「これ以上は儂にも分からぬ。だがあの部屋の書籍には何か記されておるかもしれん。まだ到底読みきるには時間が掛かりそうであるが、読みきった暁には更なる知識が得られるであろうな」
だったら長門と分業した方がいいかもしれない。
ビブリオマニアの名を欲しいままにしている、とは言いすぎかもしれないが最近はそれほどではないにしろ本と手が離れないんじゃないかと思うくらいに本を欠かさず携帯している長門ならあれくらいの本も数週間あれば読みきってしまいそうな気がしなくは無い。歴史書とかも読めていたようだから文字が読めないなんてことにはならないだろうし。
ただしもし文字が読めたとしても俺が1人でやったら最低年単位は掛かるし、その前に放り投げるだろうな。
「長門とやら。それは真か?」
「可能」
「ふむ。ならば手伝っては貰えぬか。儂もここしばらく活字を離れておっての。正直儂1人で読みきるのは少々難儀なことだと思っておったところなのだ」
「構わない」
「あたしはやらないよー?」
聞かれてもいないのに菖蒲さんが先手を打って答える。この人、谷口といい勝負かもしれん。駄目さ加減が。
「端から菖蒲に期待などしておらん。どうせ暇なのであれば、キョンと……名はなんだったか」
「あたしですか? 朝比奈みくると言います」
「朝比奈か。その2人を連れて館の中を回ってくるといい。とは言うてもせいぜい一刻程度しか掛からぬであろうが。……ああ、それと蓬に朝比奈と長門の2人が見つかったからもう来るのを待つ必要は無いと言っておくが良い」
「んあー、分かった」
相変わらずしなびた青菜のようにちゃぶ台の上で伸びている菖蒲さんは本当に外へ出る気があるのか怪しい。
呆れ顔でその様子を見ていると朝比奈さんが俺の肩を叩いた。
「あの、キョン君。蓬さんって誰ですか?」
そういえば”あれ”を朝比奈さんは見てないのか。
「人ではなくてですね……」
なんと言えばいいだろう。キメラという言葉で理解して貰えるとは到底思えないから、そのまま見たままを伝えるのがいいだろうと思う。
「簡単に言うとものすごく大きなライオンに羽が生えた奴です」
「……え? あの、それって何のたとえ話なんですか?」
「たとえ話でも何でもなくて、ライオンに羽が生えた奴がその蓬って名前の生き物です。菫さんのペットだそうで」
「…………」
酸素不足の金魚でもこんなにぱくぱくと口を開けることは無いだろうと思うくらいの頻度で口を開けて閉じてを繰り返した朝比奈さんは何事か言いたそうだったのだが、ようやく言葉が出てきたのはさっきまでやる気ゲージゼロを振り切ってマイナスまで行ってると思われていた菫さんが、菫さんとは対照的に俺らと近い薄手の洋服の上に着ていた俺と同じような鎧を再度着た後だった。
「え、えっと……あの、あたしはやっぱりいいです」
しどろもどろになりながら控えめに辞退を申し出る朝比奈さん。
「んー? 何で? この館って結構楽しいよ。鍛えるところもあるし、遊ぶところもあるし」
「えっと……あ、そ、そうだ。ご飯の時間ですよね、そろそろ」
「忘れておった。その為に呼びにいったのであったな」
確かに菫さんが俺と合流したときにはそんなことを言ってた気がする。
「じゃあ準備だけしてから行こう。今日は人多いし、鍋とかいいかも」
「となると蓬のところまで降りなければならんのう」
「だね」
「な、何でですか?」
「あの部屋は畑も兼用しているからね。いつでもてかてか明るいから成長も早いよ」
「一般的に日照時間が長ければ長いほど成長は早いが、短日植物においては開花時期が遅れる。必ずしも日照時間が長ければ長いほど良いというわけではない」
「そーなんだ? ってことはたまに日に当てなければいいってこと?」
「ではない。日照期間を徐々に短くしていけば良いということ。ただし長日植物という逆の植物も存在する」
「なるほどね、全然わかんない。とにかくあそこは暗くできないからまああれでいいよ」
なんだか話がどんどん脱線しているが、結局どうするんだ?
「みくるが嫌なら仕方が無いよ」
「そ、そうですよね」
ところで俺に拒否権は無いのか。
「無いよ!」
即答された上に指差された。
「キョン君。君には荷物持ちという重大な指名があるのだ。心してついてくるように」
「館の案内じゃなかったのか」
「それもするけどね。最後には荷物持ち」
「……分かったよ」
何かもうこういう扱いには慣れてきた自分が悲しい。