桜の木の下でそんなことを言っていたし、俺は少しも驚かないが、他はそうでもないらしい。
「で、でも、2人ともがもういいんだって、言ってませんでした?」
 おずおずと言ったのは朝比奈さんだった。
「ええ、言ってたわ。でも、自身が納得してたわけじゃなくて、諦めてただけでしょ」
「そうでしたけど……」
「だから、あたしもちょっとためらってたけど」
 ハルヒは音を立てて椅子から立ち上がる。
「なーんか、むしゃくしゃするのよ、あの2人見てると。あんな歯切れの悪い顔、見たこと無いわ。「苦々しい顔コンテスト」でも開催したら、審査員特別賞にしたいくらいよ」
 せめて、天然記念物くらいにしておいてやれ。
「だからね、あたしが決めた。あの2人を満足する形にする」
 満足する形、ってなんなんだ。それ以前に、なんでお前が決めるんだ。
「正直、恋愛なんてもの自体はどうでもいいの。でも、知り合いにああいう顔されるのだけは勘弁よ」
 我侭すぎる言い分でしかない。しかし、正直俺もあの状態で放っておけないという意味では反論はない。集まった面子の表情を見れば、それは俺とハルヒだけの意見ではないことが見て取れる。
「というわけで、今から”どうすればいい形になるか会議”を開くわ!」
 つまるところ、自分のむしゃくしゃした気分をどうにかしてぶつけて、何か結果を残してやろうとそういうことなんだろう。実にハルヒらしい意見だ。
 にしても、どうするんだ。正直言って、いい案とか考えてあるのか?
「ない」
 胸張って言うな、胸張って。せめて、何か考えてから、こういう会議を開けよ。
「今やらないとダメなのよ。攻め込まれてから慌てて布陣したから、織田信長だって本能寺の変で負けたのよ」
 まあ、間違ってないといえば間違ってはいないんだが、どうもハルヒが言うと無茶言っている様にしか聞こえないのは何故だろうか。やっぱり、いつもの行動のせいだろうな。
 このハルヒ将軍様は、「とりあえず、全軍突撃」という言葉が大好きで、正直作戦というものを考えない、ということは、コンピ研との対戦で岩の裂け目にしみこむ水のごとく、体感した。正直、使えない。
 作戦なんてものは、適当にやってたらその内できるもので、最初からそれに頼ることは間違っていると言いたげであるくらいだから、ここでハルヒの妙案を期待する方が時間の無駄というものである。
 さっそく打開案を考え始めた訳だが、まあ朝に突然集合が掛けられて、昼にはいい具合に作戦が練りあがっている、なんてことはクリーニングに出したワイシャツでもあるまいし、まずありえないだろう。それ以前にまだ諦めないという方面で進めていくということを知ったのが今さっきであるわけで、そうそう良策が転がっている場所に辿り着けるような思考回路は持ち合わせていない。
 誰一人として対策案を出せずにいると、我らがSON組参謀が冷凍庫から取り出したみたいな声を出した。
「日野正治が深山静香に面会しない2つの要因」
 長門有希である。
「家系と許婚」
「確かに、そう言ってたわね」
「これらの要因を取り除けばいい」
 前者は生まれつきだからどうしようもないだろう。
「そう。だから、それは諦める」
 諦めるのか。
「正確には、互いに認め合う」
 まあ、恋仲を進展させるには、何にせよ超えなきゃいけない壁だ。
 で、後者については?
「婚約破棄をすればいい」
「婚約破棄、と言っても、なかなか難しいですよ」
 古泉の意見、というのが気に食わんが、俺もそう思うぞ。おいそれ、とできるもんじゃない。
 具体的にはどうするんだ?
「現在考えられる方法は2つ。1つ目は、直接交渉する」
 ……まさか親と?
「そう」
「それはちょいと無理があるんじゃないかなっ?」
「何故?」
「許婚が決まってる、ってことは、大分前から家と家とで結ばれた友好関係なのかもしれないよ? そしたら、そう簡単に応じてくれるとは思えないけどねっ」
 鶴屋さんの言う通りだ。さすがに、厳しいところがある。
 もう1つはなんだ?
「既成事実を作る」
 ぶっ、飲みかけのお茶を噴出しそうになった。慌てたのは俺だけではなかったようで、朝比奈さんも少しお茶をこぼしているし、鶴屋さんも目を丸くしてる。
 そして、ハルヒは、
「有希の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったわ」
 呆れていた。
「あら、そうなの?」
 飛び方を忘れた小鳥達を見るような目で、朝倉が周りを見つめる。
「私の友達が、そういうときは「既成事実を作るといいよ」って教えてくれたんだけど」
 情報の出所は、朝倉の友達だったのか。というか、ちょっと友達関係考えた方がいいと思うぞ、朝倉。
「いや、それ以前に”会う踏ん切りがつかない”という話だからな」
「あ、そっか」
 ハルヒはやれやれ、と溜息を吐きながら頭に手を当て、
「とにかく、どっちもきつい案だわ。別の案、誰かない?」
「……ない」
 参謀は全部の案を出しつくしたのか、すとんと席に座る。
 うーむ、これでふりだしに戻ったな。
 それから数時間、顔をつき合わせて出た答えは、
「……今日は帰りましょう」
 だった。正直、やる気とテンションだけではさすがにどうしようもない。
 まあ、まだ時間はあるだろうさ。明日は、最近行ってなかった深山さんのお見舞いにでも行ってみるとしよう。