「宇宙人の好きなものっておでんだと思うの」
昨日の、またいろいろと無かったことになっている話を引きずるつもりなのか、突然ハルヒがそんなことをぽつりと背後で漏らしたのが聞こえた。
教室で5限終了後の休み時間で、昼食後の1番眠い時間帯を少し超えた辺り。なんでそんな時間に言ったのかも分からないし、話の内容もどこから思いついたのかさっぱり分からん。さっきの時間は数学で、かつそんなことを思いつくような雑談をしたわけでも、数式にそれに見えるものがあったわけでもないはずだ。睡眠欲を抑える気も無く舟を漕いでいたから聞き逃しただけかもしれないが。
聞こえなかったフリしておくか。幸い起き抜けで反応が鈍く、ハルヒの言葉に突っ込み入れなかったし。
「で、キョン。聞こえなかったフリしても無駄よ。話を聞きなさい」
何故バレたんだろうな。
「あんたのやってることなんかお見通しに決まってるでしょ。行動がワンパターンすぎるのよ」
というほどこいつの話を聞き流してることは無いはずだがね。なんだかんだで毎回ハルヒのどうでもいい話に付き合ってるんだから。
進行役的な立ち位置を返上できない状況に嘆きつつも、こいつは無意識な部分と周りが全く反応を示さずに話が進まないから最終的にやるしかない状況に追い込まれるのと2パターンあることから俺に逃げ道はほとんど無いのは今までの生活で既に実証済みだ。
何はともあれハルヒの話し相手をしてやらなきゃいけないことはこれで確定した。非常に今更ながら、入学式が終わって1ヶ月くらいに再度ハルヒに話しかけたあの愚行を返す返すも悔やむ。
「理由はなんだ」
どうせ無視できないのなら素直に聞いてやろう。壁を背にしてハルヒの方を顔だけ向けるという、いつもの態勢に変更する。
「この前、近所でおでん缶を見つけたのよ、自動販売機で」
「ほう」
「怪しいでしょ」
「何がだ」
あまりに前後で繋がりが無さ過ぎる。
「おでん缶よ? 何で缶におでん詰めてるのよ。どう考えたっておかしいでしょ!」
発案者に言ってくれ。俺は常に保温できて密封できるってことから考えて悪くは無いと思うけどな。夏場に食べたいとは思わないが、冬場に置いてあれば味次第ではあるものの、買ってみたいとは思うぜ。
「もっと前から東京の方だけではあるが売ってたはずだぞ」
「それよ、それが怪しいのよ!」
今の話の何処にハルヒが思わず声を上げるほどの怪しさがあったのかが良く分からんが、何故かハルヒは早口でまくし立てるように説明を始める。
「東京よ東京。元々東京にしかないってことは大きな問題だわ。なんてったって東京は国の中心よ? その国を乗っ取るためには中枢をまず攻めるから当然のことよね。そして東京にしかおでん缶が無いということはそれを主食としている何かが居る。それを考えれば答えは1つ、宇宙人が潜んでいるからよ。もうこれ以上無いくらいに完璧な推理ね」
むしろ穴だらけすぎてどこから突っ込めばいいか分からん状態だ。ノーガード戦法か?
「今時秋口から春前までくらいはコンビニでもおでんなら売ってるだろ」
「あんた、春始まってから秋が始まるまで宇宙人が冬眠ならぬ夏眠でもしてると思ってるわけ?」
「いや、さすがにそうは思って無いが、別におでんなら家で作ればいいだろ」
「外まで持ち運べないから、それを携帯用にしたのが宇宙人なのよ」
宇宙人がそんなまめな仕事をするとは思えないが。
「しかしこの辺りで見かけたってことは宇宙人が外へ出てきたってことか?」
ふんぞり返ってハルヒは答える。
「当然そういうことになるわ。やっぱり宇宙人はこの町の中にも居るのよ!」
せっかく無かったことになっていたようなのに穿り返すから俺もそれに倣ってみる。
「だが昨日の長門の意見はどうなるんだ」
もちろん俺は本気にしてないが、こいつは長門の意見を褒めてたからな。
「通りすがりの有希の意見は参考意見で聞いただけよ。まあありうると思うけどね。カレーなら真空パックとか缶詰とか多種多様だから……あ、まさか」
なんとなく今のは予想がついたぞ。
「インド人は全員宇宙人だとか言い出さないよな」
「それはないわ。いくらなんでも短絡的すぎよ」
むしろ今までのハルヒの考えに短絡的ではない部分を見つける方が難しいと思うのだが。
「でもインドに行けば宇宙人がたくさん見つかるわ、きっと。家庭料理からしてカレーなんだし。いつかはインド行ってみたいわよね」
「つーかおでんの話は何処へ行った」
「おでんが主食なのは疑いが無いわ」
今までの話でどこに宇宙人の主食がおでんだと確定するのか分からん、と言ったらさっきの話を復唱されそうだからやめておくか。
「でも宇宙人がカレーを好きじゃないという理由は見つからないわ。宇宙人って一口に言っても種類がたくさんあるんだし。広い意味で言えば地球人だって宇宙人なんだから、火星人と金星人で好きなものが違ってもおかしくは無いわ。きっと金星人はいつも暑いからインドと同じカレー好きで、火星人は寒いところに住んでいるからおでん好きね」
長門が言っていた理由は完全に無視か。ハルヒのも長門のもどっちもどっちだと思うが。
「こうしちゃいられないわ。あのおでん缶の秘密を調べなきゃ。調べれば宇宙人に関する情報が手に入るはずだしね」
そんなことを言ってハルヒは教師が入ってくるのとほぼ同時に教室を飛び出していった。
……あんなこと言ってる奴が俺よりも遥かに頭が良いってんだから、俺を作った神様だか何だかはよっぽど俺を嫌っていたのか、それともハルヒが異常に好きだったとしか考えられんね。世の中は不公平だ。