もちろん激昂しているオッサンらは腰に携えた得物を構える。怖いとかいう話じゃないぞ、これ。
俺に襲い掛かろうと走り出したところで、長門が木陰から見えないように、覚えたばかりのレベル2の風属性攻撃魔法で構えた得物を吹き飛ばした。
「ぬうううう」
リーダー格の、あの太っちょは怒りに顔を赤らめ、
「こうなったら何が何でも取り押さえてやる! やれ! 野郎共!」
なんて言いつつ襲い掛かってくる。
もちろん俺だってそれをただぼんやりと見ているわけがない。囮は囮らしい仕事がまだラストに残っているのだ。
町の方へひたすら、俺は走り続けた。ただし完全に突き放してはいけないし、かといって遅すぎてもいけない。これがかなり厳しかったりするのだが、長門に移動速度を上げる魔法を掛けてもらっているお陰でどうにかこうにか追いつかれることは無く、スタミナも温存して走れる。
それでも殺気立ったオッサンらに追いかけられるのは精神衛生上、とてもじゃないが良いものと言えない。早くこの仕事を終わらせてくれ。
「朝比奈さん!」
「は、はいぃっ」
街中、俺たちがさっき居たところまで来ると、朝比奈さんがとある柵の扉を開いた。その中には、オッサンたち以上に殺気立った馬ともロバとも羊とも似つかないそれなりの大型の四足歩行動物が押し込められていて、扉が開いたことにより外へ出られたその動物は、自分たちへ向かってくるオッサンたちに向かって突撃を始めた。
武器を持っていれば人間の方が強いだろうと思うが、素手で相手をすると一匹のこの動物を押さえつけるのに大の大人5人は必要になるらしく、見た目以上に強い生き物らしい。
牧羊犬がむしろ羊に追い立てられるがごとく、オッサンたちは遥か遠くまで追いたてられていった。
「ざまあみろ!」
その情けない後姿を見て、少年は日本晴れみたいな顔で叫んだ。
しばらくしてその四足歩行動物は全て戻ってきたらしい。一応向こうが懐に武器を隠していたときの為に、朝比奈さんの防御魔法を掛けて貰っていたらしいのだが、結局その必要は無かったようだな。
ちなみにこの動物は人間の言葉は分からずともある程度の意思疎通はできるそうだ。それを利用して長門がこの動物にあの人間を襲うように短時間で躾けたらしいのだが、まあなんとも無茶苦茶な作戦だよ、本当に。ま、少年たちが結局町から逃げ出す必要が無くなったから、最終的には良策だったってことなんだが。
「ありがとうございました」
村長に頭を下げられ、慌てて俺たちも頭を下げる。
「通りすがりの人に助けて頂くとは、なんとお礼を言っていいことやら……」
「いえいえ、気にしなくていいですよ」
作戦立てたのはほとんど長門だしな。後、最終的に追っ払ったのはここの、茶色い毛の生き物たちだ。
「これはほんの気持ちです。受け取ってください」
村長は金貨袋と短刀を差し出した。受け取っていいんだろうか。差し出したところで完全に静止したところを見ると、どうやらこの村長はNPCで、最初からこう言うようにプリセットされているらしい。
だったらこれを受け取らなかったら先には進めそうに無いな。
俺がそれを受け取ると、
「特に何も無い村ですが、また何か御用がありましたらぜひ寄ってください」
と低姿勢に、繰り返し礼を言われた。
プログラム的に礼を言われていると分かっていても、一応「ありがとうございます」とこっちも頭を下げてしまうのは日本人の癖なんだろうかね。
とりあえず無料で泊まらせて貰えるとのことで、この村の宿屋の部屋を借りて、俺たちは寝る前にまず会議を始めた。
「次は北を目指しましょうか」
この町にハルヒが来ていないようだから、万が一ハルヒたちがここをすっ飛ばして先に進んだということを考えて、なるべく早めに次の町へ進んだ方がいいだろうなと思う。
「そうですね。あ、でもちょっと疲れちゃったので休んでからでもいいですか?」
「ええ、もちろん」
その為もあって宿屋に来たのだから。
「長門も休んでから北を目指すというのでいいか?」
黒魔術師も頷いたから、当面はこの目標でいいな。
ただしそろそろ元の世界に戻りたい気もしてきている。ホームシックっていうよりも、現状確認と対策を一旦した方がいい気がするからな。
一時的に俺とパーティーを組んでいなかった朝比奈さんや長門たちが、菫さんたちと戦っていたときの記憶は残っていたから、おそらく向こうに俺たちが戻っても最近の古泉たちの記憶はちゃんと残っているはずだ。
「あ、確かにその方がいいかもしれませんね。いけなかった館に関するお話も聞けるかもしれませんし」
俺たちは頷きあって、ノートに自分たちの名前を書いた。