「あっはっは!」
「これどうやったらこんなのになんのよ、ははは」
「うふふ」
 鶴屋さんとハルヒ、朝比奈さんの3人はパソコンの画面を覗いて大爆笑中だった。
「何やってるんだ、あれ」
 独りで詰めチェスをやっていた古泉に尋ねてみる。
「ネット上で拾ってきた画像を閲覧中だそうです。長門さんが作ったソフトでキーワードや形などを入力するとそれに対応した画像や動画などを検索してダウンロードするソフトの開発をしていたようです」
「つまりそうやって落としてきたファイルに異常が無いかとか、どんな画像が落とされてきたか確認しているうちにやることの方向性がどんどん違ってきてしまったと」
「です」
 部屋を片付けていたら古いアルバムを見つけてなんとなく広げたらそちらに夢中になってしまった、みたいな状況か。ありがちだな。
 朝倉が諸般の事情により居らず、朝比奈さんの淹れてくれるお茶のためのお茶うけをと購買へ行っている間にそんなことがあったとは。
 しかし最近長門の奴、コンピ研に足繁く通っているようだが向こうも忙しいんだろうか。前の魚育て・鑑賞ゲーも製作中だった気がする。
「どうでしょう。本人に聞いてみるのが1番なのではないでしょうか。今日は既に戻ってきていらっしゃいますし」
 言って手のひらを窓際に向けた。そこには3つの部活を掛け持ちしており、現在は無言でページを捲っている長門の姿。ああ、そうするよ。それが1番手っ取り早い。
「長門」
 本を閉じ、完全に不純物を取り除いて凍らせた氷のように透き通った目で俺を見た。
「ここのところコンピ研に良く出入りしてるようだが、忙しいのか?」
「そうでもない。ただし年末までに現行のソフトウェアを含め3つを完成させる予定。だから1週間に2回以上の参加が必要となっているだけ」
 十分忙しそうじゃないか。
 つーか普通ソフトって2、3ヶ月で作るもんじゃないと思うぞ。長門からしてみれば大して難しくもないかもしれないが、なんというか、普通は年単位でソフトってものは開発するものであるはずだ。携帯のアプリケーションとかパソコンの1桁のメガ単位程度のソフトウェアだと開発期間を一般的なゲームソフトなんかと比較するのはマズイのかもしれないけどさ。
「問題はない。どのソフトも先行する有機生命体の確認ができている。仕組みが分かれば大したことはない」
「いや、だからだな」
「?」
 先駆者が居れば問題ないというわけではないのだが、それを長門に分かりやすく伝える能力を持ち合わせていない俺は結論を述べるのを諦めた。
 コンピ研の連中も徐々に感覚が麻痺してきているんじゃないかと思うね。長門が居れば次世代ゲーム機のソフトだろうと数週間もあれば作り上げてくれそうだとは思うが、それは逆に言えば長門が居なければそんなこと無理なわけで。
 しかしそれならそれでたまに見る修羅場みたいなものも無くて当然のような気はする。長門が作ればいいだけだからな。
 ってことは長門に依存しっぱなしではないが、必要最低限の自分たちではどうしようもないような部分を長門頼みにしているってことかもしれない。膨大な情報量の中から見つけ出さなきゃいけないバグの修正とか、そういうの。
 どっちにしてもやっぱり依存度が高いような気はしないでもないな。
 それにしてもあいつ、確か長門はうちの部員だから長門がコンピ研に行くことはかなり渋っていたはずなんだがなあ。その場その場の思いつきで行動してばかりの奴だから、おそらくそんなことを言ったなんて既に忘れてるだろうが。
「ほら、キョン。あんたも見なさい。これ、結構面白いわよ」
「別に俺はいいんだが」
「何言ってんのよ。ただ遊んでるように見えても、有希が作ってるソフトを使った感想ってのが大きな役割を果たすのよ。あんたも組員なら組長の仕事の手伝いくらいしなさいよ」
 へいへい。分かったよ。
 ハルヒに連れられてパソコンの前へ。パソコン上には遥か前に長門が作成した長門型デスクトップマスコットが画面端でこたつに正座して座っている。
 ってそこはどうでもいい。それよりも中央に陣取っているソフトウェアの名前は『検索君 Ver.1.0』だった。なんつーか、ネーミングセンスの欠片も無いな。そこもどうでもいいが。
「どんな単語を検索するか言いなさい。形を使ったバージョンはマウスだと書き辛いから今日は文字だけよ」
 次にコンピ研へ行ったときに長門がペン型のマウスを持ってきてくれるそうだ。最初は長門が今日引き返して取ってくると部室を出ようとしたそうだが、どうせいっぺんにやったって感想もバグ探しも難しいだろうということで次回コンピ研へ行ったときということになったわけだ。
「そうだな……」
 何か面白い単語は無いだろうか。
 だが下手にウケ狙いでやっても仕方が無い気もする。所詮ウケ狙いで言ったものは優しい鶴屋さんや朝比奈さんは笑ってくれるとしてもハルヒはむしろ腹を立てそうだ。
「遅すぎるからもうキョンで検索しましょ」
 て、考える時間10秒くらいかよ。
「出たわよ。まあ大方予想通りだけど」
 鹿に似た動物のキョンのサムネイルがダウンロードフォルダにずらりと並んでいる。
「あんたの顔が出てきたら面白いと思ったけどさすがに無茶だったわね」
 そりゃそうだ。むしろこんな仇名のみで、動物よりも俺の顔がずらりと並んだら怖すぎるぞ。
「じゃあ次、何検索しようかしら」