「このままではまずいわね」
「何がだ」
 いつもハルヒの発言は唐突を極めた唐突で、脳内でどことどこの回路が繋がればそういう発想になるのか疑問だが、今日は輪に掛けて意味が分からなかった。
 そしてその発言に即疑問を呈す俺も俺だ。聞かなかったことにしてれば良かったのに。そう毎回律儀に答えるからこいつが反応してもらえると思ってしまうんだな。
「SON組の行動指針よ」
 ただのお遊びサークルと化しているこの団体に今更行動指針なんてあったもんじゃないと思うが、ハルヒ最高顧問にとっては現状が憂慮すべき状態であるらしい。
「あるわよ、行動指針。宇宙人や未来人、その他と遊ぶことって、SOS団結成時に言ったでしょ」
「ああ、そうだな」
 実に忌々しいことに記憶に深く刻まれている。こいつの花咲いたような笑顔と声と共にな。
 とはいえ自分に意識は無いながらも、実際はその目標を果たしているというのだから、もったいないような気もする一方で一生知らない方がずっとそんな夢を抱き続けることによる楽しさもあるような気がする。
「で、その行動指針がどうした」
「全然達成できてないわ」
 だから本当はできているのだが、まあここについては言及できないからハルヒの言っているように達成できていないということにしておこう。
 不満そうな表情のままハルヒは俺を無意味にねめつける。
「捕獲どころかそもそも遭遇すらしてないのよ。これは由々しき問題だわ」
 足を組み、頬に掛かる髪を払ってハルヒは言った。
「あの、でも、すぐにそういう人たちに出会えたら意味が無いのでは……」
「それはもちろんそうよ。でもずっと会えなかったら、それはそれで意味が無いのよ」
 ま、ハルヒだからそう言うだろうな。むしろそう言わなければおかしいとさえ思うね。こいつはそんな矛盾の塊とも言える人物なんだし。
「しかしながら捕獲するにもその目撃すらがこの辺りでは無いという状態ですから、確かに遭遇することすら今の僕たちには難しいでしょうね」
「だからあたしは捕獲のために本腰を入れようと思うのよ」
 そんなもんに本腰を入れなくてもいい。こいつが今本腰を入れるべきはこのけったいな集団を解散し、余った時間をどうやって有効活用するかを考えることだ。
 さっき学んだ通り、すぐに俺が答えてはまたハルヒが調子に乗るだろうからと黙っていたら、どうやら他の奴らも完全に俺がハルヒの話を進行させる役だと認識しているらしく、黙ったままでじっとハルヒと俺を見ている。
「……どうするつもりだ」
 こりゃもうこの位置は完全に確定だなと溜息混じりに俺が尋ねると、ハルヒは雨上がりにこぞってその存在を主張するあじさいみたいな顔で言った。
「それを今から考えるのよ。何か良い案無いかしら」
 結局のところ他力本願かよ。
 腕を組んで、真面目に物騒なことを考え出したハルヒを俺は見やって再び溜息を吐く。もし持っていたとしても誰も助言しないだろうし、ハルヒだってきっと本気で信じる気など皆無だろう。相手が誰だとしてもな。
 だからそう考えると、本当に宇宙人やその他諸々と遭遇する為の良い案なんて出てくるわけがないのだが、目の前で真面目に考えている奴が居るのに最初から無駄だと言ってやるのは果たして優しさなのかどうなのか分からないな。
「やはり正攻法とするならば、罠を仕掛けるのが最も良い方法だとは思いますが」
「でも罠仕掛けるにもおびき寄せる為には何を置いておけばいいのか分からないのよね。食べ物を仕掛けるだけでは最近捕まらない気がしてるのよ」
「そもそも食事の趣味も分からないしねっ」
 ま、食い物を置いてて捕まるほど簡単に捕獲できるならば、何度宇宙人は俺たちの目の前に現れているのかという話だ。おそらく宇宙人の食の好みが分かったとしても、それを置いてて最初に掛かるのは野良犬か野良猫ってところだろう。
「土日の町内探索の回数を増やそうかしら」
「増やすだけじゃなかなか見つからないんじゃないかなっ。やっぱり重点箇所を決める必要があると思うんだよっ」
「重点箇所ね。確かにそうかも」
「宇宙人ならやっぱりUFOが目撃されてるところを重点的に探すべきだと思うねっ。あ、今度のGWはその為に旅行ってのもありじゃないかなっ」
「いいわね、それ。そうしましょ」
 なんか勝手にハルヒと鶴屋さんだけで話が進んでいるんだが、いいのか?
 というか鶴屋さんもハルヒを煽るようなことを言わないでください。
「だいじょぶだいじょぶ。あたしがなんとかするさっ」
 自称最高顧問に気づかれないように俺にウインクしてみせた鶴屋さんはそう言って笑った。
 本当に大丈夫なんだろうか。