「キョン、あんたでしょ」
 長門以外が勢揃いしたいつもの活動時間。パソコンを起動させた直後、つまみ食い犯を見咎めるがごとくこちらを睨むハルヒ。怒られるようなことは身に覚えが無いんだが。
 ああ、今ここに居ない長門はコンピ研へ出張中だ。昨日、今日とゲームのプログラムの手伝いをするとか言っていたな。
「何の話だ」
「パソコンのデスクトップ画面。画像変えたでしょ」
 残念ながら強奪してきた最新型パソコンは俺専用の朝比奈さん写真館にアクセスするときと、その他ハルヒに命令されたとき触るくらいだ。そもそも俺にデスクトップ画面の画像なんか変える意味も無いしな。朝比奈さんのシークレット写真集さえも、あのコンピ研とのゲーム合戦で自分用のノートパソコンを手に入れてからは、復旧用に置いてあるだけで閲覧にはここ最近使ってさえいない。
 ああ、もうほとんどの人間が覚えていないだろうが、大分前にウイルスでパソコンが壊れた時に長門によって朝比奈さんフォルダの隣に作成された「nagato」フォルダは未だ内容量0バイトのままで放置されている。もちろん、俺専用のノートパソコンにもとりあえず同じ状態で移行しておいた。
 中身が無いなら消せばいいと思うだろう。しかしなんとも消しがたいフォルダじゃないか。長門が復旧作業をしたときに作ったやつだぜ? 0バイトという虚無のデータ量がさも何かを入れろという圧倒感を感じさせ、残念ながらゴミ箱に投じる勇気が俺には無い。まあ、その内使うときも来るんじゃないか、きっと。
 とにかく俺がやった訳じゃない、ということだけは主張しておこう。
「じゃあこれ誰がやったのよ」
「知らん」
 ハルヒが指差していたパソコンの画面には子猫や子犬がじゃれあっている画像がデスクトップ画面に貼ってあった。
「可愛いじゃないか。別に怒ることも無いだろう」
「まあ、確かに可愛いけど。でもね、あたしに許可無くやったのが嫌なの。誰かしら、この画像に変えたの」
「私」
 唐突に聞こえてきた声は、扉を開く音と共にやってきた。
「有希がこれやったわけ?」
「そう」
 ふん、と鼻を鳴らすハルヒ。疑いは真犯人の登場で晴れてくれたらしい。
「変えてもいいけど、変えるなら許可を取ってからにしてちょうだい」
「分かった」
 こくりと一度縦に首を振った長門はコンピ研から持って帰ってきた小さな何かを、メモリースティックとか言ったっけな、ポケットから取り出して見せた。
「電子情報網で取得してきた情報。コンピ研の部長から渡された。これが今日の分。新しい情報が蓄積されている」
「見せて」
 長門はメモリースティックをコンピュータの端子に差し込む。しばらくするとマイコンピュータ内に認識されて表示された。
「えーっと、これかしら?」
「そう」
 ハルヒがダブルクリックして中身を開くと、複数の画像がキャラメルの包み紙大で表示された。その状態でも子犬や子猫、ハムスターなんかの小さな動物の写真であることが見て取れる。
「へえ、コンピ研もたまには気が利くじゃない」
「定期的に情報を更新している。だからまだ数日後、情報を共有してもらう」
 ハルヒは一転してご機嫌になったようなので、俺はそそくさと退散する。いつまた機嫌が悪くなるか分からないからな。たまにはテレビの方のゲームでもするか。
 電源を入れて起動させた直後。
「それとこっちはとあるサイトから手に入れたもの」
「……え? ゆ、有希、これはちょっと……」
 とか言いながら何やら画面に見入っているハルヒが見える。何が見えているんだろうな?
「みくるちゃん、みくるちゃん、ちょっと来なさい」
「は、はぁい?」
 訳も分からず呼ばれた朝比奈さんはパソコンの画面を見て、
「わ、わわ……」
 顔を覆ってしまった。というか、ベタに指を開いて隙間からのぞくなんてことをしている。朝比奈さんの反応を見る限りではものすごいものが映っているに違いない。どんなものがあるのか見たくなってきたな。
「おやおやっ。これはまたすごいねぇ!」
「私はこっちの方が好みね」
「興味ありません、あまり」
 いつの間にかパソコンの画面に女6人が詰めあっていた。そんなにおもしろものなんだろうか。実希も興味ないとか言いながら、液晶画面を凝視しているし。
 気になって近づくと、
「キョンは来たらだめ。古泉君もだめよ」
「そうですか」
 一人詰め将棋をやっていた古泉は腹立たしいくらいに似合った笑顔をハルヒに向け、作業に戻る。蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなった俺は諦めて座りなおす。
 それからしばらく鑑賞会は続いた。30分近く過ぎてから、
「有希。これもコンピ研が?」
 長門は横に首を往復させた。
「とあるページに保存されていた」
「そう。で、まだ数はあるの?」
「ある」
「それならコンピ研でまた拾ってきて」
「分かった」
 長門は頷いてから、マウスを操作させて、メモリースティックを引き抜いた。
「データはこのパソコンにコピーしておいた。このフォルダを開けばいつでも見れる」
「分かったわ」
「いやー、なかなかいいもの見せてもらったさ」
「あ、あれはちょっとやりすぎだと思います……」
 長門が持ってきたメモリースティック内のデータは長門と朝比奈さんのパソコンにも入ったらしい。朝比奈さんの恥ずかしそうでありながらも、嬉しそうな表情が非常に気に掛かった。なんだったんだろうな、あれ。
 結局そいつがなんだったのかは教えてもらえなかった。お陰で俺の中にはナスカの地上絵なんかよりよっぽど気になる謎を残していった。くそう、気になるぜ。