「みくるちゃんなんかは今気づいたら充電切れてた、なんてことこともありそうだけど、鶴屋さんも朝倉さんも古泉君もっていうのはちょっとおかしいわ」
「ちょっといたずらでも、ってことではないのか?」
安心させようとする俺の言葉に強く首を振るハルヒ。
「最初にそれは考えたのよ。でもあんたの顔見てる限りでは連絡が行ってないみたいだし、その可能性も低いわね」
「なんで俺の顔を見て考えるんだよ」
「嘘吐いてたらすぐ分かるわよ、あんたの顔だったら」
「どうだか」
実際あの話については未ださっぱり理解していないからな。理解されてても困るんだけどさ。
「とりあえずあんたの電話でも一旦連絡してみて。もしかしてあたしの携帯からだと駄目なだけかもしれないし」
「ああ、分かった」
そんなことは無いだろうとこいつだって分かっているだろうが、それでも何かにすがりたいのかもしれないな。
朝比奈さん、古泉、朝倉、鶴屋さんの順に電話してみるもののやはり空振り。電源が入っていないか、電波の届かないところに居るってのは、やっぱりそういうことなのか?
「ねえ、キョン。皆を探しましょ」
「だがどこを探すんだ?」
「うーん……そうね」
首を捻る。そりゃハルヒだってそんなこと分かるわけないか。
「でも2時間でしょ? 少なくともそんなに遠くまで行ってることも無いはずだわ。とにかくこの辺りを探しましょ。どこに居るか分からないからって放置してられないわ」
「そうだな」
奇妙なのに捕まった、という可能性が無いとも言えない。前の俺以外が全員居なくなっちまった、あのときが脳裏によぎる。
だがそれならば前みたいに、誰かしら何かのアクションがあってもいいとは思う。特に長門や朝倉、実希の3人はそうそう簡単にやられるわけが……いや、そうでもないか。前は前、今は今。あのときはラッキーだっただけかもしれない。長門たちを遥かに超える存在が居てもおかしくない。あの赤い髪の長門と同じように。
ハルヒと2人で当てもなくふらつく。こうしていると、大分前にあった閉鎖空間にこいつと取り残されたときを思い出す。あまり思い出したくないが。
あのときと違うのは町に人が居ることくらいか。
「どこに行ったんだ、全員」
「分からないわ。2時間とは言っても歩きだったらそう遠くへはいけないでしょ」
「誘拐事件とかなら車で連れ去られる可能性はある」
「みくるちゃんだけとかならまだ分かるけど、SON組の全員を狙う理由は何? ……まさか本当に超能力者を見つけて、超能力者集団に捕まったとか?」
「馬鹿言え」
とか言いつつもそれが絶対に無いとも言い切れないとも思っていたりする。ハルヒみたいな能力を持っている宇宙人だかが存在するかもしれない、ってことなんだから同時に古泉たち『機関』の人間以外にも超能力者が絶対に居ないとも言い切れない。
「これだけ探してもいないってことは、やっぱりこの辺りには既に居なくなってるんじゃないのか?」
「でもだったらどこに行ったっていうのよ」
「分からん。つーかそんなもんが分かってたら最初からそこを重点的に探してるっての」
まさか異次元に吹き飛ばされた、なんてことを真顔でこいつの前、言えるわけが無い。それに思いたくも無い。
となるとどこか電波の届かないところに全員揃って行っちまったとか。地下鉄の駅とかな。
「一旦二手に分かれよう。そっちの方が人探しをするときは効率がいい」
「待って」
「何だ」
「分かれない方がいいわ」
「何でだよ」
ハルヒは珍しく静かに俺を見て、目を逸らした。
「嫌な予感がするの。あんたまで居なくなるような」
「んなわけあるかよ」
とは言いつつも、良く考えればもし長門たちがやられていたとしたら、俺たちが分かれた途端に狙われる可能性もあるのか。少なくともハルヒは神だから狙うとは思えないし、俺にとってはこいつと居た方が安心なのかもしれない。
そう考えるとハルヒの言っていることも尤もだと思える。
だが待てよ?
周囲の人間の様子を見る。何の不思議も無い、当たり前の日常がそこに広がっている。どこをどう見たって俺が今まで生きてきた平凡な世界だ。
もし本当に異常があるならば他の人間が普通に歩いているのも奇妙な話だ。いつもなら閉鎖空間に入り込んじまって誰も居ないとか、そもそも地球上に存在しそうに無いところとかばっかりだ。
一方今回は町人は普通だ。どこまでも普通だ。宇宙人なんぞが襲ってきてどうのこうのなんて微塵も感じさせない。
「やっぱりなんか勘違いじゃないのか?」
そう言って振り返った俺の目の前にハルヒは既に居なかった。
……嘘だろ?
「ハルヒ?」
ほんの十数秒前に居たはずなのに。
まさか、またか。またなのか? 俺だけ1人、奇妙な世界に取り残されて。いくらなんでも不条理すぎる。