教室に来ると、既に長門・実希・朝比奈さんが居た。
「あ、おはよう、キョン君」
 おはようございます、朝比奈さん。早いですね。
「今日は大晦日ですから、おせちを作ろうと思って」
 おせちですか、やっぱ正月にはおせちですよね。
「ですね。材料の足りない分は長門さんたちが持ってきてくれたので」
 そうなのか。
 向かいあわせで海老に刺さった串を抜いていた長門が、今日は本を読んでないんだな、首肯する。ちなみに実希は隣で重箱に数の子を詰め始めている。
「ねえ、どこに埋めたの?探したんだけど見つからないわ」
 ドアを開けて朝倉が入ってくる。何の話だ?
「あなたたちが埋めた、っていう大根とか人参とかよ。お雑煮とか作るときに必要なんだけど」
 ああ、それならこっちだ。朝倉と二人、前埋めた場所へ。
 あれ、どこだ?この辺りの花壇だったような気がするんだが。
「埋めて保存状態がよくても、場所が分からなかったらだめでしょ。また買いにいくしかないわね…」
 すまん。しかし、なんでだろうな…そこまでボケてないはずなんだが。ハルヒに埋めてこいと言われて、古泉とスコップを持って裏庭へ行き、場所を探したら実希が居て……。
 ん?なんだ。何か実希言ってたよな。
「これで来年までは誰もここを掘りません」
 新年からの雑煮に使うものもあるが、牛蒡などおせち料理に使う、つまり大晦日に使用するものも埋めてある。来年まで誰もここを掘らない、ということは何をやったか分からないが、今日つまり12/31には掘れないわけだ。通りで…。
 教室へ戻って実希を呼ぶ。
「実希、お前がやったあの謎のあれ、解除してくれないか?」
「…?」
「ほら、いろいろ埋めた花壇の…」
「誰も掘らないようにかけたあれですか?」
「あれです」
 しばし思考。
「何か問題でも?」
「来年、じゃなくて今日必要なものもあるんだ」
「…そういえばそうでしたね」
 お前も気づいてなかったわけだな。まあ、気づかなかった俺も俺だが。
「無理ですね」
「なんでだ」
「あれ、期限が切れるまで消せないやつですから」
 ってさらっとそんなことを言うな。どうしようもないのか。
「私の能力は情報統合思念体に申請するものではないので、いろいろと制限がかかっているのです。ですから、私には解除できません」
 そうか…、仕方がない。必要な分だけ買いに、
「はい」
 声に振り返り、長門、なんだこの土の塊は。両手を真っ黒にした長門が抱えてるのは良く見るとじゃがいもや人参で。
「それ、どうしたんだ?」
「掘ってきた」
「…どこからだ」
 まさか近くの農家のとか言わないよな?
「あなたが埋めた場所」
「でも、お姉ちゃん。私が…」
「解除した」
 …さすが長門だ。あっさりとやってきた。
「実希、あなたには確かに解除はできない。でも、その技術を教えたのは情報統合思念体。解除方法も情報統合思念体が知っている。だから解除の申請をしただけ」
 そういえばそうだな。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「妹のミスは私のミス。構わない」
 組長で姉で。今まではただハルヒを監視するだけの仕事だったのに、急に新しい二つの肩書きを請け負った。今まで全然やったことのないことだったのに、長門はちゃんとこなしている。やはり、少しずつ成長している。
「おせち、続きを」
「…あ、はい」
 呆気にとられていた朝比奈さんが笑顔に戻る。俺にはよく分からないが、何かを煮る鍋の前に居る朝比奈さんのその横で、長門と実希がそれを覗いている姿はお母さんと双子の娘に見えて、ああ朝比奈さんに子供ができたらこんな感じなんだろうと想像し、穏やかな気持ちになった。
「邪魔よ、キョン。へらーってしてるなら、さっさと飾りつけ手伝いなさいよ」
 いつの間にハルヒ来てたんだ。
「いつの間にって…あんたがぼーっとしてるだけで、大分前に来たわよ。ほら、さっさと手伝うの」
 ああ、分かったよ。

 夜になる頃には飾りつけも終わり、おせちも重箱に詰め終わっていた。お疲れ様です。
「いえいえ。長門さんたちも手伝ってくれましたし」
 やっと年越しか。
「うーん、なんか足りないわよね。何かしら」
 全部終わったと思、
「そうよ!年もうすぐ越すのに年越しそばがないじゃない!」
 確かに、年越しそば食わないと年越した感じがしない。
「大丈夫、ちゃんと用意してるわよ」
 朝倉が手提げ鞄から大きな紙袋を取り出す。…中は全部蕎麦なのか?
「ええ。どれだけ食べるか分からなかったからいっぱい持ってきたの」
「あっちゃー。私の方も持ってきたんだけどさっ」
 鶴屋さんもで…、また随分と。
「たくさん食べるかなと思ってね!」
 本当にいつもありがとうございます。正直、礼しか言ってない気がするが。
「いいのよ」
「気にすることないさ」
 それでも、言わずにはいられないんですよ。
「蕎麦、もうゆでた方がいいですか?」
「そうね、もうお願いするわ」
「はい、分かりました」
「私も手伝うわ」
 朝比奈さんと朝倉が火に鍋をかけて蕎麦を湯で始めた。
「にしても今年もいろいろあったわね」
 ああ、そうだな。全般的に思い出したくないことの方が多かったが。
「来年こそは、きっと宇宙人やそれに準ずるような人間に会いたいわ」
 俺は平凡な生活を望むね。
「私はもっとおもしろいことやりたいね!」
「僕は新しいことを初めてみたいですね」
「わ、私は料理が上手くなりたいですぅ」
「そうね、もっと刺…じゃなくて幸せになりたいな」
「実希、あなたは?」
「そうですね。もっといろんな本を読みたいです」
 結構みんな夢が妥当なんだな。俺も人のこと言えないが。
 長門、お前はどうなんだ?
「…世界が平和になるように」
「随分スケールが大きいな」
「大きい方がいい」
 かもしれないな。俺も最近そんな気がしてきた。
「よし、もうそろそろ12時よ。みんなでジャンプするわよ」
 どういうことだ?
「2007年の新年は地球上に居なかった、っていうのおもしろいじゃない」
 …そうか。
「そうよ」
「そうですね、おもしろいかもしれません」
 古泉が賛同する。まあ、別にいいけどな。
「じゃあ、みんな構えなさい」
 みんな立ち上がって…。
 3,2,1…!
「ジャンプ!」
 来年もいい年になりますように、そう願って。