「そう、ポスター。確かレジ袋1枚につき石油使用量が15mlくらいで、二酸化炭素排出量が50gくらいだったかしら。それくらい排出してるって話よ」
「なるほど、二酸化炭素排出量について意識を促すポスターってことですね」
「言い忘れてたけどそう、それよ。で、割り箸も木を切って使うでしょ? それを燃やすってことは二酸化炭素を吸収する側を減らして、さらに二酸化炭素追加するってことよね。環境に悪すぎじゃない」
 言われてみりゃそんな気もするが、生きていくにはいろいろと必要だろ。割り箸だって、こうやって部室で食う場合はいいとしても、外でそのまま食うなら必要だ。
「いいえ、そんなことないわ。自分で箸を持っていくとかすればいくらでも削減できるじゃない」
「そりゃいつでもやれればいいが」
「やろうという気概がないからできないのよ」
 完全に人の話を聞いていない。
 それから所信演説でもしたかのように、ハルヒはしばらく満足そうにしていつもの専用肘掛付き椅子に座って本を読んでいたのだが、
「寒い」
「そりゃそうだ」
 閉めきっているとはいえ、学校は隙間風が至るところから吹いている感覚だからな。お陰でどんなに部屋を暖めても必ず廊下に座っていると寒いから、席替えではこの時期何が何でも廊下側の席は取りたくない。かといって俺たちが今居る窓側も寒いんだけどさ。
 なのに暖を取れるものが皆無という現状。寒くないわけが無いよな。
「どうにかしなさい」
「んなこと言われてもな」
 こればかりは正直どうにもならん。
「人肌で暖めるのはどうでしょう」
 おい、古泉。妙なことを吹き込むのはやめろ。
「あーそれ、いいわね。じゃあみくるちゃん」
「え、ええ? えええっ」
「みくるちゃんも寒いでしょ。ほらほら、人肌で暖めあいましょうよ」
「ひえええ」
 さっそく朝比奈さんが餌食になっている。誰かあの変態女を止めてやってくれ。
「あたしも混ぜて欲しいっさ」
「いいわよ」
 駄目だ。鶴屋さんまでハルヒの仲間に入ってしまった。
 後は長門、朝倉、実希の3人だが。
「どう? 長門さん」
「非常に非効率的」
「私もそう思います」
「でもこういうのもいいと思うな」
 こちらも既に3人でくっついていた。なんというか、これ、どうすればいいんだ?
「では僕たちも」
「要らん」
「つれないですね」
 俺にそんな趣味は無い。
「ははは。冗談ですよ。僕も今日は多めに着てきていますからさほど寒くありません。できればこたつくらいは入れておいていただきたい気はしますが」
「俺も同感だ」
 朝比奈さん、鶴屋さんとじゃれあっていたハルヒだったが、自分がじゃれてくっつく側だからか、
「あたしが一向に暖かくならないわ。これは失敗ね」
 と不満そうに言いながら離れた。あれだけ朝比奈さんの胸元とかまさぐっていた後によく言うよ。
「ふええ」
 朝比奈さんは、コンピ研とのごたごたとかで付いた心の古傷がまた広がってしまっただろう。南無。
 さて、そんなハルヒは自分のせいで寒くなっているというのに、自分の家の南にどでかいビルが建ったかのように不満そうだった。
 けれどもあいつは自分で言い出した手前、やめるわけにはいかないと意固地になっているらしい。そういう奴だというのは理解しているからそれについては別に構わないのだが、そうなるとまた古泉の出番が増えるわけで、こいつの肩を持つ気は無いが、世界が崩壊する機会を増やすのはちょっといただけない。
 かといって俺が中途半端に声を掛けたとしてもこいつが頷くわけもなく。
「割り箸も貰うのやめたんだったっけ。森林破壊はいけないわよね、うんうん」
 どうやらカップラーメンを買ってきたらしく、そのときに箸も付けてもらわなかったようだ。まあ箸についてはこの部屋に既にあるから別にいい気はするが、それよりもお湯残ってないぞ。
「あ……」
「大きな勘違いをしている」
「……え?」
 部屋の寒さよりもさらに体感で数度くらい温度を下げそうな長門の目がハルヒを見る。
「樹木は成長中に光合成を頻繁に行なうが、充分に成長しきると呼吸と同等程度の光合成しか行なわない。光合成を主たる目的にするのならば間伐を行い、再植樹する方が良い。また同時に林業の雇用においてもその存在は必要となる。割り箸はその間伐材によって作られていることが多い。だからあなたの言っている森林破壊には当たらない。むしろ使用しないことで間伐材が余ることの方が環境に対して悪影響を与える」
「そ、そうなの?」
 なんだか真面目な話をしているのだが、朝倉に抱きつかれ、実希と背中合わせの状態の実に説得力が無い格好だから笑うべきか頷くべきか非常に悩む。
「また同時に地球の温暖化に関して、単に二酸化炭素のみを考慮することについては懐疑的。二酸化炭素よりも水蒸気の方が蓄熱効果は大きいことと二酸化炭素の若干の増加は地球上で致命的なほど寄与しないから」
 知らなかったな。というかだんだん意味が分からなくなってきたぞ。
「とりあえずあまり気にしすぎてもいかんってことでいいのか?」
「そう」
「なんかよく分からないけど分かったわ。寒いし」
 結局長門の長文で気圧されたハルヒは再びヒーターとこたつをつけた。
「あー、生き返る。やっぱりこうしてた方がいいわ。文明の利器万歳。あ、みくるちゃんお茶おかわり頂戴」
「は、はいはーい」
 ……なんというかこいつに理念とかいうものは無いんだろうかね。俺も寒いよりは暖かい方がいいからいいんだけどさ。