「蔵書点検時に一部古くなった本と入れ替えで新しい本を来年度に向けて入れ替えるという話です。あまりそういうことは無いのですが、今年はやるそうです。なのでおそらく何か欲しい本でもあるのでしょう」
「そんなのでいいのかよ」
「いいみたいですよ。学校側も蔵書点検はかなり時間が掛かりますし、私たちにやってもらえるなら願ったり叶ったりだとのことです」
ハルヒが居るという時点で、教師側がそんなに快く状況を受け入れるとは思えないが。
「そうでもありません。最近は教師や生徒からもSON組の評価は悪くないんですよ」
まああれだけ最初低かったから、あれ以上下がりようが無い気はする。
「蔵書点検は学校側にとっても利ですし、特別拒否する理由もありません。更に廃棄するような本を貰っても何の痛手にもなりませんし、廃棄量が減りますから拒む理由は皆無と言っていいでしょう」
「そういうものなのか?」
「そういうものらしいです。私も良く分かりませんが」
ならいいんだが。
「おや、あなたがた以外、誰も居ませんか」
図書室に、最初に現れたのは鞄を片手に現れた古泉だった。
「あ、良かった。古泉君、HRは終わったの?」
本棚の整理をしていたハルヒはようやく現れた助っ人に溜息を吐く。
「ええ、今終わって参上したところです。ところで今日は何をする予定なのでしょう」
いつもの笑顔を浮かべて、古泉がハルヒに尋ねる。どうやらここに集まることは知らされているが、何をやるかはまだ知らされていなかったようだ。
「蔵書点検。本の位置を直したりするのよ。これもSON組の活動の一環だと思って」
「蔵書点検ですか。なかなか良い案だと思います」
こいつの仕事はハルヒの機嫌を損ねないことだから仕方が無いんだろうが、何でもかんでも考え無しに良い案だと言うのはどうかと思うね。実際に自分がやることの手間を考えたら憂鬱になったりはしないのか、こいつは。バリバリのお世辞に気づかないハルヒもハルヒだが。
「では僕は向こうの棚からやることにしましょう。番号順に並べれば良いんですね?」
「はい。それでいいです」
実希の言葉に頷いて、古泉はハルヒが立っていたところとは逆側の本棚から本の並べ替えを行い始めた。
……仕方が無い、俺もやるか。
何か釈然としないが、朝比奈さんや朝倉、長門、鶴屋さんもじきに来るはずだ。ほとんど文句も言わずに手伝ってくれそうな面々だが、朝比奈さんや長門は主に身長的な意味で、高いところの蔵書点検では戦力にはならない。長門は非現実的な能力を使えば、鶴屋さんは持ち前の運動能力を使えば最上段も十分に手が届きそうだが、やれる人間がさっさとやった方が良いに決まっている。
それに人間ではない長門や朝倉、いつも元気な鶴屋さんは良いとしても、普段ペンより重いものを持たないと言われても疑わない朝比奈さんに、分厚い本の並び替えをして欲しいと頼むのはちょっと悪い気がする。
というわけで、他の部員が来る前に本棚の高い位置にあるものだけは出来るだけやっておいた方が良さそうだな。
整理を始めて数分、少しずつブランクを空けて、長門と鶴屋さん、朝比奈さんが来た。
「あれ、朝倉さんは?」
「用事があると言っていた」
「そうなんだ。お昼頃は多分手伝えると思うって言ってたんだけど」
顎に手を当てて、どうしようかと唸るハルヒ。
まあ朝倉は何処でも引っ張りだこだからな。忙しくて手伝えなくても不思議ではない。
そもそも最初、一緒に来ていない時点で、そんな予感はしていたし。
「うーん、てきぱきやってくれる朝倉さんが居ないのは痛手だけど、まあ居なかったらできないわけでもないしね。じゃあ続きやりましょ」
半ば負け惜しみみたいな言葉を残し、再度本棚の方へ戻っていくハルヒだが、言葉は正論だった。
「キョン君、キョン君」
「なんですか、鶴屋さん」
「あそこの本が取れないんだけど、取ってくれないかなっ。なんとか指は届いたんだけど、ちょっと分厚すぎて引っこ抜けなくってねっ」
「いいですよ」
最上段の分厚いハードカバーを取って鶴屋さんに渡す。
「ありがとさっ」
「どういたしまして」
「あ、キョン君。こっちもお願いしていい?」
鶴屋さんとの話が終わったのを見計らって、朝比奈さんが声を掛けてくる。
「ええ、構いませんよ」
「えっと……あの本なんだけど、本当はあっちの本棚の一番高いところみたいなの」
指された2つの本棚は斜向かいに置いてあった。隣の本棚に間違えて指したなら分かるが、何でこんなところに間違えて入れたんだろうな。
朝比奈さんが示した通りに本の場所を入れ替えると、朝比奈さんが笑顔で謝辞を告げた。
「ありがとう、キョン君」
「いえいえ」
「でも、毎回キョン君に頼むのも悪いし……踏み台って無いのかな?」
そういえばあったような気がする。多分探すよりも、図書委員の実希に踏み台の置いてある場所を聞いた方が早いだろう。
「実希。踏み台って無いか……あ」
言いかけて実希の足元を見ると、丁度利用中だった。
「踏み台ですか。これ以外にそういえばありませんね」
「部室に何か代わりになるものがないか、見てくる」
いざとなれば部室のパイプ椅子でも使えばいいだろう。
「分かりました」
「早く帰ってきなさいよ!」
「分かってるっての」
ハルヒに釘を刺されつつ、俺は部室に一旦戻る。