いつも何かと回りに驚かされる俺、といっても大半の原因はハルヒだったが、今日は随分と連続で驚かされたものだ。
まず、SOS団の部室…というのも間違っている気がするな。団室とでも言おうか。溜まり場でもいい。まあそうなっていたはずの元文芸部の部室が文芸部になっていた。いや、当たり前すぎるだろうという話は脇に置いてくれ。正直あの涼宮ハルヒに関わってまともな場面に出くわしたことがないからな。
SOS団員兼文芸部だった長門は相変わらず文芸部の置物になりつつ本を読んでいたから、問うてみると「涼宮ハルヒから話があるからそこで待ってて呼んできてちょうだいと言われた。1年9組の教室に行って」と。
「どういうことだ?それに文芸部が復活したにしては、居るのは二人だけじゃないか」
もう一人は眼鏡をかけ、じっと長門と同様石像の様に…いや、それほどではないか、本を読んでいる少女。
「あれは妹」
「妹?!」
「…という設定がいいと情報を得た。正確には後継機のようなもの」
設定って何だ。
「前涼宮ハルヒが持ってきた本に書いてあった。妹が12人居る設定で、兄という自分より先に生まれた人間に対して呼称がみんな違う」
頭が痛くなった。あいつは何を持ってきているんだ。…とりあえず、何かい。そこで本を読んでいる彼女も対有機生命体なんちゃらなのか。
「そう」
もう一人の文芸部員を眺めてみる。…少したれ目で薄い丸眼鏡、天然であろう豊かな栗毛を肩くらいまで伸ばしている。胸は…その随分と豊かなんだな。
「今回は胸の大きさにこだわってみたと情報思念体から聞いている」
情報思念体、よくやった!
「あ、お姉ちゃん。そろそろ時間」
「…そう」
本から腕に付けていた小さな時計に目をやって、その”設定:妹”が言う。舌足らずな喋り方が朝比奈さんに似てるような気もする。朝比奈さんの妹が出来たらこんな感じなんだろうな、という様相だ。
「先に1年9組の教室に行って」
「…ああ」
元文芸部、いや元々文芸部、元SOS団、現やっぱり文芸部の部室を後にし、俺は考えていた。どういうことだ。いつも無駄にサプライズを提供するあの涼宮ハルヒだ。嫌な予感がして、このまま帰りたくもなったんだが、もしそれを行動に移したなら、俺の家を突き止めて部屋に乗り込んでくるに違いない。あいつなら家でチャイムを鳴らし、「キョン君が体調悪いと聞いたので、お見舞いに来ました」とか丁重に母親に挨拶をし、自陣に取り込んでから乗り込んできたりするだろう。そう、断言して間違いあるまい。
まあ、スタート直後からフルマラソンをリタイア禁止された初参加者のごとく逃げ道を先にふさがれた俺はだな、結局1年9組の教室に向かったわけだ。にしてもなんで1年9組の教室なんだ。どうせやるなら自分の教室である1年5組の教室を使えばいいと思うんだが。
1年9組の教室の扉を開けた俺は…どうだろうな、例えるなら寝て起きたら家の周り全部がジャングルに囲まれていたとか、宇宙空間に放り出されていたとか、はたまたジュラ紀に何の前触れもなく、いやあの涼宮ハルヒが話と言っていた時点である意味の前触れだったに違いないが、まあそんな気分だな。
まずは机だ。いわゆる教室の机が一つも見当たらない。あるのはあのSOS団の団室にあったのと同じような、というか文芸部備え付けだったはずだ、さっきもまだ残ってたしな。ってじゃあこれはどこから調達したんだ、またハルヒがちょろまかしてきたんじゃないだろうな。しまった、随分話がずれてしまったが、とにかく教室の机が外に出されていた様子もなければ、校庭に謎の絵文字を表現するために置かれている様子もない代わりに、長机が4つほど綺麗に並べられ、そして前と同様ご丁寧にコンピ研からくすねてきた(ハルヒは猛抗議するだろうがね)コンピュータがあれはLANケーブルだろう、ちゃんと繋がれて奥に置いてあった。学校の怪談その1、消えた教室の机と増える長机の謎!
そして次はメンバーだ。長門はさっき文芸部で会ったから居なくて当然として、
「遅いじゃない、キョン」
いつも通りの勝ち誇ったような笑顔のハルヒ、相変わらずハルヒの命令に律儀に従ってメイド服を装着中の朝比奈さん、何が楽しいのか、それともあの顔しかできないのだろうか、古泉。それにあと二人。その二人はオセロをしていた。いや、別にオセロをしていることがおかしいわけじゃない。俺も古泉と時間つぶしによくやるからな。問題は対戦相手だ。
片方は朝比奈さんの友達で、SOS団名誉顧問となった鶴屋さん。こちらは問題はない。もう一人…、
「はい、私の勝ち」
「あっちゃー、負けちゃったか。いやぁ、涼子はめがっさ強いね〜!」
そう、あの朝倉涼子なのだ。俺を刺し殺そうとした、あの元2年5組の学級委員長、朝倉涼子。それが今目の前でオセロをしている。学校の怪談その2、唐突に復活した委員長の謎!
「大丈夫。今は危害を加えない」
後ろから俺だけに、しかしよく通る長門の声。…本当か?こくりと肯定の意。…本当かね。
「あ、有希。文芸部の方は終わったの?」
「終わった。妹も帰った」
「そう、ならいいわね。キョンにこの状況を説明してあげないといけなかったのよ」
ああ、全くだ。全部説明してくれ。
そして高らかに言ったよ、この女は。長門の肩を掴んで教卓の前に立ち、その前に俺は立たされてな。授業で当てられるときの構図に似ていて、なんとなく居づらい雰囲気だったんだが、そんなことをいっぺんに吹き飛ばすようなことを言ってくれやがった。
「今日からSOS団は、世界を大いに盛り上げる長門有希(と愉快な仲間達)の組、SON組 By涼宮ハルヒプロデュース に生まれ変わります!」
…本当に。何の冗談だ。