハイキングコースは短くなることもなく、そしてそろそろ雪が降ってもおかしくないだろう、という気温まで下がるお陰で、反比例するように俺の布団の中で稼ぐ時間が増えていくために、ハイキングコースを通るときの平均速度が上がっている。お陰でだんだん体が鍛えられていっている気がするぞ。
「っあー、だるいぜ。まーた、あの校長の長話聞かなきゃいけないのかよ。いっぺん校長がこっちの立場になって立ちっぱなしやってみろっての」
まぁ、そうだな。
「おはよう!」
はっとして思わず振り返る。しかし、それは知らない女子がこれまた知らない女子に挨拶しているだけだった。
「なんだなんだ、キョン。いい女でも居たのか」
「いや、そういうわけじゃない」
「なんだ、つまんねーな」
つまらなくて結構だ。…つまらない、という言葉であっちの世界を思い出した。いろいろあったが、あっちでは涼子が恋人だったから毎日が楽しかったな。まだ1週間しか経ってないのに早くも感傷気分だ。
「全く、ちょっとくらい楽しい学校生活したところでバチは当たらないと思うんだ、俺は。せっかくのAAランクプラスの朝倉涼子がクラスに居たって言うのに、突然転校しちまったし。」
ああ、全くだ。
教室の扉を開けると、もう名物だな、ハルヒのにやけ顔があった。こいつの笑顔はまともなことがない。
「キョン、聞いた?また転校生だって!それも今回はうちのクラスよ!わくわくするわ、絶対にSOS団に入団させるんだから」
あー、はいはい。勝手にやっててくれ。俺は付き合いきれん。
「でもなんか帰ってきた、とか言ってたのよね。あれが気になるわ。ってキョン、聞いてるの?キョン!」
机に突っ伏すと同時に岡部が入ってくる。さっさとHR始めてくれ。後ろがうるさくてかなわん。
「えー、今日はHRを始める前に転校生…いや、転校生と言うのもおかしいか。まぁ、とにか、」
岡部の声を遮るような扉の開く音。それと同時にクラスメイト達の歓喜とも言える声が響く。
「え、あれ。帰ってきたってそういうこと?キョン!」
あーもー、どうでもいいから早くしてくれ。
「あら、それはひどんじゃない。せっかく帰ってきたのに」
飛び起きた。そして俺が何かいうより先に。
「ただいま!」
…どうやら、またしばらくのんびりできそうにない。このときのハルヒの不機嫌そうな顔は忘れないだろうな。もしかすると、閉鎖空間とやらが大発生して、古泉が苦労するかもしれないが…まあ我慢してやってくれ。首に抱きついてきた涼子を抱きとめながら、そんなことを考えていた。