「文化祭があることを忘れてたなんて失態もいいところだわ」
「そうだな」
 というか今の今まで忘れてたのが1番驚きだ。こいつはこういうお祭りごとは絶対に乗り遅れない人間だったし。実は記憶が無いだけで、こいつもあっちの世界の疲れが残っているという可能性もある。正確には脳の疲れとも言うべき、見えない疲れだが。
 じゃあ俺がちゃんと覚えていたのかといえば実はそうでもなかったりする。朝のHRとかは寝ているかハルヒに突付かれて相手をさせられているか、帰りのHRも似たようなもんだ。
 クラスの出し物に参加する気の無い俺とハルヒ、そしてやる気が無いどころかやる気の塊とも言っていい鶴屋さんは今日は特にやることが無いらしく、同じく文芸部でやることが無かったらしい実希とレースゲームに興じていた。
「有希とか実希とか朝倉さんがやけに来ないことが増えたと思ったら、そういうことだったのね」
 あのソフトももしかすると文化祭で発表するのかもしれん。
「そういえば何かトンカチの音とかも聞こえていたな」
 翌週末が文化祭だから既に1週間を切っている。今年は随分遅い気がするが、何もこんな時期にやらなくてもと思うね。
「インフルエンザの蔓延がどうのということで延び延びになっていたらしいですよ。で、さすがに生徒側からもう待てないってことになってこの時期に」
「1番インフルエンザが広がってて危ないって言ってるのにやるってのはなかなか勇気ある決断だと思うけどねっ」
「そうですよね」
 我がSON組の組長である長門有希は既にご存知のようにコンピ研、そして実希と共に文芸部も兼ねている。また朝倉はクラスでの出し物について話し合いがあるらしく、最近出入りを繰り返している。その理由は良く分かっていなかったが、なるほど文化祭ともなれば理解できる。
「なんかコンピ研に負けてるってのは癪に障るわね。SON組も出し物を何か出すべきよ」
 そう言って毎年何もやってないんだけどな。
 というかこのSON組でそもそも何の出し物をやるんだよ。出し物になりそうなものはないぞ。
 もし何らかのUMAなんぞでも捕まえていたとしたら展示するなんてこともできそうだが、残念ながらそんな功績は無い。今からそれらしいものを……って何真面目に不真面目なことを考えているんだ。どこの高校でUMAの展示なんかやってるところがあるってんだよなあ。
 しかし文化祭か。
 初めての文化祭から1度も楽しんだという覚えがさっぱり無いな。最初の文化祭はそれでもなんだかんだでハルヒが率先してビラ配りをやってくれたお陰でこっちとしてはやることが少なくて助かった。当日までに散々苦労したからそれくらいは当然の権利だとは思う。
 あれ以降の文化祭はあまり覚えが無い。1回は宇宙人なんかが紛れ込んでるかもしれないと捕獲作戦をやったことを覚えているが、他に何をやったかなと首を傾げるくらいだ。
「たまには文化祭をのんびり楽しむのもいいんじゃないのか?」
「駄目よ、そんなの」
 何でだよ。
「そんな消費だけに回るなんていう受動的な考え方では世の中回らないのよ。何かを消費する前に提供する側に回る。その上で何かを受け取ってこそ生きてる価値があるってものよ」
 ただの文化祭でなんでそんな社会の仕組みまで考えなきゃならんのだ。祭りの日くらいはもっと力を抜いて楽しませてくれ。
「あ、そうそう今年もうちは喫茶店やるっさ。割引券もあるからぜひともうちに寄って欲しいっさ!」
「喫茶店ね……」
「言っておくが、うちで喫茶店は無理だぞ。顧問も居ないしな」
「面倒だしそんなことやんないわよ」
 面倒と言い切りやがった、こいつ。
「人数も足りないし。みくるちゃんと鶴屋さんは参加できないだろうしね」
 無理やりこっちに参加させるって言うかと思ったが。
「そこまでできるわけ無いでしょ。いくらなんでもそんなことしたらきっとみくるちゃんたちのクラスの人間が激昂して飛び掛ってくるわよ。あたしだって無用な争いは避けるようにしてるのよ」
 なるほど。俺を勝手に数に入れてるのは、クラスに居ても居なくても大したことないだろうから、連れて行っても問題ないということか。
 確かにクラスの連中の中では谷口か国木田くらいしか話をする相手が居ない。それもこれも涼宮ハルヒという人物に捕まってハルヒの下僕その1という理解をされてからというもの、あのハルヒに対して注文をつける馬鹿などおらず、既にクラス全体が諦観の域に達している。今更そこを訂正することもできず、この先も卒業するまではこんな扱いなんだろうということは疑う余地も無い。
 故にクラス全体で涼宮ハルヒの付属品的な扱われ方をしている俺を教室での仕事に駆り出すことはできないとの共通観念があると考えていい。
 数年前まではその他の部員も俺と同じように全員使えると信じて疑わなかったようだが、ここんところでさすがにそれは無理だと理解してきたようだ。俺だってそうであってほしいのだが、まあ暇だから仕方が無いか。別に他に入りたい部活があったわけでもないしな。
「何か無いかしら」
 未練があるらしいハルヒはうわごとのようにそれを呟いていて、それはさながら呪術師のようだった。