大晦日。単なる1日でしかないが、1年の終わりであるというのは大きい。
「1年の締めくくりはやっぱり反省文と来年の抱負を書くことよね」
何処の誰がそんなもんを決めたんだ。今までそんなことやった覚えが無いぞ。1年を振り返ったことなら確かにあったけどな。
「今、あたしが決めた」
相変わらず勝手なハルヒは悪びれも無くそう言い放った。大体予想はしていたので別に不思議でも何でもない。むしろ緻密な計算の上に立つ理由でなくて安心したくらいだ。
「でも悪い話ではないと思うかなっ。今までやってきたことを反省するのは大切なことだよっ。後、ついつい過去ばっかり見がちだけど、反省してその先を考えるっていうのはこれまた大切なことだしねっ。こういう節目の日にやるべきことだし、いいんじゃないかなっ」
「そうよ、キョン。何も考えずに生きてたら人生長くてせいぜい100年。これを超えられるとしても、今みたいに元気でも健康体でもない可能性のほうが高いわ。だから生きている間に短い目標、ちょっと長い目標、そして長期的な目標を立てていつもそれを見直すのよ。年の初めの目標がそれだけ達成できたかを確認する。全然目標達成できていなかったらそれから頑張ればいいの。でも目標立ててなければそれすらもできないんだから」
面倒だからそんなことやってられそうにないな。
「そうやって諦めるのがいけないの。1年の初めからそんなテンションじゃ来年の元旦も同じような状態で迎えることになるわよ。絶対にどうにかしてやるって考えながら書きなさい。そうしたら今年も少しくらいは楽しい方向に動こうとしてくれるわよ」
だろうか。そう簡単な話ではない気がするが、新年初っ端から辛気臭い顔で迎えていたら福も確かに逃げていこうってもんだ。だったら楽しくやる方が確かにマシだろう。
ハルヒに渡された『今年の反省』と『来年の短・中・長期目標』という紙に目を通し、目標を考えてみる。
まずは反省か。そうだな……なんだろう。
珍しく今年は今まで以上に勉強も頑張ったし、奇妙な世界にも何度か連れて行かれた上に、そこで一般人でありながらもそれなりに頑張ったと思うぜ。これには書けないけどさ。
後はなんだ。数日前に今年を振り返ったときに特別、表立って何かがあったかといえばあまり無かった。SON組としての記憶は遊びに行ったことばかりだ。
となると俺が書けそうな反省事項はないってことになる。それは……どうなんだ?
1年間生活してきて反省すべき点が無い人間なんていないと思うのだが、自分が実際思い出す限り言えそうに無いものしかないから仕方がないな。ハルヒに言えないようなことであれば、何か自分で対処できないようなことがあったらとにかく長門やその筋の専門家を早めに頼れという反省があるが。
じゃあ目標はどうする?
即物的な目標は正直言ってどうかと思うし、かといってそうじゃなければ何をどうすべきかと考えたらさっぱり思いつかないのも事実。
「キョンはまだ書いてないわけ? 難しいこと考えずにささっと書いちゃいなさいよ」
「そういうお前は何を書いたんだ」
「あたし? あたしはこれ」
ハルヒの差し出した紙には、反省が『去年は宇宙人に会えなかったこと』であり、短・中・長期目標がそれぞれ『どんな宇宙人でもいいから会う』、『一緒に学校生活を楽しむ』、『宇宙人関係のテレビに出る』となっていた。実にハルヒらしい内容だな。
「みくるちゃんたちも書き始めてるわよ。何にも書いてないのはあんただけ」
確かに他のメンバーは全員、シャーペンを滑らせている。そんなにすらすらと出てくるほど書くことはあっただろうか。
……ハルヒが言い出したダイエットでさっぱり減量できていないどころか、逆に体重が増えてきたというのくらいしか思いつかないぞ。おそらく脂肪ではなく、筋肉量が増えてきたからだとは思うが、減量するために運動しているというのにそれがむしろ体重を増加させるという結果を招いたのならば減量作戦自体は失敗といえよう。
後はさっき言ったように遊びに行った記憶しかないから遊びすぎたこともそうかもしれないが、SON組に身を置いている状態で遊ばずにもっとまともな活動をしろというのは素直に言って無茶だと思う。このSON組の存在を根本から否定することになるわけだし。
目標は……ダイエットの目標じゃちょっとな。駄目ではないだろうが、あまり良いとも言えない。
ならばこうか。
「何よこれ」
「別にいいだろ」
俺の反省と目標を見て口を二等辺三角形にするハルヒ。
目標は目標。達成できるかどうかは分からないけれども、それを達成しようとする努力が見えればいい。所詮目標なんてもんは自己満足でしかないんだし。
だったらなんでもいいだろう。この『まともな生活をする』ってのだって立派な目標だ。後、『だらけすぎた』ってのも反省として十分だな。
「何のために短・中・長期に分けたと思ってるのよ」
「徐々にまともな生活に戻していくって意味だからな。どれを取っても同じなんだよ」
単に短期と中期で細かく目標が思いつかなかっただけとも言う。
「それに何をもってまともとするか、よ。今だって十分にまともな生活できてるじゃない。それとも何? お小遣いでも貰えなくなって何も買えなくなったとか?」
「さすがにそれは無いな」
「じゃあ何なのよ」
「これでもいろいろあるんだよ」
「意味分かんないわよ」
呆れたため息をついたハルヒは俺が目標を変える気が無さそうだということを理解してからは特に何も言わなくなった。言っても無駄なら言うだけ時間の無駄だもんな。いつもの俺とハルヒの立場が逆になったって感じだ。
ま、本当の意味でまともな生活に戻れるとは思えない。だったらいっそのこと、今のような生活をまともと思い込む方が気は楽だ。
そんな方向も含めて、まともな生活を送れるようにしたい。最終的にどう転ぶかは分からないが。今必要な目標といえばそんなもんだ。
日本の大晦日に毎年やっている音楽番組を見ながらそんな風に、他人事みたいに思った。