「どういうことよ、これ」
いや、俺に聞かれてもだな。俺も同じ質問をしたいくらいだ。
夕日がそろそろ沈んで、うすぼんやりと暗くなりつつある部屋の中、長門を囲んでSON組メンバーは苦悩していた。
「……」
さすがに長門も、何故こんなことになったのか分からんだろうな。ってか、分かってたら苦労しないか。
「記憶喪失、でしょうね」
そんなもん、見りゃ分かる。問題は、いつ、どこで、誰が、何を、どのように、どうしたか、つまり5W1Hが問題だ。
「何があったんでしょうか……」
「分からないわね。なんか変なものでも食べたんじゃないの?」
コンピ研部長の部屋で、賞味期限切れのわらび餅を平気で食ったお前が言う台詞じゃないぞ。
「失礼ね。ちゃんとみくるちゃんで毒見したわよ」
「あ、あっ……」
お前は人を何だと思ってるんだ。朝比奈さんが思い出して震えてるぞ。
「まあまあ、二人とも。長門っちがこうなったのを解明して、治してあげるのが先決じゃないっかな?」
ああ、確かにそうです。
でも、どうしてこうなったかとか、そういうきっかけとかがさっぱり分からないと、解明するだとか、治すってのは難しい気がしますよ。
やっぱり、一番手っ取り早いのは精神科に連れて行く、ってことでしょうかね。
「記憶喪失って精神科でいいわけ?」
知らん。しかし、一番それっぽいだろう。
とりあえず、何を覚えているのか聞いてみるか。
「長門、何か覚えていることはないか?」
「長門有希」
ふむ、自分の名前は覚えているんだな。他には何かないか?
「長門有希」
いや、それはさっき聞いたな。
「長門有希」
だから、
「長門有希」
「どうやら、長門さんは自分の名前しか覚えていないみたいですね」
困ったな……。
他のメンバーもお手上げ状態。そりゃ、そうか。医者な訳でもないしな。
ハルヒが長門の体中を調べてみるが、
「うーん、特に怪我してる様子もないわね」
そうか……。
「とりあえず、どうする?」
「このままこうしていてもどうしようもないです。一度家に帰って様子を見ましょう。何かの拍子に頭でも打って、一時的なものかもしれませんし」
ああ、それがいいかもしれん。明日も治らないようなら、一度病院連れて行くということにしよう。
「そうですね。さあ、お姉ちゃん、帰りますよ」
「……?」
「お姉ちゃんの家はこっちです。私と一緒に帰りましょう」
疑問符を飛ばしながら、実希の顔をまじまじと見る。長門、何か思い出したか?
「……?」
だめだ、首傾げてるだけだ。
「まあ、長門。その内思い出すかもしれないから、家でよく眠るんだぞ。この時期は冷えるからな、腹を出して寝るようなことは絶対にしちゃいかん。あとは、」
「いくらなんでも、そこは分かるわよ」
記憶喪失なら、そういう常識的なことを忘れているかもしれないだろう。
「ちゃんと乾杯が言える位だし、そこは問題ないと思うわ。それに、実希さんも居るしね」
ああ、確かにそういえばそうだ。
「とりあえず、私たちは先に帰ります。皆さんお疲れ様です」
ああ、お疲れ。
長門は手を引かれるままに、教室を出て行った。
「うーむ、これは事件ね」
まあ確かに、記憶喪失になっているのは大問題ではあるが。お前が期待しているような事件ではないと思うぞ。
「有希が誰かに殴られ、一時的な記憶喪失状態になってるのよ」
お前、自分で今調べた時に「怪我してる様子がない」とか言ってたじゃないか。
「素人目に見たらそうかもしれないけど、医者が診たら違うかもしれないわ」
だったら、早く医者に連れて行かなきゃいけないだろうが。あと、頭部に刺激があったとしても、殴られる以外にもほら、こけたとかいう可能性もあるだろう。
というか、すぐに推理小説っぽい事件に結びつける癖はどうにかしなさい。
……全く、疲れるぜ。
「いいえ、絶対殴られたのよ。100回記念が終わったばかりだというのに、もうこんな事件が舞い込んでくるなんて!」
満面の笑顔のハルヒ。
というか、お前が引き寄せたような気がしなくもない。こいつがまた、「こんな区切りのになるような日が、平々凡々に終わるなんて許せない!」とか願っちゃったんじゃないのかね。
「よーっし、有希がなんでこうなったか、決定的な証拠を見つけるわよ!」
見つからないと思うけどな。って、今からかよ!
「もう時間も時間だし、今日は帰るべきだろう」
既に門も閉まってるかもしれないぞ。
「頼めば開けてくれるとは思いますが、僕も今日は帰るという方に賛成です。もし、ここに夜中まで残っているのがばれれば、いろいろと不都合なことがあるかもしれませんよ」
不都合ってなんだ。
「せっかくいい感じで、今日の式を終われたのに、その余韻のまま下校時刻も守らずに居る、と知れればどうでしょう?」
まあ、あまりいいイメージじゃなくなるな。
「ええ。だから今日は潔く帰って、また明日集合するというのがいいと思います」
「……そうね、分かったわ。有希が気になるけど、今日は帰りましょう」
各自鞄を持ち、教室を出る。幸い門はまだ閉まっていなく、急いで校門を出る。
じゃあな、また明日な。
「あ、朝ご飯食べたらすぐ、有希の部屋行くわよ」
そういうことは本人が居る間にだな、
「あとで実希に電話はしておくわ。気になるじゃない」
まあ、そりゃそうだが。
「じゃ、そういうことだから!」
先に走って帰りやがった。
「涼宮さんも、やっぱり長門さんが記憶喪失になっているの、心配してるんですね……」
やっぱり、SON組組長として任命した責任を感じているんでしょう。事件が起こって嬉しい、と思っている節が無い訳ではないでしょうが。
とりあえず、帰りましょう。明日、長門が戻ってることを信じて。