「寒い!」
「ま、そりゃもう冬だからな」
寒いは寒いが、それでも長門が魔改造してくれたヒーター2台のお陰で、本来なら冷え冷えとしているだろう部室の内部温度も、秋口くらいの外と同じくらいの温度にはなっているだろう。そんな中でこたつまで併用しているんだから、言うほど寒さに耐えているというわけでもない。
「今までこんなに寒いときあった?」
とりあえず今までもこの時期はかなり寒かった。じゃあ実際にどれくらいの温度だったかなんてのはさすがに思い出せないが。
「僕も確かに例年よりも寒い気がしますね」
いつも通り、ハルヒの付和雷同する古泉。
……なんだろう、当たり前のことなのに随分懐かしい気がする。
「地球温暖化とか絶対嘘でしょ。あーあ、最悪だわ」
はあ、と溜息を吐きながら両手をこたつ布団の中に突っ込んで、顔をこたつ机の上にくっつける。
しかしハルヒがそう溜息を吐く理由は、単に冬の寒さだけが原因なわけではない。というか単に愚痴の捌け口に寒さを使っているだけだ。どうしても寒さに我慢できなくなれば、また長門でも動かしてこの寒さをどうにかしてくれと頼んでいるはずだからな。
根本的な問題はもっと別にあった。
「あーもう、なんで中止になったのよ」
「照明の故障だろ?」
「何でこんなタイミングで故障するのよ。絶対これは誰かの陰謀よ。あたしたちSON組の活動の妨害をしようとしている存在が居るのよ! それは何処のどいつ? 見つけたらけちょんけちょんのめっためたにしてやるわ」
毎回毎回、こうやって何かのせいにするのはお決まりのパターンだが、それはさておき何でこんなにハルヒの機嫌が宜しくないかという説明くらいはしておかないといけないだろう。このまま何事もなかったかのように話が続いても、「ああ、今日もハルヒは不機嫌だなあ」という、これまたお決まりのパターンだなあと流されそうだから、それはまあそれでもいいのかもしれない。実際その通りだし。
それでも理由が分からないまま、ハルヒが機嫌の悪そうな様子を淡々と述べているだけでは、この状況を描写することに埃程度の意味もなくなってしまうため、一応どういう状況がハルヒの溜息地獄を繰り出させるようになったのかの簡単な説明くらいはしておこうと思う。
既にハルヒのセリフからある程度は予想できると思うのだが、原因はSON組の活動絡みだ。
普段から”普通じゃない”ことに関してだけは頭の働く涼宮ハルヒが、宇宙人だか未来人だか忘れたが、とにかくハルヒの好きそうな良く解らん存在を、まるで悪の手先専用にも見える魔法陣で、夜中の体育館の床に描いて呼びだそうという企画をしやがった。
何で魔法陣なのかとか、何で体育館なのかといろいろ尋ねてみたが、どれもこれも答えが「ネットにそう書いてあったからよ!」と。そのネットの書き込みをした奴には数年に渡ってインターネット接続禁止を命じたいね。
単なる女子高生が思いついたことなら、ちょっと厨二病の気がある少女が感情に任せてしゃべってしまったというだけで、人によっては温かい目で見てやることもできるんだろうが、こいつは思い通りに環境の方が変わっていくという、とてつもない能力の持ち主だってことは既に実体験で理解している。
つまりヘタをすると、俺たちが今住んでいる世界が、想像上の存在だったはずの地獄の門番の闊歩しているものとか、朝起きたらパソコンに悪魔を召喚するプログラムが送信されて悪魔召喚士になってしまうとかいうありえない状況に作り替えられてしまう可能性だってあるわけだ。これは言うまでもなく非常に危ない。
もちろんその話の内容について、真贋を鑑みることもなく、ただ面白いものを見つけたからやってみたいという、突き上げるような好奇心のみで行動するハルヒに説得など通用するわけがない。
だが常識的に考えれば、そんな怪しげな儀式のために体育館を貸してくれるところなんてまずありえない。儀式のことを隠していても、ハルヒ案ではチョークで体育館の床に魔法陣的なものを描き、その上でろうそくまで立てる必要があるとの主張を繰り返していたが、そんな条件を許可してくれるような場所は無さそうだと踏んでいた。そもそも利用時間も利用時間だってのもある。
ハルヒの主張をそのまま言うと、間違いなく電話をした俺たちの頭を疑われるため、さっき言ったようにチョークで床に文字を書くとかろうそくを立てるなんていう嘘ではないが事実でもないことを言うと、当然のごとくほとんど体育館側からは許可が出なかった。
……そう。ほとんど。全部ではなかった。
さすがに驚いたね。こんな無茶を通してくれるようなところが存在するなんて思っていなかったから、ハルヒがすぐ傍で話を聞いていたってのに、「え、いいんですか?」と反射的に答えてしまったのが運の尽き。ハルヒに即座に日程を取るようにと言われ、あれよあれよという間に決行日が制定されてしまったのだった。
決行日が近づくに連れて俺の体調が大きく低下してきていたのだが、つい今しがたに電話が掛かってきて、体育館の照明が壊れてしまったためにお貸しできなくなりましたと言われたのだった。
最初は懐中電灯でも使えばいいとかハルヒが言っていたのだが、完全に照明が割れているらしく、取り替えるまでは立ち入り自体を禁止しているとのことで、断念せざるを得なくなった。
とまあこんなのが事の顛末だ。
「でも、さすがにちょっと照明を壊すのはやりすぎだと思います……」
少しだけ心配そうに朝比奈さんが俺に耳打ちしてくる。
「いくら涼宮さんが危険なことを考えているとはいえ、照明を壊すのはあの、犯罪ですよね」
「え?」
「え?」
この驚きよう、もしかしなくても俺がハルヒの陰謀を潰すためにわざわざ照明を壊したと思っているようだった。
「あれ、キョン君が壊したんじゃないんですか?」
「違いますよ」
いくらなんでも、そんな暴挙には出ませんよ。