うーむ。
「……」
 現在ハルヒはぐっすりと夢の中である。そんなハルヒを見ていると、あいつもああやって静かにしてれば、ちょっとは可愛げがあるんだが、という思いが忘れかけた親の仇みたいに再沸し始める。と思ったら、時折「こら、キョン。さっさとそれしなさい」とか小声で言っている辺り、夢の中でさえ俺に何か指示しているようで、やっぱり可愛くも何ともねー、と思ってしまう。
 ……って、もちろんそんなことはどうでもいい。
 気にしているのは、そのハルヒの体の下敷きになっているあのでかい人形。ハルヒが今現在進行形で枕兼敷布団にしているやつだ。「ふかふかで最高よ」とか言っていたくハルヒが気に入ってしまい、完全に定位置になっちまっているようである。暢気なやつだ。
 残念ながら俺には可愛い外見に惹かれたわけではなく、その中身である。
 なんてったって、監視カメラ付きなのである。本来警察に見つかったら逮捕ものだろうが、というより本来これを警察に届け出るべきなんだろうが、送り元が送り元だから多分日本というか今の地球の法律では裁けないんだろうし、諸事情によりそれすらも不可能らしい。
 昨日の話を思い出して、最近回数をカウントすることさえ億劫になり始めている溜息をまた1つ吐いた。

 鶴屋さんが言うには、これが送られてきた原因は数ヶ月前のある事件に遡るらしい。それは何だったかというと、世界中を巻き込んだ性格大変革のことだ。
 しばらくは向こうの世界に気づかれなかったが、誰かリークでもしたんだろうな、鶴屋さんの所属する派遣会社の上層部に漏れたらしく、当然のことながら鶴屋さんを仕事からはずすかの会議みたいなものが開かれたということだ。
 しかし、今回はまだ初犯だからということなんだろうな、若干日の監視を置くことで許す、という方向性で一致して、その監視役ということでこんなどでかいものを輸送してきたらしい。その方法は知らんが、おそらく知りたくても長門的に言って「言語化できない」ものだろう。
 まあ鶴屋さんが言うには、
「正確には何か大きな事件が起こったら、それに反応して情報を転送するだけさ。だから常時観察しているわけじゃないから安心していいよっ」
 ということだが、やってることは結局監視カメラと同じわけで、居心地が悪いことに変わりはない。
 周りを見てみると、どうやら気にしているのは俺だけではない様子で、さっきから朝比奈さんがハルヒの方を、正確には人形の方をちらちらと見ながら服装を整えたり、いつも以上ににやにやしている古泉とか、いつもの笑顔になんだかんだで冷や汗を流している鶴屋さんとか。
 普段通りなのは壁際でじっと本を読んでいる2人とその横で何やら編み物みたいなことをやっている朝倉、つまり情報統合思念体直下のインターフェースたちである。こいつらはほとんど動じないよな、何があっても。
 まあ、確かにあの3人は生死に関わるような生活を潜り抜けてきたわけだから、3人にとっては大したことじゃないのかもしれんな。
 よく考えれば、ただの監視カメラ。突然夕方の教室に呼び出され、灰色空間に閉じ込められ、血の滲むような戦いを迫られるような心配はないわけだ。
 そうするとだんだん気にしているということがどうでもいいことに思えてきて、悩むだけ無駄だよなと悟り始める。ということで、古泉とボードゲームでも開始することにした。
「もう気にしなくてもよいんですか?」
「気にしても仕方がないだろう」
「まあ、確かに」
 さいころを転がして、コマを進める。すると、本を読んでいた長門が隣までやってきて進めたコマを凝視し、それからこちらに平穏な海みたいに波風のない目を向ける。
「長門もやるか?」
 一度だけ首を縦に振る。だったら新しいコマを用意しなきゃな。
 ……よく考えたら、長門は前やってたボードゲームで無類の強さを発揮していたような気がする。それを長門は察したか、
「……大丈夫。手加減する」
 いや、それはそれでなんか悲しいが。
「じゃあ私も入れてもらおうかな」
 編み物にきりがついたらしい朝倉が雑多に編み物類が入っている紙袋に製作途中の作品を入れて、長門の隣までやってくる。もう1つコマ追加っと。
 とか言っていると、さすがに実希も1人で読書するのに飽きたか、はたまたやかましくて読書に集中していられず、こうなったら自分も騒いでしまえという意味かは分からないが、参加を宣言し、寝ていたハルヒまで起きだして、
「何みんなでやってるの。あたしも混ぜなさい!」
 結局その日、人形の方はそれから一度も振り向くことはなかった。まあ、慣れだよな、慣れ。