もうすぐ正月だ、というのは周知だろう。まあ、そのために街行く人はほとんどがが忙しそうにしているしな。しかし、ここSON組の組室はそんな世間様とは違い、今日も平和だ。
「行くわよ、えい!」
 全力で独楽を投げるハルヒ。ぶんっ、と風を切る音と共に独楽が飛び、次第に速度を落とし最終的にへろへろと落下する。
「なんで回らないのよ!」
 SON組には誰が持ってきたんだ、日本伝統の正月の遊び道具が揃っていた。羽子板、独楽……む、凧まであるのか。こっちはかるたに、福笑い。
「独楽は投げるだけじゃなくて、投げた後に紐をひかなくてはいけないんですよ」
 古泉がやってみせる。独楽は床で綺麗に回るのを見てもう一度紐を巻きなおし、「よし」と気合を入れて投げるハルヒ。
「えい!」
 綺麗ではなかったが独楽は回転した。
「あとは独楽を投げるときに床と平行に投げることですね。斜めに落ちると回転の軸が不安定になりますから」
「分かったわ」
 回転を止めて、もう一度投げなおすハルヒ。横では「やっ!」と朝比奈さんが独楽を投げ、べしん、と床に転がるのを鶴屋さんがけらけらと笑っている。そのまた横で、朝倉はひときわ大きい独楽を回している。
 そして組長とその妹はというと、こんな日までも本を読んでいた。なあ、いつも本を読んでるが、こういうときくらい遊んでみてもいいんじゃないか?
「……そう」
 ぱたんと本を閉じ、残っている独楽に紐を巻きつけ投げる。
「おお」
 床に落ちるかと思った独楽は紐を引き上げると同時に、長門の左手に乗る。
「手を出して」
 あ、ああ。こうでいいか?
「力を入れて」
 俺の手に回転中の独楽を乗せる。お、おっと!すごい…な……。
「……」
 長門よ、そこまで本を読みたいか。
 俺の手に独楽を乗せた長門はまた彫像に戻っていた。実希は立ち上がりもしてないし、本当にこの姉妹は本の虫という表現が似合い過ぎる。
「有希、その手に乗せるの教えて」
「……」
「せっかくですし、みんなで遊びませんかぁ?」
「………分かった」
「…そうですね」
 読書に戻った長門、反応さえしなかった実希、どちらも本を閉じて立ち上がった。しかし、独楽を手に取ろうとした瞬間である。
「そろそろ独楽も飽きたわね。次は羽子板よ。教室…じゃ狭いわね」
 自分の羽子板と羽を持って出ていくハルヒ。おいおい、独楽を手に乗せるんじゃなかったのか。
 そんなこともお構いなし、扉を開けてから振り向く。
「それぞれ羽子板を持って裏庭に集合よ。全員来なさい!」
 羽子板を振り下ろして宣言し、走っていくのを見ながら…結局またこのパターンか。

 裏庭に集合した面々。やる気満々なのはハルヒと鶴屋さん、逆にやる気がないのは、始める前から結果が見えている朝比奈さんと俺。その他は我関せず、といった面持ちだ。
「じゃあ、とりあえずまずは肩慣らしよね。みくるちゃん、やるわよ」
「は、はい!」
 残りそれぞれのメンバーが分かれる中、残ったのは長門と俺だ。ちなみに、残りは鶴屋さん・古泉、朝倉・実希コンビ。
「長門、打ち返してくれ」
 羽を拾って軽く打ち出す。直後、帰ってきた羽は瞬時に背後の校舎にめり込んだ。…し、死ぬかと思ったぞ。
「打ち返した」
「力の加減というものをだな…。あれは当たったら死ぬぞ」
「そう」
「肩慣らしだから、軽く頼む」
「善処する」
 壁にめり込んだ羽を、熱っ!羽を振って冷やし、もう一度打ち出す。今度は打ち返せるくらいの速度だ。これくらいで頼む。
「分かった」
 かんっ、かんっ、と乾いた音を打ち返していくとだんだん楽しくなってくる。いいな、正月気分で。
 周りのメンバーを見てみる。ハルヒは、
「こら、みくるちゃん!ちゃんと打ち返しなさい!」
「は、はい…わ!」
朝比奈さんにスパルタ練習、鶴屋さんと古泉はどちらもやりなれている感じで随分長く続いている。そして、
「上手ね!」
「あなたもです」
さっき長門が打ってきた速度ほどではないが、目にも止まらぬ速さと言っていいだろうというくらいの速度で朝倉VS実希の試合が展開されていた。ああ、もう既に肩慣らしではないな、これ。
「なあハルヒ」
 丁度羽が地面に落ちたため、ハルヒにさっきから気になっていたことを尋ねる。
「これは正月にやるものじゃないか?まだ正月じゃないぞ」
「……わ、分かってるわよ!だから肩慣らしって言ったじゃない」
「正月に遊ぶときの肩慣らしか?」
「そうよ!」
 そういうことにしておくか。
「…帰るわよ!」
 相変わらずわがままな超顧問を先頭にぞろぞろと帰っていく中、こんこんと羽を一人で弾いている長門が目に入る。そうか、なんだかんだいって気に入ったみたいだな。
「長門」
「何」
「…正月、一緒にやろうな」
「………」
こくんと縦に首を振る。
「分かった」