<トーナメント 決勝戦 涼宮ハルヒVS長門有希>
羽子板を構えたハルヒと長門。その間を一陣の風が吹き抜ける。寒空の下、なぜかこの辺りだけは熱気が渦巻いていた。
…なんだこれは。正月の羽子板じゃなかったのか?
「それは間違いないと思いますよ」
なのに、この空気はなんだ。羽子板ってこんなに空気がピリピリするものなのか?
「構わないでしょう。涼宮さんは楽しそうですよ」
「有希、負けないわよ」
「私も」
まあ、がんばってくれ。
ハルヒからのサーブ。1投目。
「さあ、行くわよ!」
カンッ、と高い音と共に打ち出された羽はかなりのスピードで長門の方へ飛んでいく。長門は小さく動いて軽く打ち返す。ハルヒの足元すれすれへ打ち返されたそれを打ち返すハルヒへ、長門のカウンター。先制点は長門だ。
「まだまだ!」
ハルヒのサーブ2投目。今度は高めに飛んだ羽を打ち返した長門の足元へ、ハルヒが羽を打ち返す。長門が掬いあげるように打ち上げると、ハルヒは長門の頭の上を越えるところへ打ち出す。長門はこれを返せなかったため、得点は1VS1となる。
3投目のサーブは長門の胸元に飛ぶ。バックステップで下がって羽を打ち返すと、ハルヒはもう一度長門の胸元へ打ち出し、これを長門がバックステップで下がり…。最終的に上手く打ち返せなかった長門は落ちる羽を見送るしかできず、古泉はハルヒへの得点を宣告する。
「では、長門さんのサーブです」
こくりと頷き、長門は羽を持って羽子板を構える。ハルヒの頭上を狙った羽はハルヒの構えた板によって向きを変えられ、長門の板でまた向きを変えられる。
と、
「えぇぇぇい!」
ハルヒのフルスイング。
「あ、あれは!」
「朝倉、何か知っているのか」
「必殺スマッシュよ!」
……そうか。
「何よ、もうちょっと乗ってきてくれないの?」
「今のはものすごく乗りづらい」
せめて、「落ちる流星みたいに打ち込む、流星打ちよ!」とかそういう分かりやすいネタ振りをしてくれ。
「それは恥ずかしすぎるわよ」
十分必殺スマッシュとかいうのも恥ずかしいぞ。
「あ、あれって必殺スマッシュって言うんですかぁ。知りませんでした」
朝比奈さん、本気にしないでください。
「え、え?」
試合の方は次もハルヒが得点を加え、4VS1。大分長門が押されているな。
「当たり前じゃない」
朝倉が訳知り顔で言う。どういうことだ?
「涼宮さんとの対戦の最初から、有機生命体の一般女子と同じくらいまで身体能力落としたからね」
「なんでそんなことするんだ?」
「さあ、何故かしら?」
いつものあの超人的能力で戦えばいいのにな。
「本気でそう思うの?」
なんかおかしいか?まあ、ハルヒにばれたら困るってのもあるんだろうが。
「うーん、長門さんも大変ね」
「涼宮さんに得点ですね。現在7VS4です」
いつもの長門の能力なら長門の勝ちだが、あの能力を使わない状態でハルヒには敵わないだろう。やれやれ、またあいつのわがままに振り回されるわけだな。
「そうでしょうか」
小声で耳打ちしてくる古泉。
なんだ、古泉。お前は勝てると思うか?
「勝てる、と断言はできませんが、今の状態でも長門さんが勝つ可能性はありますよ」
「しかし、ハルヒは一般女子以上の運動能力だぞ」
「長門さんのがんばり次第、というところでしょうか」
長門のがんばり次第、か。しかし、優勝したところで俺と1日過ごすくらいだぞ。大した賞品でもないしな。負けず嫌いなら負けず嫌いで勝てる方法を取ればいいわけだし……良く分からん。
「ま、見てればいいさっ」
試合は8VS6から長門の板が羽を捕らえられず9VS6となり、羽子板には合わないがマッチポイントと言うべきだろう、長門のサーブになる。
そしてここまで無表情に羽を追っていた長門は反応した。実希のたった一言に。
「負けてもいいの?」
羽を構えて小さく言った長門。
「……良くない」
そこから、長門の猛反撃が始まった。
ハルヒから帰ってきた羽を正確に打ち返し、前に後ろに揺さぶって崩れたところをフルスイングでハルヒの打ち返せないギリギリの場所へ羽を飛ばす。9VS9。最後の最後までもつれ込んだな。
ラストは、ハルヒの提案から2点連続ではなく、1点取った時点で勝利となるルールになった。早く決まる分、緊張感が高まる最終戦である。
みんなが見守る中、ハルヒからのサーブされる羽が空を舞う。長門の足元に飛んだ羽は長門が体勢を低くしハルヒの左へ打ち返すが、ハルヒもこれを予想していたか、しっかりと羽を打ち返す。高めに打ち上げられた羽を今度は右、と見せかけてまた左へ打ち返す長門。ハルヒもこれまた打ち返し、長門の腰辺りへ飛ばす。長門がハルヒの頭上に羽を打ち返し、それをハルヒが、まずいハルヒはスマッシュの体勢だ、
「有希、悪いわね!」
打ちおろす。今まで以上に全力のスイングで、これは取れないと誰もが思った瞬間だった。
コン、と軽い音がしてハルヒの足元へ羽が飛ぶ。……打ち返しやがったよ、この長門さんは。
ちなみに朝倉が言うには最後まで能力は落としたままだったらしい、ということを記しておく。
「私の勝ち」
返せると思わなかったんだろう、ハルヒの驚いた顔は珍しい気がするぞ、
「……えー、9VS10で長門さんの勝ちですね」
古泉の宣言で試合終了。
「有希…あんた強いわね」
「本気だったから」
「あたしも本気だったんだけど……まあいい勝負だったわ!十分楽しんだしね」
長門もこくりと首肯する。
「優勝賞品として、キョンを1日自由にしていいわよ」
いや、だからなんでお前がそんなに偉そうなんだ。俺にも人権というものがだな、
「キョン君。長門さんもがんばったんですから、それに報いてあげるべきだと思いますよ」
「そうそう、有希ちゃんめがっさ強かったしね!それくらいしてあげてもバチは当たらないんじゃないかなっ?」
まあ、そうですが…。
「………………」
わ、分かった。その捨てられた子犬のような目で、いや無表情なのはあまり変わらないが、こう空気がな、こっちを見るな。ちゃんと1日空けるから!
「そう」
それで、いつがいいんだ?
「……まだ考えてない」
「よし、じゃあ有希。これをあげるわ」
なんだハルヒ、その紙は。……「キョンを1日自由にしていい券」。なんというか、子供の頃の「肩叩き券」と似たようなもんだな。というかこんなものをいつの間に用意してたんだ。まさか、このトーナメントを始める前から決めてたんじゃないだろうな?
「それに日付を書いて、キョンに渡しなさい。そしたらその日にキョンを1日自由にしていいわ」
「分かった」
大きく、今までないくらいに、大きく頷いてハルヒから券を受け取る長門だった。
…って俺の質問は無視か!