長門の「そうでもない」という言葉通り、ハルヒが「深山さん恋愛後押し大作戦」の発案後の翌日、日野正治という人物の家が見つかったとの連絡が家に入った。
 それ以前に、深山さんにその彼の家が何処にあるか、直接聞けば早いんじゃないか。そう言うと、深山さんは「家がどこにあるか知りません」。結局長門達が最強の情報網を使って、見つけてきたらしい。
「で、長門。どうするんだ、ここから」
 俺と長門は由緒正しい家柄、という空気が嫌というほど感じられる日本家屋を前にして、正直ちょっとビビっていた。正直、呼び鈴を鳴らすのも、初めて動物を触るがごとく、手を出しては引き、出しては引きをしてしまうくらいである。
 まあ、呼び鈴を鳴らして、「知り合いです」とか正面から行っても、「誰、あんた」でおそらく門前払いされるのがオチじゃないかと思う。ここまで来たのに、それで追い返されたら正直困るぞ。
 ちなみに、ここに来ていないメンバーは、「奇跡を起こす」ための手伝いをしているらしい。あっちもあっちで、がんばっているようだから、こっちとしてもなんとか成果をあげたいところではあるんだが。
「こっち」
 長門についていくと、そこは家屋の外壁だった。
「えーと、長門さん?」
 思わず丁寧語になる。
「何」
「もしかして、ここから不法侵入しようとか、そういうことを言いますか?」
「そう」
「はぁ」
 ぽんぽん、と長門の肩を叩く。
 長門、俺はまだ犯罪者になる気はないぞ。
「大丈夫。情報操作はしてある」
 そういう問題じゃない。というか、したのか、情報操作。
 何にしてもだな、見られてなければそういうことをしていいかと聞かれれば、やっぱりダメだろう。
 って、ちょっとよそ見している間に、長門は外壁にしがみつき、よじ登り始めた。割と高い外壁は、よじ登っている間に不審者で見つかること間違いなし。
 おい、長門、やめておけ。ばれたらまずいって。それ以外にも、いろいろとまずいんだ。特にその制服のスカートとかだな、
「?」
 ……ああ、もういい。とにかく、やめてくれ。
「大丈夫。情報操作で、外壁に上っても他の人間には気づかれないようになっている」
 と、直後に背後を通る自転車。明らかにその位置からは長門が見えるはずだが、一顧一瞥もくれることなく、通り過ぎた。確かに、大丈夫らしいな。
 「見つからない、大丈夫だ」とは言われても、精神的に不安になるのは誰でも同じだろう。故に、かなりおっかなびっくり人が居ないのを確認しながら、長門の後をついて塀をよじ登った。
 しかし、今回のチーム分けは妥当だったと思う。もし、ペアがハルヒだったら、突然チャイムを鳴らして「日野正治さん居ますか?あたし達友達なんですけど」とまくし立てて、追い返されるだろうし、下手すると警察沙汰になるかもしれない。朝比奈さんなら、一向にチャイムを押さないだろうし、朝倉なら進展しないとかいって、ナイフでぶすりといきそうだ。実希は長門に近いが、あいつはあいつで能力が長門ほどじゃないだろうしな。
 かといってだ。長門1人で行かせるとなると、コミュニケーションに課題大で、同様に突っ返される可能性もあるし、古泉が長門のコンビだと胡散臭さが倍加しそうだし、唯一の常識人、と自分で言うのもなんだがね、俺が行くのが妥当だろう。
 壁の上に2人で上りきった後も長門についていくと、途中で壁から屋根へ移動を開始。
 どんどん嫌な予感がしてきた。
「直接部屋に乗り込む」
 尋ねる前に長門から。的中したらしい。
「乗り込むって、乗り込んでどうするんだ」
 まさか、「深山静香という人が会いたがっているので、会ってください」と言うつもりか?
「そう」
「無理に決まってるだろう」
「何故?」
「あのな、突然知らない人が家に入ってきて、それも窓から不法侵入だ、会って欲しい人が居ますので、すぐ来てくださいとか言われて、ほいほい付いていくヤツが居ると思うか?」
「……?」
 だめだ、やっぱり分かってない、こいつは。
 とかなんとかやっている場所も忘れ、思わず声が大きくなっていることに気づかなかったことを後で後悔した。いや、これがきっかけといえばきっかけになるわけだから、結果論としては吉だったのかもしれないが。
「なんだか、随分と近い場所で声が――」
 一番近い窓が開き、青年が顔を出す。
 顔は古泉みたく、どっかでアイドルでもやってそうだなという印象で、しかし古泉みたいにむかっ腹が立たない程度の美形だった。これで頭も良いなら、さぞかしもてるのだろうな。
「君達は?」
 って、こんな冷静な観察をしている暇は無かった。長門、逃げるぞ!
「あ、ちょっと待って」
 待てと言って、待つ人間は居ない!
 慌てて外壁の外まで逃げて着地成功。やれやれ、あのままぼーっとしてたら、警察に突き出されていたかもしれん。なあ、長門。
 ……長門?
 振り向くと、あいつは窓際でさっきの男と話していた。おい、何してるんだ!
 しばらくして降りてきた長門は、「表に」と言ってすたすたと歩き出してしまった。さっぱり状況がつかめない俺は、この場で留まるべきか数秒考え、いざというときに長門が一緒にいた方が安全だろうという結論に達し、長門のすぐ横に並ぶまではほとんど時間がかからなかった。
 表までやってくると、さっきのハンサムボーイの出迎え。仕方が無い、おとなしく警察に突き出されるか。
「さあ、中に入って」
 ……さて、事情がもっとつかめなくなってきたぞ。