「心当たりがおありで?」
「心当たりってのは正確じゃないな。もしかすると、って程度だ。それにあの長門は身長がこっちの長門よりも頭1つ分は小さかったぞ」
 喋り方も舌足らずだった。
「そういえば……前言っていた、シャボン玉に誘われて行った世界の話のことでしょうか」
「あ、あたしとか涼宮さんたちがみんな小学生になっちゃったっていう、あの?」
「ええ、それです」
 俺たちではない俺たちと会った世界はあのSOS団の頃のメンバーだけが存在し、全員が小学生くらいだったときのか、俺と長門が教師と生徒の関係だった、もう3年以上前になるあの世界くらいだったと思う。後者は長門が普通の女子生徒だったはずだが。
 もちろん別れ際にちんまいハルヒから貰った、クローバーをパウチ加工した栞は今でも持っている。というか最近本をよく読むようになったのも、その栞を使わなきゃいけないからだ。あっちのハルヒに末代まで祟られるのはまっぴら御免だからな。
 それと同時に、無理にでも本を開いていると意外に読めるもんだと最近理解しつつあるからか。昔好きだったのもあるだろうが、面白い本なら読まなくなった今でもすらすら読めるものだ。
「あのときの長門さん、ということですか」
「可能性としてな。ただし身長があっちの長門よりも小さいし、簡単に空間を移動してくることはできないと言っていた」
「そうね。理論的にはそんなに難しくないけれど、実際にやるのは簡単なものではないわね。特にパラレルワールドというか、完全に別世界の場合は尚更」
 戻ってきたばかりのときにはそんな話を聞いたな。あのときは時間と空間を外側、つまりこっち側から指定するのは難しすぎるから、向こうの長門がこっちの世界へ橋渡しをしたというように記憶している。
「俺を覚えている別世界の長門としては、多分1番関連が強い長門だと思うし、非常識な能力を持っているという意味合いでもまた十分に可能性を引き上げてるな。ただし所詮可能性の話であって、絶対にそうとは言えない。特にそうやって別世界から来るのは大変だって話を聞いちまうと正直、本当にあの長門なのかは首を傾げたくなるね」
 いくら能力があるとは言っても、あいつだって情報なんたらに作られたアンドロイドでしかなく、そいつが無理なことはまあ無理だろう。こっちの長門には無理なはずのことが向こうの長門だけができるとはちょっと思えない。
「でも同じ情報統合思念体ではないから能力は同じとは言い難いと思いますよ」
「そうなのか」
 ……あれ?
「同じ情報統合思念体ではない?」
「完全な別空間であれば、情報統合思念体の管理下にはありません。そこが情報統合思念体によって、またはそのインターフェースである私たちによって作られたフィールドであれば情報統合思念体による管理下ではあります。しかしながら全く異なる状態、例えば涼宮ハルヒによって作られた情報空間であったりした場合、情報統合思念体もその能力が及ばないと考えて然るべきです」
「俺の記憶違いかもしれないが、向こうの長門はいろんな世界に自分と同じようなインターフェースを置いているとか言ってた。つまりお前たちとあいつは所謂姉妹みたいなものだと理解していたんだが」
 聞いたところで分からないだろうからいい加減なことを言った、という可能性がまあゼロとは言いかねるが、それにしたっていつかはバレる嘘だというのは分かっていたはずだ。まさかもう戻ってこないから適当なことを言っても良いと思ってた、とでもいうのか。
「分かりません。でもパラレルワールドの存在も含めて、その世界である可能性もあります。私たちの世界に対するその世界は、完全に世界として切り離されたものですが、その世界には世界がいくつも同時存在していることが普通であって、パラレルワールドとは言いながらもほとんどその間は容易に移動できるのかもしれません」
「そうか」
 何にしてもあのシャボン玉少女ハルヒが居た世界の長門有希であるかどうかは分からない。もしその長門だとしたら何故俺を守りに来ているのかも良く分からないな。また戻ってこれるように手はずを整えているからか?
 だったら早くそう言えば良い。俺だってもう会いたくないわけではないんだ。むしろ会って、今度こそはもっとそれらしい遊びを教えてやりたい。
 いや、簡単に空間同士を行き来できるっていうのならば、ハルヒによって学校へ出て来いと命令されていないときには遊びに行ってやって、いろいろこっちの話をしてやればいい。それどころかこっちに連れてきてやるのもいいだろうよ。
 ……それは無理か。ハルヒに見つかったりしたらまずいし。
 だがなんとでもしようがある。
 空間同士を移動することがそうそうできるもんじゃないから、あいつらには会えない。別にあのちんまいハルヒたちの世界だけではなく、長門と俺が生徒と教師の関係だった世界だってそうだ。
「とりあえず、もう1度その長門っちみたいな長門っちじゃない長門っちに会ってみるしかないねえ!」
「そうですね」
 ま、あれが偽者だったのかどうかは分からないが、実際に会って問いただした方が早いのだけは間違いない。ということで今はそんな話は全て忘れるのが吉なんだろうな。