「こっちはこれくらいでいいか」
しかし、こりゃ今日中には終わりそうにねえな。明日も来る必要がありそうだ。
我々SON組は表の活動として、ブログ更新以外にもたまに地域の奉仕作業への参加を行なっていた。今までそれらしい表現がなかったが、正直大しておもしろい話でもなかったからな、全部省略させてもらっていた。まあ、つまり今回は話題になるようなことがあったってことなんだが。
今回は高校から近くにある、集会所の周囲に芝生のように生えた雑草抜きである。SOS団の設立に向けて冗談でポスターに書いたようなことが、SON組で実際に行なうことになるとはなあと感慨にも浸っていられない。もちろん、ハルヒのせいである。
どうやら「宇宙人以下略と遊ぶ団体」だったのが、「地域奉仕作業ばかりする団体」になりつつある現状があまりに不満らしく、現在はストライキ、仕事を放棄して遊ぶと勘違いしてついてきた妹と雑草をかきわけて遊んでいる。ここで注意でもしようものなら、
「あたしはこんなことをするためにSOS団をSON組にしたわけじゃないわ」
と般若顔で反論してくるわけで、つまりこいつは草抜き要員に数えてはいけないということだ。じゃあなんで参加しているんだと聞きたくもなるんだが、おそらくSON組の顧問としてサボらないように監視役、とでも言うんだろうな。もしかすると、はたまた別の思惑があったりするのかもしれんが、その辺りの事情は良く分からん。
かといって、蝉が斉唱以上合唱未満を始める時期にもなると、晴天時には日中の温度が一番高くなる午後2時前後に気温が30度を指すのも珍しくなくなってきて、熱気が体力と若干残っていたやる気も奪うらしく、
「わー、バッタだよ、キョンくん」
「妹ちゃん、こっちに大きいのが居るわよ」
「……この生命体の方が体長は1.3センチ大きい」
このように徐々に隊員の目的がすり替わり、童心に帰って草むらとも言っていいくらいの雑草群で生活中の生き物を追いかけ始める。バッタなんかも数が減ったとか言っていたが、探せば見つかるもんだなあ。まあ、そんな暢気なことを言ってられないんだが。
それにしても、この集会所は建てられてからほとんど使われた形跡が無い。どうやら少子化の直撃を免れることができなかったらしく、建てたはいいが子供の数が激減、最初の1,2年の使用頻度さえあまり高くなかったが、現在に至っては年に1度、老人会辺りが使用するくらいだとか。そのために雑草が辺り一面に生え始め、それでも野放しになっていたお陰で膝丈くらいまでの高さまで成長した草も多い。
集会所自体は設備が意外にしっかりしていて、完璧とは言わずとも防音もかなりできているらしい。それを聞きつけたかどうかは知らないが、ハルヒが掃除と引き換えに文化祭のバンド練習をするときの利用許諾をもらってきたとか。対価を受け取っている時点でボランティアとか福祉とかいう言葉を使用していいのか強く疑問を感じるわけではあるのだが、ハルヒ曰く「あたしが無理言って頼んだわけじゃないんだからいいじゃない」と。聞けば、文化祭での騒動(ENOZのメンバーの代わりにハルヒと長門が出たあれだ)を知っている人間が管理者に混ざって居たそうで、「文化祭の練習なんかをするなら、うちを使ってもらっても構わない」と直々に許可を貰ったそうな。本当か、それ。つーか、これのせいでハルヒは引くに引けなくなって、とりあえず参加しているような気がしなくもない。
まあ、それはいいとしよう。問題は眼前に広がる自由奔放に育ちすぎた雑草たちの処理だ。
ハルヒは最初から戦力として期待してはいない。それは前述の通り、SON組の仕事ではないと思っているからだ。朝比奈さんは「頑張ります!」とか意気込んで軍手を両手にはめて草に立ち向かうのだが、どうにもこうにも握力が弱く、丈の長い草は朝比奈さんにとって大物すぎるようだ。
いや、そもそも朝比奈さんにはこんな労働よりは、どちらかと言えば、日陰で「スイカが冷えましたよ」なんて暑さも吹き飛ぶようなエンジェルスマイルを振りまいてくれる方がいい。
戦力としてやや期待視していた長門は、途中からハルヒに巻き込まれてバッタの大きさ合戦に参加しているようだし、そんなおもしろそうなものを鶴屋さんが見逃すわけもなく。
結局実際に働いているのは、黙々と目の前の草と向き合っている実希、活動的に先陣を切って汗を拭きながら袋に雑草を詰めていく朝倉、後は男手2人である。つまり、大半は機能していないというわけだ。
「こいつはでかいわね。ってかバッタ?」
「わ、すごいすごい」
「間違いなくチャンピオンだねっ!」
「……」
どうやらまだバッタ対抗大きさチャンピオンシップは続いている様子で、新チャンピオンが君臨したらしい。まあ、俺にはどうでもいいことで、そんなことよりさっさと草抜きを手伝ってもらいたいところだが。
「ちょっと、キョン。こっち!」
「何だ、俺は今忙し――」
「いいから!」
強制的に服を捕まれて連行されていく。ああ、まだ半分も終わって無いんだから、もうちょっと気合を入れてだな。
「あれ、バッタだと思う?」
「あれってど――」
トノサマバッタ、とかいっただろうか。しかし、そのでかさは記憶の中に合致するバッタというものを遙かに凌駕していた。
これがあのコンピ研部長の部屋に突如起こった閉鎖空間もどきの中だったら、まだなんとなく”そういうもの”として認識できただろう。しかし、こいつはああいう情報統合思念体とか、機関とかそういうものではなく、ただとにかく、
「でかいな」
「でかいわね」
大きさは俺の手首から肘にかけての長さより数センチくらい小さい。指ではない、腕である。そんな長さのバッタが我が物顔で雑草を咀嚼しながら鎮座していた。
正直言おう。ありえない!