ハルヒは長門の手から手紙をひったくると、裏返したり電灯に透かして見たりしていたが、しばらくしてから俺たちを見て、
「これ、学校に届いたやつと同じよね」
 そうだと思う。差出人が同じとは限らないがな。
「有希、これどこにあったの?」
 無口で指差したのは、ハルヒたちが監視していたはずのポストだった。
「どういうこと? あたし達はずっとポストを見張ってたのよ。あたしたちが見張る前は何もなかったわよ。」
 整った眉をボーゲンするスキー板みたくひん曲げて、夜、それも校舎傍であるということも忘れて、ハルヒは大声で長門を問い詰める。
「あたしたちは途中で寝たりしてないし、目を逸らしても無い。そうよね、小泉君!」
「ええ、その通りです」
「なのに、なんでその手紙がポストに入ってるのよ。どう考えたっておかしいじゃない!」
 がしがしと頭を掻いて「分からない」をリピートする。それについては俺も同感だ。
 1人で監視していたならまだしも、2人で監視している間にどちらも居眠りをするとは考えにくいし、もしそのときを待ってどこかに潜んでいたのなら、あまりに無謀な賭けだろう。それとも、突然俺たちが来てどうしようか悩んでいたのかもしれないな。
 まあそれはいいとしよう。今問題になっているのは、あそこまでハルヒたちに全く気づかれないで行く方法があるとするなら、それは手紙が突然ポスト内にテレポーテーションとかなんとかの技術で飛んでいったか、透明人間がハルヒたちの前を堂々と横切って投函したか、という2択になるであろうことだ。どちらにしても、現実的ではない。
 そもそも透明人間説は手紙の方は見えてるはずだろうし、そんなことになったらハルヒが見逃すわけがない。たちまち見つけて、「手紙が浮いてるわ!」とかなんとか言って騒ぎ出すに違いない。ってことは、テレポーテーション説か?
 そんなことをそろそろ眠気が襲ってきた頭で考えていると、
「おい! そこで何している!」
 やっぱりハルヒの大声に気づいたんだろう。用務員だろうと思われるおっさんに見つかった。校舎の見回り中だったんだろう、おっさんは懐中電灯を振り回しながらやってきて、俺たちが見えるところで静止した。
 肩で息をしながら、
「お前たちが犯人だったのか!」
 どこぞの探偵が犯人を追及するかのごとく、人差し指を俺たちに向けた。この場合の「犯人」っていうのは、一昨日と昨日の騒ぎのことだろうな。
「いや、俺たちは……」
 そこまで言ってはたと気づいた。しまった。ハルヒが今まさに、あの手紙を持っているんだった!
 それに気づいたか、ハルヒの方を見てから一瞬静止し、
「詳しい話は用務員室で聞かせてもらう。さっさと来てもらおうか」
 ハルヒにといい、こういう事件にといい、俺はいつでも退路を封鎖されているらしい。ハルヒを見ると、観念したというより、手紙をどうやってあそこに入れたかというトリックを見破る方に意識が行っているんだろう、用務員のおっさんの方を向いてもいない。
 ああ、なんでこんなことになったんだろうな。

「で、どうしてこんなことをしたのか、聞かせてもらおうか」
「いえ、俺たちがやったわけじゃないんですよ」
 名探偵モードのハルヒ除くSON組メンバーは無実を証明しようとするが、正直こんな時間、あんな場所に立っていたら、俺だって疑うだろうし、それ故に疑っているこのおっさんの理解を仰ごうとすることが非常に難しいことは分かっている。分かっているのだが、信じてもらうしかない。本当に何もやってないんだからな。
「……というわけでして」
「誰がそんなものを信じるんだ」
 さっきからこんな感じで、数トンはするような跳ね橋を1人で持ち上げてる状況に似ている。
 こういうときは仕方がない。長門に何か秘策はないかと尋ねようとしたが、
「長門?」
 いざというときに頼りになる小さな魔法使いはその姿を見せていなかった。あいつどこに行ったんだ。まさか1人だけ逃げ帰ったとか。
 いや、それはないだろう。あいつはどっちかと言えば、涼しい顔をしたまま罵詈雑言を華麗に聞き流し、一言も発さずに相手が疲れたところで出て行くだろう。時間の概念とかも大してないらしいし、こんなことを悩む必要も、
「おい、聞いとるのか!」
「あ、は、はい」
 大声で呼びかけられ、大仰に反応してしまった。
「そういや、あの手紙はどうした?」
「いえ、それは……」
 長門が持ったままどっかに行っちまったわけだが、素直に「長門有希という女子が持って行きました」は言えない。そんなことを言ったら、俺たちが犯人だとほぼ確実にインプットされてしまうだろう。それは避けたい。
 さて、どうやってこの場を切り抜けようかと思った直後、何者かの手によって用務員室の入り口の扉が開かれた。
「……」
「有希?」
 制服を着た魔法少女が、右手に手紙、左手に新聞らしきものを持って現れた。
「何処行ってたのよ」
「お前は最初に居たはずだが、いつの間にそんなところに居たんだ?」
 問いには答えず、長門が発したのはこんな言葉だった。
「犯人」
 すっと指差したのは、俺たちを説教しているおっさんだった。
「な……何が犯人だ」
「その手紙を出したのはあなた」
 突然何を言い出したんだ、長門は。この人が、あの手紙を出した犯人だって言うのか?
「そう。学校内に居たために誰にも気づかれなかった」
 つまり、なんだ。俺たちは”外から”手紙が投函されると思い込んでいたが、実のところ手紙は”中から”置かれていたと。
「そう」
「しょ、証拠はなんだ?」
「この新聞」
 長門が左手に持っていたのは新聞で正しかったようだ。
「あなたの机から発見された」
「勝手に誰かが置いたのかもしれんぞ」
「指紋を取ればすぐに分かる」
「おじさん、さっさと観念したら? あたしはもう全部分かってたんだから」
 突然ハルヒが元気になる。こいつのことだから、長門が言ったトリックにさっぱり気づいてなかったんだろうが、形勢逆転したということと、もやもやとしていた謎が長門のお陰で解けたからだろうな、元気になって管理人のおっさんに詰め寄る。
「ぐっ……」
 ハルヒには物理的に、長門には精神的に迫られたせいだろう。
「……すまなかった」
 あっさり犯行を自供し、謝った。何故かそのときのハルヒは非常に嬉しそうで、お前はいいところだけ持っていっただけだろうと言ってやりたくなったが、こいつは自分の都合のいいように全部脳内変換する機関が存在するようだから、まあやめておこう。
「でも、なんでこんなことしたのよ」
 うな垂れたおっさんは、驚くべきことを口にした。
「実は、娘が誘拐されてしまったんだ」