そういえば館も辺りに見えないな。何処にあるんだろうか。
今までの流れからすると魔法陣の傍にいつも館があったのだが、今回だけは近くに町があった。
そもそもなんであんな魔法陣があるんだろう。誰が作り出したんだ? 書いた奴は誰だ? 何を基準にしてその場所を選んだんだ?
悩みは尽きそうにないが、まずとりあえず。
「この町が館代わりとか?」
「あ、そういうこともありなんでしょうか」
俺の言葉にポンと手を打ってから、間違い探しの最後の問題が印刷ミスにしか見えずに納得がいかない子供のような顔をする朝比奈さん。
「今までは魔法陣の傍に館がありましたし、もしかしてと。町の中にそれらしい建物があるかもしれませんよ」
「そうですね」
とはいえ町の入り口から見る限り、今まであったようなどでかい洋館は見当たらないが。
「ここにそんな館があるすると、ここをクリアしなければならないわけですよね」
「そう、ですね」
だが見たことの無いモンスターがそこら中に徘徊していて、どう考えても俺たちがふらりと現れて倒せるような敵には到底見えない。むしろふらりと1匹が俺たちの前に現れても倒せないんじゃないかと思うくらいに強そうなモンスターが揃っていた。
「やっぱりここを無視するわけにはいきません、よね?」
「ですね」
さすがに夜の世界に来て何もせずに帰れるほど、魔法の粉の残量は多くない。となるとせめてここで粉を補給するか、長門の魔法使用回数を回復させるか、はたまた館をクリアするまでは出来るだけ帰りたくない。よっぽど敵が強すぎて敵わないというのならまた話は別だが。
「となると……」
俺と朝比奈さん、長門はほぼ同時に町の中の惨状を見る。マリンシティほど家屋が破壊されているとかいうのではないが、マリンシティ以上に長く人が住み着いていなかったように思えるくらい、建物のみならず地面に敷かれた石畳のようなものも経年劣化して、ボコボコになっていた。その上を見たことの無いようなモンスターがうろついているのだから、ここへ突入するのはまず死を覚悟しなければならない。更に無闇やたらに剣を振れば、敵が増えるだけでむしろ窮地に追い込まれるだけだろう。
そう考えるとここは慎重に1匹ずつおびき出した方が良いのだろう。後はそれをどう上手くやるかなのだが、
「どうしたんだい? こんなところで」
「いや、1体ずつおびき出す方法をだな――」
そこまで答えてから、何で俺以外に男の声が聞こえるんだろうと振り返った俺たちはここに来るまでに倒した獣人のいとこの兄のそのまたお兄さん辺りと言われれば「あー、なるほど」と思ってしまうくらいに獣人だった。
だがその姿は、あのけむくじゃらの生き物よりも1回りか2回りくらいは大きく、人間よりも動物が2足歩行を始めただけに近い。
どうする? と俺は目で朝比奈さんと長門に語りかける。もしここで大事にしてしまえば俺たちは挟み撃ちされる訳で、そんなことになったら勝ち目は絶対に無いな。まだこいつ1体なら、もしかするとなんとかなるかもしれない。
「ああ、もしかするとこの姿が怖がらせてしまっているかな」
ふぉっふぉっふぉ、とでも表記すべきか、とにかくそんな遠吠えになりかけてならなかったような声が聞こえてきた。年寄り風の笑い声だが、声に老いは感じない。むしろ少し若いくらいだ。
ただしそんなことに向けられる意識はすぐに消えうせた。
喋った?
この反応は俺だけではなかったらしい。朝比奈さんも初めて飛行船を見たかのように目を丸くしているのが見える。ただし長門はいつも通りだ。
「心配しなくても襲わないよ。だから君も武器をしまってくれ」
「本当に安心していいという理由は無い」
「ふむ。確かにそうだね」
人間のように、自然に腕を組む。
「信じなくてもいい。ただし、ここへ来たということは砂漠を通ってきたということだろう。それならば休息を取る場所は無いはずだ。もし武器を収めてくれるのならばこの町の宿屋を紹介しよう。格安で泊めてくれるはずだ」
再度俺は目配せして朝比奈さんと長門にアイコンタクトを図る。戻ってきたのは困惑と無表情。つまりこれは俺に任せるってことだと理解していいわけか。
10秒ほどだけ悩み、
「分かった。全面的には信じないが、こっちも宿屋が必要なのは本当だからな。信じよう」
「それでいい。むしろ最初から全部信じると言われたら君たちの今後が心配だよ」
けむくじゃらだから良くは分からないが、おそらく笑ったんだろう。白い牙が少しむき出しになる。
獣人についていくと、町の中で生活しているモンスターの好奇の目に晒されはしたが、確かに襲われはしなかった。
「1つ聞かせてくれ」
「何?」
俺の問いに足を止めず獣人は聞き返す。
「ここにお前たちが生活してるのは何故だ? 人間の作った町を奪ったのか?」
「結果的にはそうなってるのかもしれない。でもそう思うのは大きな間違いだ」
割とこの獣人は大またで歩くから、俺でさえ少しだけ早歩き、朝比奈さんや長門は小走りになりながら獣人についていく。