ある日の午後。俺たちは今日も思い思い、好きな行動をしていた。俺は、ハルヒによってボードゲームに強制参加させられた長門が、全てにおいて他の参加者を圧倒し、そろそろ弱いものいじめはやめてやれよ、と思いながらパソコンの電源を入れた。
「あーもう、また負けた!」
 ハルヒの悔しそうな声を聞きながら、デスクトップからインターネットに接続するソフトを起動する。
 すると、負けが重なって飽きたんだろう、ハルヒが「つまらないし終わりよ」と子供じみた発言をしながら、ゲームの輪を抜け出してパソコンの傍にやってくる。他のメンバーは予測済みだったらしく、ハルヒが抜けた後、別のボードゲームに引っ越した様子だ。
「キョン、何してるの」
「何をしているように見えるんだ」
「怪しげなホームページにアクセス中」
 不正解だ。ってか、そんなことするか。
「動画を見てるだけだ」
「何の動画よ」
「何の、と言われても、いろいろとしか言いようが無いな。これといって決めて見てるわけじゃないし」
「っていうか、このサイト何よ。なんかいろんな写真があるけど」
 写真じゃない、サムネイルだ。ここは、世界各地からいろんな動画が集められているサイトだ。アップロードは基本的に誰でもできるから、個人撮影の動画もあれば、今放映されている話題の映画までいろいろあるぞ。
 まあ著作権の問題上、削除されたりすることはしばしばだが、割と好きな動画が見れるな。
「ふうん」
 興味があるのかないのか、非常に曖昧な返答のハルヒ。
 最近は、動画を見ながら自分でテロップを打ち込めるサイトなんかもできたな。
「じゃあ、あたしの作った映画とかも、アップロードされてるわけ?」
 あたしの作った映画?
「ほら、『朝比奈ミクルの冒険』よ」
 あたしが作ったって、お前はメガホン持って、とんちきな演技指導をしただけだろうが。ああ、あとはあのふざけた台本な。偉そうに”私が作った”とか言ってるんじゃない。
 まあ、ぎこちない演技とぎこちない動画編集で作られた、全身が悲鳴をあげているような動画に、所有権云々を論争するだけ時間の無駄だと思うし、どちらかといえばもう忘れたいくらいだ。この際、ハルヒが独自に作り上げたということにしておいた方がいいかもしれん。
「まあ、誰かがビデオであの映画放映を撮影するか、動画のデータをコピーして入手し、かつそいつがこのサイトにいそいそと転送作業に勤しんでいたなら、探せば見つかるかもな」
 前者はともかく、後者はハルヒがやってなければ、まずあのデータが流出していることはないと思う。
「探してみなさい」
 へいへい。
 とりあえず、ハルヒ監督の監視下、”朝比奈ミクルの冒険”で検索してみる。
「……なんか関係なさそうなものばかりね」
 映画本編らしいものは見当たらないな。
 しかし、こういうものは文節に区切ったり、出演者の名前とかにすると、意外に見つかったりするもんだ。あとは、英語にしてみるとかな。
 朝比奈さんの名前で検索するとあっさり見つかった。
「何よ。これは”みくる”じゃなくて”ミクル”なのに! 平仮名と片仮名には野生の熊と動物園で飼いならされた熊くらいの差があるのよ!」
 どういう差なのか皆目見当も付かん。
「それより、この(1)とか1/3とかって何なの?」
「分割してアップロードしたってことだろう。1つの映画をそのままアップロードとかすると重すぎるしな。1/3なら3つに分けた内の1つ目ってことだ」
 再生してみると、確かにあの朝比奈さんが恥らいながら歌っている”恋のミクル伝説”と共に、オープニングが始まった。本物らしいな。
「へー、なかなか便利じゃない」
 俺に取って代わって、椅子に座っていろいろ検索をし始める。まあ、好きなようにしてくれ。
 ……しかし、マスターのデータみたいに綺麗だったな、あの動画。誰がやったんだろうか。放映のために渡した映研か?
 まさかな。そんなことしたって何の得にもならん。
 うちの部員がやったとすると、ハルヒの命によるものだとは思うんだが、見たところハルヒが「元SOS団、現SON組の布教活動のために、映画を他のところにも流すわよ!」なんて言った様子もない。単独でやったとするなら、こんなことができそうなのは、今まさに新しいボードゲームも制覇し終わった、無口な宇宙人くらいだろう。
 丁度こちらに気づいたようなので、ちょいちょいと長門を呼んで事情を説明してみる。
「長門、お前文化祭の時に作った映画、誰かに渡したりしたか?」
「してない」
 そうだよな、必要ないもんな。
「何故かあの映画が、とある動画集合サイトに置いてあったから、もしかすると長門がやったのかと思ったんだが」
「しかし、理由に検討はつく」
「何だ?」
「数ヶ月前、コンピュータウィルスとあなたたちの言語で表現される異常情報にこのコンピュータが感染したとき、内部のデータが一部流出した可能性」
 数ヶ月前……? 何かあったっけか、さっぱり思い出せん。
「SON組としての活動方針を転換し、ブログという日記形態の情報区画へ記載するように決定した頃」
 えーっと、そうすると、大体色が無くなったとか騒いでいた頃か?
「そう」
 そんなこともあったような、なかったような。
 ……ああ、コンピ研の部長さんが直々にやってきたあの時か。長門が自分用のコンピュータと繋いで、何をやったか知らないが、ほとんど元の状態に戻したんだっけな。
「そう」
 あの時か、確かにありうるな。
 まあ、あそこにあってもさして問題は無いだろう。ハルヒに至っては、いい情報発信源になるわ! とか考えてるに違いない。
「あーっ!」
 画面を見ていたハルヒがなにやら叫んだ。なんだ?
「ここって、心霊現象とか、UFOとか、そういうのも置いてあるんじゃない」
 とうとう見つけた親の敵、とでも言うかのように目を煌々とさせて笑うハルヒ。どうやら、さっきの自主制作映画の件に関しては、新しい”超常現象動画”というおもちゃを手に入れた子供と同様、どうでもよくなったらしい。
「キョン、あんたもどうで暇なんでしょ。くまなく探さなきゃいけないんだから、ここに座りなさい」
 俺もかよ。お前1人で見ればいいじゃないか。
「有希もこっちに座りなさい」
 いつも通りの反応だ。勝手に椅子までセッティングを開始する。ここまできたら、もう逃げられないのは間違いない。素直に見るとしよう。
 ボードゲーム隊もキリがついたようで、ハルヒの鑑賞に付き合わされ、全員で小さなパソコンの画面を見ることになった。せめて、もうちょっと大きい画面で見たいものだ。
「もっと大きい画面が欲しいわね」
 こういうところだけは、気が合うらしい。
 結局その日は終日鑑賞会になったが、予想通りそれらしい動画は見つからなかった。そりゃ、そんな動画がアップロードされてたら噂になるだろうさ。
 しかし、期待通りの動画が見つからなかったせいで、次の日の古泉の顔には若干の隈ができてたとか、できていなかったとか。