「今日、いつものところに放課後集まりなさい」
毎朝の早朝トレーニングが終了し、やっと休憩、一息つこうと自分に割り当てられた席を見つけた俺は、太陽光を直で浴びるどころか、虫眼鏡で光を集めて当てたような、ダイヤモンドの輝きを持つ二つの目に出迎えられた。俺の、真後ろの席から発せられたその光は、さすがにどうしようとも防ぎきれるものではないことを瞬時に悟ると、早々に無視することを諦めて、事情を聞くことにする。
諦めがいいよな、俺。
「どういった了見なのか、聞かせてもらおう」
「午後集まれば分かるわ」
どう見ても悪徳商人にしか見えない笑顔を一際強くすると、幼稚園児が遠足を待ちきれないかのようなウキウキ光線を発し、今までのダウンヒルテンションとはまた違った意味で、周囲の注目を集めていた。
1時間目の授業が終了すると、ハルヒは教室を、弾かれたスリング弾のように出て行った。走り去った方向を考えると、長門辺りに伝えに行ったんだろうか。
さて、悪い意味で注目されていた上に、先ほどの教室から自力カタパルト射出していったハルヒを気にしてか、朝倉が近づいてきた。
「涼宮さん、どうしたの?」
「さあな。よく分からん」
あいつの機嫌の浮き沈みは、一日の株価動向より見極めが難しい。もう1年くらい身近に居るが、あいつの行動予測ができることは、滅多に無い。できたとして、”何か嫌な予感”というレベルで、どこで何をするかといった、絞り込んだ予想は正直できた試しがない。
ただし、そんなハルヒの行動でも、今回はある程度の予想はできた。
「もしかすると、あの2人に対する、なんか秘策でも練ってるのかもしれないな」
「諦めたんじゃなかったの?」
あの2人、で通じたらしい。まあ、最近はその話ばかりだったからな。
ハルヒの席に座って、尋ねてくる朝倉に、昨日の出来事を手短に話した。といっても、ハルヒがあの桜の木の下に来て、このままじゃだめね、とかなんとか言って駆け出していった、なんてことくらいだったが。
そうだ、あいつ、せっかく傘持ってきたのに、持って帰りやがったんだよな。結局濡れて帰る羽目になっちまった。
本来なら、傘を持ってきていなかったんだから、濡れ鼠になって帰ることは間違いなかったわけだが、一度傘を持ってきて、渡されずに帰ってしまったというのは、おやつを食べる直前で取り上げられた子供にようなもんで、もらえないなら最初から見せるなよ、と言いたくなってしまうものである。
「……大丈夫?」
どうやら、随分と考え込んでいたらしい。朝倉が心配そうに声を掛けてきたのにやっと気づき、
「あ、ああ。大丈夫だ」
と言った直後に、軽く咳き込む。
もしかして、風邪でも引いたか?
「風邪? それなら、保健室行った方がいいわよ」
「いや、大したことないだろ。ああ、そうだ、朝倉」
「何かしら?」
「あいつはお前には言い忘れてたみたいだが、というか俺が話しておくだろうと見越してなのかは知らないが、午後にSON組の集合があるらしい」
「分かったわ。涼宮さんが最近ふさぎこみがちだったから気にしてたんだけど、元気になったなら良かったわ」
そう言って、一足先に咲いたひまわりみたいな笑顔をこっちに見せて、朝倉は自分の席へ戻っていった。
朝倉も、なんだかんだで元気がなくて心配されていたくらいなのに、ハルヒが元気になった途端になったというのはどういうことか。ハルヒの行動力と朝倉の元気はイコールなのか、比例関係にあるのか。
何にしても、少しずつ全員が元気を取り戻しつつあることは、何にしても喜ぶべきことだ。
帰ってきたハルヒの目の輝きは、1時間目が終わっても、2時間目が終わっても、昼食を終えても収束せず、どちらかと言えば、放課後のチャイムがなる頃には、光に混じって陽炎でも揺らめいているようにさえ思えた。
放課後。
俺、ハルヒ、朝倉の3人はぞろぞろと連れ立って、おなじみになった教室までやってきた。1人で先に行って、「最後に来た奴は罰金!」とかまた言い出すかと思ったが、今日はそういうことはしないらしい。毎日こうならいいんだけどな。
ハルヒは鍵を開けようとして、扉が少し開いていることに気づき、
「あれ、もう来てるの?」
と扉を開けると、果たして本を開いて読書に没頭している彩色済みドールの片割れが窓際で本を開き、もう片割れは机の一点を見つめていた目を、扉が開いたと同時にゆっくりとこちらに向けた。
「有希と実希の方が先に終わったみたいね」
ハルヒの言葉にこくりと頷いた長門。実希は本の虫を徹底しているらしく、ちらりとこちらに視線をやって、また紙面に落とした。
正直、長門の「眼鏡」と「完全読書愛」という属性のタグを引き抜いて見たら、勝手にこうやって歩き出したと言ってもいいんじゃないかと思うくらいに、実希が完全に引き継いでいた。我関せずといった様子で、黙々と知識の海に新しい情報を投げ込んでいくことの方が彼女にとっては重要らしい。
そんな実希を観察していると、数分遅れで他のメンバーが続々と集まってきた。休み時間中に、行方不明になっていたのは、やっぱり全員に声を掛けて回っていたようで、1週間とちょいぶりに全員が揃っていた。
朝比奈さんのお茶を飲み、朝倉手製の茶請けを食べ、さすがに古泉とゲームするとかはできなかったが、本来のSON組に戻りつつあることを確認しながら、
「で、みんなを集めて何をしようというんだ?」
ハルヒに今日の集会の理由を問うた。
ふふん、と何か自慢げに語ろうとするような姿を見せ、ハルヒは選挙の所信表明みたいに胸を張って言った。
「あの二人を会わせるわよ!」