「凧揚げしたいわね。正月だし、凧もあるし」
いつの間にか教室の一画、畳2畳の上にこたつとみかんがいつの間にかセットされており、そこへ正座を崩して座っているハルヒがこたつ上のみかんを口に入れながら言う。凧揚げね、やればいいんじゃないか?もう凧はあるしな。
「それじゃだめなのよ。こうSON組をアピールできるような」
残念ながら、十分学校で知れ渡ってるようだぞ。前、知らない人が相談を持ちかけたくらいだしな。というか、凧揚げは広告塔とは違うぞ。
「分かってるわよ。でも、せっかくだから広告も同時に出来た方が都合がいいじゃない。毎日何十人と相談を持ってきて、宇宙人の友達もつくって……SON組では実現させたいわ」
そんなこと実際に起こったらこっちは困るんだが、という言葉は飲み込んでおいて代わりに、
「そうか。だったらSON組専用の凧でも作ってやればいいんじゃないか?」
と。ここで、言ったときは何も考えていなかった。しかしあれだな、どの言葉が地雷だかさっぱり分からないよな。にまっ、と笑ったハルヒの顔を見て、ああこれは地雷だったんだなと、今更ながら気づいた。
「待て、本気でやるのか?」
「当たり前でしょ」
しかし……そうだ、材料もないしな。
「そんなもの用意するの簡単よ。割り箸を骨に、ビニール袋を貼ってやればいいじゃない」
そんなに簡単にできるものなのか?
「できる」
向かいで黙々と4つ目のみかんを咀嚼していた長門が最後の房を飲み込む。みかん、好きなんだな。
「こたつにみかんは日本の心」
お前は日本人じゃなくて宇宙人だろう、と思わずつっこみたくなるのを押さえるのに必死だった。なんとなく、長門もこういうギャグ的要素を持てるようになってきているみたいだ。
「有希、どういう感じの形にすればいいとか大きさとか考えるから手伝ってちょうだい」
「分かった」
「あ、私も手伝うわ」
大きな白い画用紙にハルヒ、長門、朝倉のSON組頭脳3人が集い凧の設計を始める。…もう勝手にしてくれ。誰も座らなくなったこたつに足を突っ込み、突っ伏して寝る。
長門、こたつにみかんもいいが、こたつで昼寝も日本人の心だ。覚えておいてくれ。
次の日、となることもなく設計が完了してすぐ。ハルヒの手元には割り箸、ビニール、凧糸が揃っていた。こう、なんというか…収集速度が早過ぎる。また、何かやったんじゃないかと不安になるが、もう今更心配したところで余罪として増えるだけで、おそらくSON組に入っている俺も多少の罪になるだろうし、早々に考えることを諦める。
「ここは正確に貼らなくてはいけない」
「分かったわ。古泉君、そっち持って」
SON組総出でご苦労なことで。
「キョン、何だらだらしてるのよ。あんたも手伝いなさい」
こたつから引っ張り出される。寒いぞ。
広げたビニールに割り箸を貼り付けていく作業中で、その手伝いをと割り箸を渡された。ここにおいておけばいいのか?
「あ、もうちょっと右です。……はい、そこでいいです」
実希の指示で割り箸を動かし、朝比奈さんがテープを貼るのを確認して数分。逆側を担当のメンバーも製作終了した様子で、凧を「せーの」と同時にひっくりかえした。
ビニールを良く確認すると………なんだこれは。
「SON組のSONって書いてあるのよ」
大きなビニールに割り箸で作られたH型の骨組があり、そのH型の縦の骨組の左右にSとN、横の骨組の下に小さめのO、その上には、
S:Sekaiwo
O:Ooinimoriageru
N:Nagatoyukinokumi
By
H
なんだ、このBy
Hってなんだ。Hだけ太くて赤いんだが…。
「これは私のマークよ。分かりやすいように赤色のHで書いておいたのよ」
ああ、涼宮ハルヒプロデュースをしっかりとここで押し出しているわけか。ちゃっかりしているというかなんと言うか。
さて、それはいいとしてこれをどうするんだ?揚げる場所とか考えてるのか?
「学校の校庭で揚げればいいじゃない」
おいおい。人が少ないとはいえ、野球部とかがもう部活始めているんだぞ。無理に決まっている。それに、そんなことやっていたらまたあの岡部が止めに走ってくるぞ。
「う……、授業が始まる前からあの顔を拝むのは勘弁して欲しいわよね。どうしようかしら…」
このとき、俺はこのまま何事もなく終わってくれればいいと、若干いやかなり楽観的に考えていた。
しかし、世の中は良く出来ているもので、結局何も好転はしていなかったのだ。そして大きな大きな”そのとき”はすぐ真後ろまで迫っていたのである。