「なあ、ハルヒ」
「何よ」
「少なくとも、正常の長門を最後に見た、朝倉か実希、どっちかはつれてきた方がよかったんじゃないか?」
「うっ……、そ、それは私も思ったわ。でも、二人が任せてって言うから、任せてきちゃったんだから、仕方がないでしょ」
まあ、確かに。
この会話に、小泉はハンサムスマイルにやや苦笑を混ぜた感じだし、朝比奈さんは……あまり何も考えてないみたいで、鶴屋さんは気にせず笑顔のままだった。
とかなんとかしている内に、学校に到着。
「とりあえず、各自怪しいものを見つけてくること」
半分ハルヒもヤケになってるんじゃないだろうか。そんなもん、見つかる訳ないと思いつつ、正義のヒーローや悪の手下を心待ちにしていた俺のガキ時代と同じで、な。
この状況で一人帰るというのもなんだし、ここはひとつ、歩きながら長門がどうしてこんな状況になったのか考えてみるか。
ハルヒの指示通り分かれ、担当の校庭を歩く。
なんか、前もこんなことあった気がするな。ああ、鶴屋さん探しのときだったか。
そんなことは記憶に仕舞い直して、今考えるべきは長門がどうして記憶喪失になったか。
ハルヒが言うように、もし誰かに殴られたのなら、第三者の目に留まっていいはずだ。
休日とはいえ、活動している部活は数多くある。
そして、長門が朝倉達と別れてから、そんなに時間は経っていなかったらしいから、学校からあまり離れていないところで殴られているはずだ。
そう考えると、誰にも気づかれずに長門を殴打する、という可能性は少々現実味が無くなってくる。
いや、それ以前に。長門は人間ではない。だからなんだと言うなかれ、いちいち殴られてやる必要などないんだから、危害を加えようとした人間を返り討ちにするか、少なくとも避ければいいだけの話だ。それをしない、となるとやっぱり怪しいところである。
もう一つ。俺は、朝倉とのあのトンデモバトルを思い出していた。
朝倉にあれだけ即死級の傷をもらった長門が、なお平然とした顔で立っていた長門が、一発殴られただけで記憶が飛んでしまうというのはちっとありえそうにない。
そうすると、誰かに殴られたか、はたまたどこかから転げ落ちて、記憶を失ったという筋書きは、あまりにお粗末としか言いようがない。
じゃあ、だったらなんだ?
長門の身に、他の可能性で起こりそうなことといえば?
怪しげな、俺が知らない敵からの攻撃による、記憶喪失。これしかない。
この場合、俺たちにできることは皆無だし、医者だってきっとお手上げだろう。
俺には特殊能力なぞ宿っているわけもないし、もし仮に宿っていたとしても、使い方が分からないんじゃ、持っていないのと同義である。
……ってことはお手上げじゃないか。
野球部が活動中のバックネット裏を通って、昇降口まで戻ってくる。これといった異常はなかったな。まあ、当たり前だと思うが。
学校の回りは、ハルヒと鶴屋さんが目を皿のようにして、異常を探しているようだ。
ああ、そういや朝倉と実希は無事に病院に着いたんだろうか。もう、長門担当の補助係みたいになってるし、あの二人がついていれば大丈夫だと思うけどな。
とりあえず、病院での結果を聞きたいものだ。俺が危惧したようなものではなく、実は本当に珍しいだけの病気なら、医者がどうにかしてくれるだろうさ。
しかし、朝倉も実希も割と落ち着いていたな。意外に本体というか、長門がどうかなってても大丈夫なのかね。
それともあれか、今時のコンピュータみたいに、中身の入れ替えが簡単にできるとか。で、実は病院に行ったとか言って、長門を直している最中である。うむ、これは意外にありえそうだ。
……ちょっと待てよ?
もし、さっき考えたみたいに、怪しげな敵からの攻撃によって記憶喪失になり、今2人が中身を入れ替えているとしよう。
実希は別として、朝倉は長門のバックアップとかなんとか言ってたはずだから、長門と中身の構成は似ているんじゃないか?外のスペックは……いや、考えないでおこう。
もし、他のやつらに何らかの影響を受けているなら、朝倉だって被害が及ぶ危険性があるわけだし、あんなに落ち着いていられるだろうか。
これは……もしかすると、もしかするのか?
そんな結論を決定するか、しないかで迷っていると、ハルヒがこちらに走ってくる。何だ、あいつ。
「キョン、急ぐわよ」
どうしたんだ。まず、急ぐ理由と、どこへ行くのかはっきりさせてだな、
「分かってるわよ。病院で、ちょっと目を離した隙に、有希が居なくなったらしいの」
「そうか」
「とにかく、急ぐわよ」
急ぐ必要もない気がする。俺の予測が正しければ。
「……で、朝倉さんがトイレに行っている間に、すぐ近くだからと実希が3人分の飲み物を買っている間に、有希が居なくなった訳ね」
「ええ」
「そうなんです」
病院の外で待っていた、朝倉と実希の二人と合流してすぐ。どうやら、長門は朝倉と実希が目を離した隙に、どこかへふらふらと行ってしまったようだ。
「そう遠くには行ってないはずよ。今の内に、病院内と外を手分けして探しましょ」
「分かりました。じゃあ、私達は病院の外を探します」
「じゃあ、俺も病院の外を探すか」
いちいち班分けをするのも面倒だったみたいで、結局ハルヒ・朝比奈さん・鶴屋さん・小泉は病院内を、俺は朝倉・実希と共に病院の外を探すことになった。
「30分後にまたここで」
ああ、分かった。
4人は病院内に入っていき、
「さあ、探しましょう」
と朝倉が促したのを、俺は止めた。
結果的に、俺の予感は的中、長門を見つけると共に、記憶喪失の原因も突き止めた。
その理由は、次回ゆっくりと話すとしよう。