「ごちそうにはもう飽きたわ」
突飛な発想な超顧問様の突発的発言は今日も健在だ。そろそろこの突発イベントは封印する方法がないだろうかと現在画策中であるが、今のところいい案は浮かんでいない。もし、誰か知っているなら是非俺に教えてくれ。
「その結論に至った過程をぜひ教えてくれ」
「何言ってるのよ。最近打ち上げ打ち上げでこう、お腹が疲れるのよね」
というより、お前が食いすぎなだけだと思うぞ。あ、これは心の言葉な。
「なんかあっさりしたものを食べたいわね。何かないかしら」
で、やっぱり食うのか。
「あら、だったらせっかく1月7日だし、七草粥はどうかしら?」
七草粥…というと、春先に取れる草が7つ入ってるお粥のことか。えーと、確か…、
「芹、薺、御形、繁縷、仏の座、菘、蘿蔔」
長門が淡々と紙に呼び名の一覧を書く。長門、すまないが……読めん。漢字にすると分かりづらすぎるな。
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」
長門が続いて名前にふりがなを振っていく。それだそれ。
「現在の名前は芹、ぺんぺん草、母子草、小鬼田平子、蕪、大根。順番にせり、ぺんぺんぐさ、ははこぐさ、こおにたびら、かぶ、だいこん」
今度は現在の呼び名と書いた後に名前を連ねていく。どうも大根と蕪の順が分からなくなるんだよな。菘が蕪で、蘿蔔が大根か。
「ちなみにこの仏の座はキク科の仏の座で、シソ科にもホトケノザっていうのがあるけど、これは全くの別物だから入れないようにね。キク科の方は白とか黄色の小さな円形の花が咲いて、シソ科の方は紫色の筒にえらが付いたみたいな花が咲くから分かるわ」
ほほう、それは知らなかったな。
「それよ!」
ハルヒが力強く長机を叩き、せめて教卓のみにしてくれ、朝比奈さんが淹れてくれた緑茶が少しこぼれる。おっと、もったいない。
「よし、今日は七草粥にするわ!」
それは結構。まあ今時はスーパーとかでも売ってるし、どっかで調達して、
「何言ってるのよ」
待て、一瞬にして嫌な予感しかしなくなったぞ。まさか取りに、
「取りに行くに決まってるでしょ!」
やっぱり行くのか!勘弁してくれ。こんな寒い中、俺は嫌だぞ。
それに今そんなに都合よく全部生えている場所とかないだろう。特に蕪とか大根はな。勝手に人の家のを拝借するわけにはいかんだろうし。
「それにな、ほら、外を見ろ」
俺は教室のカーテンを開けた。少し白く曇ったガラス窓の向こうには、少しずつ降り始めているもっと白く冷たいもの。この辺りでは今年の初雪だ。まだ積もってはいないが、今の調子で降れば明日には雪合戦でもできるくらいは積もりそうだ。
「こんな雪の中を探すわけには行かないだろう。風邪引くぞ」
「…つまらないわね」
「まあまあ、涼宮さん。既に七草を用意しているんですよ。せっかくだからこれを使ってやってください」
古泉が鞄から取り出したのは、スーパーで売っているものとは違って、自分で山の中へ入って摘んできました的に袋詰めされた七草。これはどうしたんだ?
「新川さんたちが取ってきてくれたんです」
………本当に、あの人達の仕事は何なんだろうか。実際に執事やメイドな訳ではないと思うが、いろいろ細かい事情を知らなければ間違いなくそうとしか見えないもんな。
「用意がいいのね。まあ、取りに行くのは諦めてこれで食べましょ。あ、お米もちゃんとあるのね」
古泉からハルヒが米と七草を受け取る。で、お前は料理方法とか知ってるのか?
「知らないわよ。朝倉さん、お願い」
「分かったわ」
SON組料理班、班長の朝倉涼子にそのまま米と七草をパス。七草粥調理を託された朝倉はさっそく準備にとりかかる。
七草を軽く水洗いして塩を少量いれた小さな鍋に入れ、火をかけている間に大鍋に米を入れて研ぎ、数分で七草の鍋と交代で米の鍋と交換して七草を切り始める。
ホント、朝倉は手際よくやるな。いい嫁になりそうだ。
「やだ、もう。褒めても何も出ないわよ」
喜んでいるのは分かったから、七草を切っている包丁を振り回さないでくれ。
「……私も手伝う」
さっきまで読書中だった長門がこれを途中で切り上げて、朝倉の横に並ぶ。
「じゃあ長門さんは菘、蕪の方が分かりやすいわね、小さく付いている実を薄く切って、一口大にして頂戴」
「分かった」
「あ、じゃあ私も手伝いますね」
「二人で大丈夫」
朝比奈さんの言葉にぎらん、と一瞬だけ長門の目が光って見えた…気がした。朝比奈さんはというと、「あ、あ…そうですか」となんだか居心地の悪そうにさっきまで座っていた椅子に着席。気にすることはないですよ、朝比奈さん。
しばらくすると米が煮たち、それから弱火で30〜40分の後、味付けに塩を少々と七草を加えてできあがりとのことで、それぞれに振舞われた。これが七草粥か。いただきます。
「本当は6日にまな板で囃し歌を歌いながら切って、7日の朝にお粥に入れるのが風習らしいわ。邪気を払って無病息災を願うおまじないみたいなものでもあり、冬の間あまり取れなかった野菜を春の野草で取ろうっていう意味もあるんだって」
「なんていうか……ちょっと味気ないわね」
まあ基本的に野草だから雑草みたいなもんだしな。それにあっさりしたものを食べたいと言ったのはお前だろう。
「分かってるわよ。でも、ちょっとあっさりしすぎじゃない」
「そうかい?結構いけるじゃないか。涼子ちゃん、おかわりもらっていいかな?」
「どうぞ」
鶴屋さんはすぐに気に入ったらしく、ハルヒも最初はなんだかんだと言ってはいたが、最終的にはおかわりするくらいに気に入ってた様子だ。結構な量を作っていたようだが、空になるまでさほど時間はかからなかった。
「うん、なかなかいいわね、七草粥。来年もまたSON組で七草粥食べましょ!来年は実際に取りに行くわよ!」
それは勘弁して欲しい。あれ、前回とオチが同じだぞ。