「キョン!」
古泉と某カードゲーム中。俺のターンの、ドロー!とかやっていると、パソコンの前で1週間外出禁止を命じられた子供みたいにむすっとした顔のハルヒに呼ばれる。
「HPのカウンタが全然回らないのよ」
そう言って、俺に見せてきた画面は既に化石化し始めているSOS団のHPだった。そういや、まだ残しておいたんだったな、このページ。
「SON組の方はカウンタが結構回るんだけど、こっちが全然回らないのよ」
そりゃそうだ。SOS団の活動とSON組の活動はあまりに内容が違いすぎる。まあ、それはこの電子的仮想空間の中限定であって、普段の活動内容はなんら差はないとも言えるが。
SON組のブログは「生徒社会の大いなる発展を願う組合」という大義名分を掲げ、週1くらいのペースを保ちながら更新をし、その中でいろんな生徒の受賞内容や活動を載せている。少々見栄えが悪くても、内容が内容だ、確実にカウンタが増えるのも頷ける。
一方、SOS団は未だにトップページのみである。その上、あのハルヒが描いたカラフルなミミズ文字を長門がそれっぽく書き直した画像が貼ったまま数ヶ月が経過しており、見栄えも内容も最悪と言わざるを得ない状況だ。つーか、俺としては、SON組としての活動を開始してから今までで、2桁カウンタが変化している方が驚きだ。多分、どっかで間違えてリンクが貼られて、名前に思わず釣られてクリックし、迷い込んだってところだろうが。
しかし、それら全てを一字一句間違えずハルヒに言うとすると、疾風怒濤の責め文句が返ってくるのは間違いない。
「そうだな。まだトップページしかないからじゃないか?」
最初の一文のみ告げることにした。
「あんたが別のページ書かないからでしょ」
未だに活動内容が不明、というか大きな声で言えないようなことをしているのに、どんなことを書けというのだろうか。それに、既にSOS団としての活動は終了してるからな。
「それに、みくるちゃんの写真も載せられなかったし」
ハルヒはへの字に口をひん曲げながら、不満をもらす。
「何か方法はないわけ?」
俺に聞かれても困る。というかできたら既にやってるさ。こうやってだだ漏れするハルヒの文句を止めるためにな。
しかし、本来の内容が「宇宙人(以下略)と仲良く遊びたい」なんていう内容を掲載したページをどうがんばっても、足繁く通ってもらえるような良ページになる方法は断片的にすら考え付かない。そうだな、おもしろおかしく、ただのギャグに成り下がるくらいの覚悟ならまだしも、UFOのまともな目撃談やそれらしい話を期待することは陸上で金魚の餌を仕掛け、金魚を捕まえようというくらい無謀である。
「他の宇宙人だのなんだの関係のHPでも参考にしてみたらどうだ?」
残念と言うかなんというか、世の中ハルヒみたいな考えをしている人間がゼロではないらしい。宇宙人という単語で検索サイトを利用すると、割とそれらしいページがヒットする。その中で割合カウンタが回っているようなページを参考にしたらいいんじゃないか?
「そんなのじゃおもしろくないじゃない。独創性が必要なの」
だったら一体どうしろというのか。
「それを考えるのよ」
背もたれに体を預け、腕を組んで悩み始めた。
ハルヒ、そろそろ諦めてみてはどうだ。もういいんじゃないか、そこまでして探さなくても。こうやってみんなでのんびりと過ごすだけで充分だろう。平穏はいいぞ。
というか既に夢は実現しているんだ。お前の斜め後ろで本を読んでいる長門、あいつが本物の宇宙人なんだ。良かったじゃないか。後は思う存分遊べばいい。
まあ、信じないよな。俺もそんなことを言われて、普通信じない。
「やっぱ目玉になる内容が必要なのよ」
「まあ、そうだろうな」
目玉になる内容ね。宇宙人がギターを文化祭で完璧に弾ききる様子とか、未来人がメイド服でお茶汲みしてる様子は本来目玉になる話なんだろうが、ハルヒにとってそれはリアリティな話ではない。というよりは、未だに頭とか目がやけにでかい赤ちゃんみたいな姿じゃないと宇宙人じゃない、未来人なら変な服装をしていて光線銃なんかを引っさげているし、超能力者なら人の思考を読み取ったり、物を動かしたりする能力がないといけないといった”ハルヒ的脳内整合表”が存在するんだろう。ああ、実に厄介だ。
「あ、そうよ!」
何かを閃いたらしい。
「前、3万カウントまで急激に上がったんだから、そのときと同じ方法を使えばいいじゃないの!」
同じ方法、ね。
静かに英語が表紙にずらりと整列している本のページを捲り捲りしている長門をちらりと見る。あのときの方法ということは、またあんな意味の分からない閉鎖空間に閉じ込められるということか。勘弁してくれ。
「ああ、あれはだな、なんかウイルスにHPが感染していたらしくてな、勝手に他のページにリンクされて強制的にこのページに飛ぶようになっていたらしい」
もちろんそんなウイルスが原因でもないし、まずそんなウイルスはない、と思う。
「なんだ、つまらないわね」
「現実なんてものは、そんなもんなんだよ」
キーボードをどけて、そこに溜息をついて突っ伏すハルヒ。が、直後形状記憶でもしていたかのように、背筋をピンと伸ばした。何事だ。
「だったら、そのウイルスをまた作って、ネットにばらまけばいいじゃない」
ちょっと待て。
「コンピ研もそれくらいできるでしょ。行ってくる!」
そう言って部屋を飛び出していった。俺はすぐに見えなくなったハルヒを想いながら、アクセスカウンタが勝手に回るウイルスと言っておいた方が良かったな、と遅すぎる後悔をした。