「あーもう! ほとんど逃げてばっかりじゃないのよ」
「そりゃお前らが俺ばっかり狙うからだろうが」
 どうにか逃げ回りつつ、見つかったら目くらましに雪玉を投げて逃げるというのを繰り返してどうにか前半戦は終了。既にもうバテバテだが、どうにか終わって一息。
 これで後半戦までやろうとなるとどう頑張っても逃げ切れそうに無いな。あれだけ走ったというのにハルヒも鶴屋さんも割と元気で、長門に至ってはいつも通りの読書タイムで全く呼吸も乱れていない。
「俺相手にこだわる必要は無いだろ」
 タイマンならまだいいが3対1、それもその分類が下手すりゃ男子よりも運動神経の良いハルヒと鶴屋さん、まず人間と比べるのが間違っているレベルの長門が相手となったらどう考えても俺に勝利の予感すらない。
 いや、勝利を収める必要は無い。せめて勝負になればいい。勝ったらむしろ後々のハルヒが怖いからな。
 だがさっきの状況だと真っ向勝負したところで善戦どころか雪だるまになるまでさほど時間は掛からなかっただろう。
「後半は出会ったら最低でも10分は逃げるの禁止にした方がいいわね。そうしないとさっきみたいに単なる追いかけっこになるわ」
「だったらせめて既に戦ってる相手が居た場合に参加できるのはやめにしようぜ」
 あの状況じゃいつまでも俺ばかり狙われて、最終的には俺対女子全員ということにもなりかねない。そこまで行くともうルールとかの問題ではなく、全てが崩壊していることになる。
 ハルヒはしばらくうなって考えていたが頷いた。
「分かったわ。そうしましょう。でも10分は長すぎるから、3分ね。3分以上は待たないわよ」
「ああ、そうしよう」
 あまり譲歩になっていない気はするが、さっきよりはマシだ。鶴屋さんか長門と出会わなければ……いや、朝倉と実希も未知数だけどさ。午前は出会いはしたものの、逃げてばかりだったから戦ってはいない。どう考えても長門よりもちょっと弱い程度で、人間離れしているのは間違いないんだが。
「でも無理みたい」
「ん?」
 朝倉の言葉に外を見ると、さっきまでひらひらと春の桜がごとく降っていた雪が雨に変わっていた。
「さっきまであんなに雪が降ってたのに、何でこんなタイミングで雨になるのよ」
「昼になって温度がちょっと上がったのかもしれませんね」
 どんよりとした雲がところどころ薄くなり、日がかすかに覗くようになったのもどうやら原因のようだ。
「困ったわね。これじゃ後半戦できないじゃない。せっかくルールも改定したのに」
 これは仕方が無いな。今日雪が降っただけでも個人的には都合が良すぎると思う俺にとっては雨に変わる方がどちらかといえば自然に思える。
「全部キョンが悪い」
「何でだよ」
「せっかく雪合戦ってことで始めたのに、逃げてばっかりだから全然雪合戦になってないから」
 そりゃ確かにそうだが、お前も俺を狙わずに一緒に追ってる長門たちとやれば良かっただろう。俺とやらなきゃいけない理由はなかったはずだぞ。
「うるさいわね」
 不満そうな顔で俺を睨みつけるのだが、そうしたところで何の意味も無いからか、それを早々に切り上げて不貞寝を始めた。
 問題は帰るときが大変そうだなと思ったことくらいで、個人的に他は良かったのだが。
 涼宮ハルヒが神とか呼ばれる原因はやはりその能力からだろうとつくづく思う。
 テレビゲーム大会になってからしばらく。雨が止んでいるか確認する為に窓の外を見たハルヒが目を輝かせた。
「うわ! 凄いわよ、外」
「ん?」
 雨はどうやら止んでいるようだったが、さっき降った雪のせいでほとんど雪がアイスバーンになっていた。
 慌てて学校の外へ出て行ったハルヒを追って俺たちもグラウンドに再び立つ。どこもかしこも地面が凍っており、気をつけないと転びそうになる。
「これだけ広ければスケートできるわ」
「こりゃまた随分でかいスケートリンクになったな」
 昔、何かで寒い地域では水を学校の校庭に撒いてスケートリンクを作るとかいうのを聞いたか見た覚えがある。それと同じような状態だな。あまり日が出ていなかったのに雪がここまで綺麗な氷になるとは思えないのだが、ハルヒの不満を上手い具合に吸収して、周囲の環境が最大限譲歩した結果がこうなったんじゃないかね。
 何にしたってグラウンド一面がアイスバーンになっている今、靴でさえスケート気分を味わえるというのは間違いない。
「スケートよりもカーリングやりましょ、カーリング」
「また唐突な」
「スケートだけならいつでも、っていうわけではないけどできるじゃない。そういうところいけば。でもカーリングはそうそうできないわ。これくらい広く凍ってればまだすぐには氷溶けないし、一旦部室に帰ってルールとか簡単に調べましょ。そして今度はカーリング大会よ」
 元気を取り戻したのはいいんだが、こっちにとってはまた悩みの種ができてしまったなあと、俺はハルヒに聞こえないように溜息を吐くのだった。