「よう、長門」
「……?」
「とりあえず、”ごっこ”は終わりだ、長門。全部、もう分かったからな」
「……そう」
 病院からちょい離れたところ、林みたいなところの中に、長門は一人ぽつんと立っていた。無論、そこをピンポイントに俺が探し当てる確率なんて、道端で札束を見つけるくらいの確率だろう。もちろん、ここを教えてもらってきた。
 何かおもしろいものでも見えるのか、長門は俺をちらりと見てから、最初そうしていたように、空をじっと眺めるのに戻った。
「最初おかしいと思ったのは、長門が最初にジュースを運んできたときだ」
 長門の隣に並んで、空を見上げる。残念ながら、俺としては特におもしろそうなものは見られなかったが。
「誰が言ってたんだっけな……、古泉だったかもしれん。まあ、それはいいとしてだ。日頃の癖が残ったままだったらな、オレンジジュースより緑茶持ってくるだろうな、と思ったわけだ。初めてお前の部屋に連れて行かれたときには、緑茶を何度も注いでくれたしな」
「……そう」
 互いに視線は外さないで、会話を続けている。これ、傍から奇妙な光景だろうな。
「そこらへんは、たまたま緑茶がなかった、という可能性が否定できない。だから、それだけじゃおかしいという証拠には足りないもんで、次にお前が記憶喪失になったか、それを考えていくと、どうも不自然な点が多くてな。もし、曲がりなりにも、同じ情報統合思念体っつーものから作り出されたんなら、朝倉や実希が慌てないのはおかしすぎると」
「情報統合思念体には、名の通り、複数の思念が集合して、」
「いや、そういうことじゃなくてだな」
「?」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、
「仲間っていうか、そういう意識があるもんだろうと」
「仲間?」
「ああ、仲間だ。SOS団、今はSON組だが、そういう同じ集団に居る奴のことを、仲間って言うんだ。そういう仲間になると、その内嫌でも仲間意識ってのが出てくるもんだ。好意的にしろ、好戦的?かよく分からんが、それにしろ、意識的にしろ、無意識的にしろ、な」
「……そう」
 丁度いい位置に切り株があったから、座ることにする。長門も半分使えよ。
「分かった」
 頷いて、隣に座る長門。俺は会話、と言ってもほとんど俺が一方的に喋っているだけだが。
「それなのに、あの二人が態度をさっぱり変えないから少し気になってな。今よく考えてみれば、あいつら、いつでもあまり表情変わってなかったような気もするが」
 本当に今更過ぎる。喋りながら気づいたぜ。あの二人は長門と同じ、表情を変えないと言う意味ではポーカーフェイスだった。ま、最終的には正解に辿り着いたからいいとしよう。
「まあ、それでもだ。長門が危険な事態になっているのに、あんなにあっさりとしているのがあまりに奇妙だったわけだ。俺の知らない敵が居るとしたら、朝倉や実希にも危険が及ぶはずだから、暢気にしていられないだろうし、何かと理由をつけてSON組欠席するはずだ。それをしないとなったら、残りは大分絞られる」
「そう」
「で、最後にかかってきた電話。”朝倉がトイレに行っている間、実希が飲み物を買いにいった”って話だ。部屋で長門が飲み物を取りにいったときみたいに、ちょっと目を離した隙に居なくなるかもしれない、と分かっていたはずだ。そんな状況で、どっちもが長門の傍を離れるようなことはしないだろうさ」
 相変わらず隣で、空ばかり見上げてる長門に言う。何かが見える、というより視線をあまり合わせたくないんだろう。
「そうすると、長門が”記憶喪失のふりをしている”という結論に達するわけだ。その上、朝倉と実希が一枚噛んでる、と見るのがごく自然ってところまでな。大体は正しいか?」
「正しい」
「そうか」
 まあ、ここまで言わなくても何で俺が分かったかは途中から分かっただろう、こいつは。なんといっても、宇宙を統括しているだったか、銀河を統括しているだったか忘れたが、そういう親玉を持ってるくらいだ。
「じゃあ、1つだけ質問だ。なんでこんなことした?まさか、推理ごっこをさせるために、こんなことしたとは思えないからな。何か理由があるんだろう」
「……」
 答えられない、ってことか。
「前、朝倉涼子の部屋で、テレビというものに、記憶喪失という有機生命体が映し出されていた」
「……つまり、それを真似してみたかった、と?」
 こくり。
 こいつは頭が良いのか、悪いのか、さっぱり判断がつかん!
 有機生命体を調べるため、ってことでいいんだろうか。だったら、もうちょっとマシな方法もあったと思うが……案外、ヒューマノイドインターフェースとやらは、不器用なんだろうか。
「ま、いいか」
 向こうからハルヒ達が来るのが見える。朝倉と実希も一緒だから、場所を教えたんだろう。
「ちゃんと、自分で言えよな?」
「…………言う」
 短くそう言って、長門も切り株から立ち上がる。

 長門。
 お前がどう思っているかは知らないが。
 少なくとも、ここに居るメンバーは長門のことを仲間だと思ってるぞ。もちろん、俺も含めてな。
 今回は、ちょっとだけ、心配されてみたかったんだよな。
 大丈夫だ、みんなお前を信じてる。
 だから、なんかあったときはちゃんと呼べよ。全力で、お前の元にみんな集まるからな。
 そんなことを、本当のことを言って、ハルヒに怒られ、もみくちゃにされ、朝比奈さんには泣かれていた長門に、心の中で言ってやった。