長門の記憶喪失騒ぎから明けて翌日。
「さあ!」
 はいはい。テンションを通常レベルに戻したハルヒの意向により、花見が決行された。と言っても、割と天気が良い日に恵まれて、確かにSON組の総本山はまあまあの日当たりとはいえ、燻っているのはもったいない気がした。
 まあ、この急なハルヒの提案は、そういう意味よりは、気分転換的な意味合いの方が強いのかもしれない。まあ、真意はどうであれ、ここは素直に花見を楽しむのが得策だよな。
 割と、というより非常に急な花見だった割に、時期が早いからだろうか、花見客は多からず少なからずといったところで、場所は選り好みしなければ、場所はいくらでもあるという感じだった。
「んー……、やっぱりいい場所はほとんど取られてるわね……」
 そりゃそうだ。会社なんかは、新入社員が前日から花見の場所取りとかするらしいし、突発イベントでいい場所がゴロゴロ空いてるほど、まだ花見というイベントは廃れてはいない。
「いい場所を探すなら、やはり人海戦術がいいと思いますが」
 古泉が爽やか笑顔でハルヒにそう提案する。
「そうね。この人数いれば、いい場所の1つや2つや3つや4つくらい見つかるわよね」
 そんなにいい場所を見つけてどうする。それに、ハルヒ的にいい場所という単語が、どういう場所を指し示すのかを教えてほしい。
「人があまり回りにいなくて、静かなところ。で、桜が綺麗に咲いているところよ」
「と、言われても……」
 朝比奈さんの声に釣られるように、辺りを見回す面々。
「その2つに当てはまるのは、なかなか至難よね」
 全くだ、と朝倉の台詞に同意する。
 割と分散して座っているようで、静かな場所を探すだけでも一苦労といった感じだ。
 ましてや、その中で綺麗に桜が咲いているとなると、正直無茶とか無謀という、ネガティブな単語でしか言いようが無い。
「とにかく、探すわよ!」
 まあ確かに、ここでうだうだ言っていても何も始まらない。できるだけ、ハルヒの御眼鏡に適うような場所を見つける、見つかってくれることを祈るのみ、だ。

「へー、やるわね。意外に残ってるものじゃない。キョンの割には良くがんばったわ」
 数十分して。
 俺がたまたま見つけたその場所は、ハルヒが期待していたものに大きくは相違なかったらしい。1本しかなかったが、太い幹に爛漫と桜が咲き誇っているその場所は、少々花見場所から離れているために静かで、かつ春風に揺らされるだけでひらひらと舞い散るくらいに、満開だった。
 ほかの場所は、まだ8分咲き程度であるところからしても、確かにベストポジションだったと言えるかもしれない。
「よし、今度からキョンは花見の場所取り係ね!」
 それは勘弁してくれ。
 そんなことはお構いなしに、ハルヒはビニールシートを広げ、どっかと桜に一番近い場所に座り込み、「みくるちゃん、お弁当」と朝比奈さんを呼ぶ。朝比奈さんはお弁当じゃないし、お前の女中じゃないんだぞ、と心の中で諌めるが、正直あいつが言って聞くやつじゃないことは分かっているので、声に出すのはやめておくことにする。
 みんながビニールシートに座って、ハルヒの「いっただきまーす」の声と共に、各々食事をし始めると、ハルヒがこんなことを切り出した。
「そういや、桜の木の根元って、よく死体が埋まってるとか言うわよね」
 食事中に何を言いやがるんだ、こいつは。それに、よくは言わんぞ。朝比奈さんが怯えちゃったじゃないか。
「だって、そういう話聞くでしょ」
 聞かないことは無いが、時と場合を考えて言え、そういうことは。
 ただし、よく見ると、何故かこの辺りは地面が一部掘り返されたように色が違っているところがあったりして、その言葉を裏付けているような気もした。
 弁当を大体平らげると、ハルヒは何かを持ち出した。それはまさしく、
「……スコップ?」
 どう見てもスコップだった。大きいのではなく、花壇とかに使う小さい方。
「そうよ」
 何をする気だ、と言わずもがな。
「おい、勝手にそんなことするなよ」
「何よ。まだ何もしてないでしょ」
「しなくても、やることは予想できる」
 桜の根元を掘るんだろうが。
 用意周到と褒めるべきか、そんなことを考えている不埒なやつに制裁を加えるべきか。まあ、どちらにせよ勝手に人の土地を掘り返すなんていいわけないだろうが。
「ちょっとだけよ。それに、誰か掘り起こしたことある感じだし」
 だからといってやっていいというわけじゃない、と言うとるに、こいつは結局掘り始めた。人様への迷惑より、自分の好奇心を取りす、
「あれ?」
 高めの音と共に、それは発見された。ま、まさか、
「何かしら、これ」
 明らかに朝比奈さんが怯えだした。それを鶴屋さんが「大丈夫っさ」と慰めている様子は、雷を怖がっている子供をあやす親のようで、ってそんなことは今は重要ではない。
 長門が先にハルヒの隣で、スコップを持って、っておいおい、こっちも持参かよ。まあ、ハルヒと一緒にその音の原因を掘り返している。
「これ……ビン?」
 ハルヒが取り出したのは、牛乳とかが入ってそうな、少々厚めのビンだった。土まみれで、中の様子が分からないが、昨日今日に埋められたのではない感じが漂っている。
 ってかよく考えたら、骨はこんな高い音しないな。
「中は、入ってないわね」
 つまり、誰かが捨てただけってことか。
「なーんだ、つまんないわね」
 もうこれ以上は、と言った所でハルヒはまた新しく何かを探そうと土を掘り始めた。そのちょっと離れたところで、長門が黙々と。だから、そういうことは、
「……あった」
 再び何か硬いものにスコップが当たる音。
「何?」
 ハルヒが慌てて近寄ると、また牛乳のビン。こちらは完全に壊れていて、中まで土が入り込んでいる。
「……有希。あたしたちはゴミ拾いしてるわけじゃなくて、何か不思議なものを探しているのよ」
 いつから花見は不思議探しをする場所になったんだ。
 それからしばらく、ハルヒと長門は掘っては休憩、掘っては休憩を繰り返し、大したものは特に見つけられずに暗くなってきた。もう、ここまで来たら、誰も止める人は居なかった。
 とりあえず、掘り返した場所は土を埋めなおしているが、見つけたビンや缶などは、せっかくだからSON組の表の活動の一環として、分別して捨てようということで、土に埋まっているもの以外にも、近くに落ちているゴミなんかを拾って集めていたりしたら、いつの間にか肌寒くなってくる時間になってしまった。
 最近、SON組が本当の奉仕団体になってきている気がするが……気にしたら負けだよな。
「花見だったはずなのに、なんだか違うことで疲れちゃった気がするわ」
 誰のせいだ、誰の。
「まあ、これで最後ね」
 結局あの後も諦め切れなかったらしく、ビンが3つハルヒの手元に残されていた。
 一つ一つ確認していくと、二つ目のビンで、
「何、これ」
 とハルヒが声を上げた。取り出したのは、
「封筒ですね。それも、割と新しい」
 実希は、度が一番あう場所を探すように、眼鏡を動かしながら言う。ああ、目と頭がおかしくなってなければ、俺も封筒だと思う。
 白っぽく飾り気の無い封筒だった。ハルヒは汚れた手をウェットティッシュで拭くと、封筒を開く。
「えーっと、”前からあなたをお慕いしていました。このような形で愛の告白をするのをお許しください”……って」
 こいつは、いわゆるラブレターってやつじゃないか?
 春の暖かさにはまだ遠い夜風を受けながら、ハルヒは退屈しのぎの事件を掘り当てちまったらしい。