「今日は大掃除をするわ!元SOS団の部屋もよ」
 といってもSON組結成からそんなに経ってないから、こっちの部屋はそこまで特に汚れてないな。
「年末ですから、やっておいて間違いはありませんね」
 古泉が似合わない格好で笑う。いや、正直似合わない格好はこいつだけではない。俺も、非常に残念ながら同じ格好だ。
「なあ、ハルヒ。大掃除は別に問題はない。組員として使用した部屋を大掃除するのは当然だからな」
「ならさっさと始めなさいよ」
「だが、この格好はどういうことなんだ」
「いいじゃない、似合ってるわよ」
 いつも以上に笑顔の朝倉。元凶はこいつだ。
「いいじゃない。制服のままだと汚れるからって、朝倉さんが気を利かせてくれたのよ。ちなみに他の掃除道具も朝倉さんが持ってきてくれたわ」
 気が利いているのは間違いない。しかし、全身ジャージの上にこの全面うさぎ柄なエプロンとうさぎ柄の三角巾はないだろう。はずかしいったらありゃしない。他のものはなかったのか。
「ないわ。あったものを持ってきたんだもの」
「なのにこれだけの数は揃ってたんだな」
 周りを見ると、全員このセット。明らかに、わざわざ用意したものだよな。
「細かいこと気にしないの。大掃除始めるわよ!みくるちゃんと鶴屋さん、実希は元SOS団の部屋の掃除ね」
 …仕方がない、着ないよりはマシか。で、どこからやるんだ?
「掃除の基本は上から。まずはたきで埃を落として、最後雑巾がけするわよ」
 ハルヒは既に自分が使うはたきを持って、黒板上の埃を落とし始めている。じゃあ、俺もやるか……ん?はたき足りないぞ。
「…足りない」
「ああ、そういえばあまり人数多くても動きにくいし、数もあまりなかったから別のことでもしてもらおうかなって」
 じゃあどうするんだ。
「えっと、濡れ雑巾で窓を拭いてから、しめらせた新聞紙で窓を拭くの。そうすると窓が綺麗になるから」
 新聞紙と雑巾を渡される。じゃあバケツに水汲んでくる。
「分かった」
 廊下にある水道でバケツに水を多めに入れて運ぶ。こりゃ結構重いな…。
 教室のドアを開けて窓際まで持っていくと、長門は朝倉に雑巾と新聞を渡されたときと同じ状態で立っていた。
「さてと、始めるか」
 冷たい水に雑巾を浸し、硬く絞ってから窓を拭き始めても長門は動かない。
 どうした、長門。何かあったのか?近づいて長門の視線を辿ると…、
「………」
「長門、もしかして新聞を読んでるのか?」
道理で動かないわけだ。
「頼む、後で存分に読んでいいからな、読みたいのだけ残して掃除を手伝ってくれ」
「……分かった」
 ワンテンポ遅れてから、返事をする長門。周りは埃を落とすのが終わった様子で、雑巾で長机を拭いたり、黒板を雑巾で綺麗に拭いたりと忙しそうだ。こっちもがんばるか。

 窓を濡れ新聞で拭き終わると、今度は床の雑巾がけだな。
「あ、キョン。あんたは雑巾がけじゃなくて、外で落ち葉を集めてきなさい」
「落ち葉?なんでまたそんなことを唐突に。学校の大掃除ってことか?」
 というかこの格好でか?
「別に脱いでも構わないから行ってきなさい」
「…どんな落ち葉でもいいのか?」
「なるべく乾燥したものを選んできなさい」
 ゴミ捨て用の大きなビニール袋を渡される。…随分と大きいな。もしかして、
「これいっぱいになるくらいよ」
考えてたことを先に言われた。これは…。
「マジも大マジよ。ほら、早く」
 背中を押されて部屋の外に追い出される。結局年越しまでこうやってこき使われていくわけだな。
 全く、どこでどう間違えたんだろうな。確かにハルヒみたいな生き方をしてみたいと思ったことは間違いないし、悪の頭領とバトルを繰り広げたいと思ったこともあったさ。
 かたっぱしから落ち葉を袋に詰めながら考える。しかしだな、非日常をしてみると分かるんだな、いつも通りの日常がどれだけラクだったかと。適当に授業を受けて、適当にテスト勉強して、適当に遊んで。世界がいつの間にか崩壊するかもしれないとか、実は知り合いが神様だとか、そういう悩みがないことがどれだけ気楽か分かったよ。
 ハルヒが期待するほどであるかは分からないが、落ち葉を大分袋に詰め終わった俺は組室への帰ろうとした途中、古泉のスマイルに出会う。なんだ、古泉。
「涼宮さんが中庭の文芸部前に来なさいと仰っていましたから、伝えに来たんです」
 古泉が俺の手にある袋を見る。
「随分集めましたね」
「そこらへんにあるのを全部集めたからな。これで足りなかったら……また取りにいくしかないだろう」
「いえ、そこまでは涼宮さんも言わないでしょう。きっと、あれをやるつもりなんでしょうから」
 あれってなんだ?
「この時期によくやることです。行けばすぐに分かると思いますよ」
「それくらいここで言ったところで問題はないと思うが」
「実際に見て気づいた方が楽しいと思いますよ」
 古泉について文芸部室の外、中庭に行くと既にほとんどのメンバーが集合している。ハルヒの手にはアルミホイルの塊。なんだ、あれは。
「やっと来たわね。……うん、十分十分。たまにはちゃんとやるじゃない」
 たまに、は余計だ。とりあえずそこらじゅうの落ち葉集めてきたからな。と、袋を手にすると逆さまに、ってこれまた掃除するとかいうんじゃないだろうな。
「最後には掃除することになるわね。ま、最後だけどね」
 なんのために集めてきたんだよ。
「古泉君、マッチお願い」
「はい」
 銀の塊をハルヒが落ち葉の中に投げ込み、古泉が火の付いたマッチを落ち葉の山に落とす。
「あのアルミホイルはなんだ?」
「中にさつまいもが入ってるのよ」
 朝倉が新たに銀の塊を持ってくる。…ああ、そういうことか。だから、”最後”に片付けがあるんだな。
「みんなで食べようと持ってきたのさ。みんな2個ずつくらいは食べられるよっ」
 鶴屋さんがその後ろから火ばさみを持って現れた。そうだったんですか、ありがとうございます。
「いやいや、大丈夫さ。親の実家からいっぱい送ってからね、気にすることないさ」
「あったかいですね」
 朝比奈さんが手を火に向けて笑いかけてくる。そうですね、冬はこれですね。
 こうしてると、なんだかここに居るメンバーは普通の人間で、ハルヒが喜ぶような宇宙人・未来人・超能力者であることを忘れてしまいそうだ。全部仕組まれた嘘だったらいいと思うことさえある。
「……これ」
 ん?ああ、長門か。サンキュ。って本当に新聞読んでるんだな。
「読んでいる」
 すぐに新聞をたたんで、焚き火の中に投げ込む。読み終わったのか?
「もう読み終わった」
 そうか。おもしろかったか?
「ある程度」
 よかったな。…にしてもこんなところで火つけてもいいのか。
「いろいろしました」
 またですか。
「またです」
 便利というかなんというか。
 そういえば誰の提案なんだ、これ。鶴屋さんですか?
「長門さんですよ」
 朝比奈さんが答える。
「大掃除終わったら落ち葉で焚き火をして、お芋でも焼きたいって」
「そうだったのか」
 小さくこくり、と頷く。
「組長だから。組のことを考えて、功労として」
 長門はハルヒに無理矢理につけられた肩書きを未だにしっかりと守っている。
「なあ、長門」
「何」
「きっと、来年はいい年になるよな」
「…そう」
「それとな」
 アルミホイルを広げて芋を割る。
「自律進化の可能性、見つかると思うぞ」
「…………そう」
 口に入れた焼き芋は今まで食べた芋の中で、一番甘かった。