「でもよく考えると、単に1回やって成功するかしないかを判断するだけじゃおもしろくないわ。っていうか1回だけじゃ全員失敗するかもしれないし」
「そりゃまあ、そうだろうな」
 コツを掴むまでは難しいだろうよ。長門たちのように人間を超越したような存在じゃなければな。
「だから考えたの。3回やって、1番回数の少なかった人が罰ゲームね」
「最下位が複数居たらどうするんでしょう」
 古泉の問いに、当然とばかり胸を張ってハルヒは教師が生徒の質問に答えるように言い放った。
「もちろん、その全員が罰ゲームをすることになるわ。ま、最終的には0回だった人間は、ってことになると思うけど」
 だろうな。3回あるとは言っても、こんなのが成功するとは到底思えない。
「もしそれでも全員駄目だったらどうするんだ?」
「そのときはそのときで、考えるわ」
 とかなんとか言って始まったハルヒの思いつきゲームだったが、俺が危惧した通り全員が失敗した。長門や朝倉、実希辺りは本当はできたんだろうが、丁度先に俺、古泉、朝比奈さんがやって出来なかったから、それに倣ってわざと失敗したんだろう。その後に続いた鶴屋さんも惜しいところまでは行ったが成功せず、最後のハルヒも無事……という表現はおかしいが、やはり失敗した。
「ふがいないわね」
「出来なかったお前が言うな」
 ビニールシートの上でふんぞり返っているハルヒに、俺は即座に突っ込む。
「あたしは、誰かが出来てたら素直に罰ゲームをやるつもりだったんだから」
「罰ゲームをやらせる気だったんだ」
「別にまだ考えてなかったわよ。でも誰かができてたら、仕方が無いからちゃんと素直にやるつもりだったわ。例えば、帰りの電車ではずっと立ちっぱなしで帰るとか」
 ハルヒが考え付く罰ゲームにしては随分簡単な類だと言える。まあ自分が出来ていたら、多分もっと面倒なことをやらせていたんだろう。更に、俺だけが出来ていなかったら追加でまず間違いなく全員の帰りの電車代を出させていただろうと思う。
「ま、じゃあ全員ミスだったから罰ゲームは無しね。ま、花見なのに罰ゲームとかやってせっかくのいい気分をぶち壊しにする必要も無いわ」
 お前が最初に言い出したことだというのに、よくもまあここまで都合よく解釈できるよな。こっちとしても結果オーライなところが無いとも言えないが、さも私は止めたのに何で無理やりやろうとしたのよ、みたいな顔をするのは納得がいかん。
 完全に弁当がすっからかんになって、ハルヒの無茶振りももう終わったところで、ようやくまともに花見が開始されたのだが、この時間になって昨日この公園でサッカーしていた少年たちがボールを蹴りながら現れた。
 昨日の今日だから向こうもさすがにこっちを覚えていたらしく、俺たちを見つけて目を丸くしていた。
 その様子を見ていたハルヒは俺と少年たちを交互に見て、
「どういうことよ、キョン」
 と疑問を呈した。
「単に下見に長門と行ったときにサッカーをしていたときに混ざっただけだ」
「ふうん」
 なんだか不満足そうだったが、本当にそれ以上でもそれ以下でもない。こいつは一体どんな返答を期待していたのやら。
「ま、いいわ。最近運動不足だったし、野球もいいけどサッカーもいいわよね。あたしも参加するから。いいわね?」
 俺の方に向いて言われてもな。決定権は俺に無いぞ。
「いいわよね?」
 少年たちは高校生が混ざるということに対して少しならず不安を抱いていたようで、鋭いハルヒの視線に無理やり頷かされている感が無いわけでもなかったが、それでもサッカーをやる相手が増えたということは好意的に考えたらしく、実際にサッカーを開始してからは昨日以上に元気に走り回っていた。
 しかし言うまでも無く、公園自体が広くないというのに全員でやろうとするから、ボールをちょっと力んで蹴ると公園の外まで転がっていってしまうため、かなり動きが緩慢になり、サッカーというよりもパス回しの練習に近かった。ま、それでも結構楽しかったんだけどな。
 結局サッカーにキリがついた頃には当初の目的だった花見を完全に忘れ、疲れ果てた俺たちはほとんど桜を良く見ることもなく帰ることとなった。俺たちは花見をしに行ったのか、サッカーをしに行ったのか良く分からないが、サッカーをしている時間の方が長かったということだけは確かだな。
 それにしても、ハルヒがさっき全員が失敗したときにあまり不服そうな顔をしてなかったのは良かった。もしここであいつがまた不機嫌オーラを全開にしていたらとてもじゃないがサッカーなんてやってられなかったからな。さすがにこういう節目というか、イベントごとのときにはそうそう最悪な状況に持っていきはしないか、ハルヒも。
『次は終点――』
 そんなことを考えながらバスのアナウンスを聞いてから、俺はポケットに入っていた財布の中に小銭が全然入っていないことに気づいたのだった。