次の日からはおばけ屋敷の話題はぷっつりと途切れた。当然といえば当然だ。あれは全て俺の勘違いだと決まったんだからな。何も悩むことはない。ただの気のせい。白昼夢、というには時間が遅すぎたが、似たようなもんに踊らされていただけだ。
 というわけで今日はSOS団の頃から恒例の、というのかは分からないがコスプレショー(撮影あり)が開催された。今回は朝比奈さんだけではなく、他の女子にも被害が及んだ。いつも思うんだが、こいつの財布事情はどうなっているんだろうか。1着買うだけでもかなりの価格がしそうなものだが、それを平気で何着も揃えてくるからな。部活としての活動費も文芸部としてもらっていたものが無くなったはずだし、ハルヒのポケットマネーから出るにしちゃ多すぎる。今度は衣装とかを専門に売ってるところをだまくらかして、コスプレした写真を売る代わりに安く衣装を買い叩いてきていたりはしないだろうな。あいつならそれをやっている姿が容易に想像できるのだが。
 そりゃ確かに朝比奈さんのコスプレ姿とハルヒのファッションセンスの融合は、俺が思わず見とれてしまって、朝比奈さんに注いでもらったお茶を口に運んだつもりが、一直線にズボンへぶちまけてしまうくらいのことをしてしまうくらいだと言えるが、といってもそんなことはしていないが、とにもかくにも犯罪行為になる前にはやめてくれよ。
 というか一応ながらも、朝比奈さんの方が年上なんだぞ。手放しに「年上を敬え」という訳ではないが、最低限の礼儀くらいは持っておいてしかるべきだと思う。
 ……いや、朝倉が長門によって消されてからすぐ向かった、あのマンションの管理人に対する礼節なんかを見ている限りでは礼儀を知らないわけではなくて、どうでもいいと思っている人間とそうでない人間とか、自分に利益になる人間とならない人間を上手く見分けているんだろうかと思ったりもする。というよりは、朝比奈さんを愛玩動物か何かくらいにしか見ていないようだ。ここまで傍若無人だと親の顔を見てみたいな。さぞかし自分勝手を絵に描いて勝手にキャンバスから抜け出したような人間に違いない。
「キョン、ちゃんとカメラで写真撮りなさいよ」
「へいへい」
 もちろんのこと、また俺が撮影の係りになっていた。どうやら男以外の全員をハルヒお気に入りのデジカメへ記録し、永久保存するつもりらしい。ただ永久保存しておくならまだしも、前みたいに電脳ワールドへぶち込んだりしないかが心配だ。しばらく監視しておかなきゃならないだろう。ついでにコピーを拝借して、俺のパソコンの方へデータを移しておくのがいい。何もハルヒだけが持っておくべきという理由はないのだからな。情報の共有は至極当然の権利だろう。
「みくるちゃん、もっと胸を強調しよっかー」
 なんてニヤニヤしたスケベジジイの顔してハルヒは朝比奈さんに近づくし、朝比奈さんは朝比奈さんで、
「や、やめっ……そ、そこはぁ!」
 と艶っぽい悲鳴をさっきから何度も上げている。その他大勢はほとんどハルヒの為すがままに任せて、適当に撮影会かコスプレパーティーとして楽しんでいる様子だった。俺もハルヒの暴走を止める原動力は既に持ち合わせを使い果たしたし、朝比奈さんのコスプレ姿を男として拝めるのは嬉しいことだ。約1名、俺以外の男も混ざっているがな。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
 その1名は照明係といったところだ。結局使われる運命なんだな、お前も。
「古泉君。もうちょっと右側に照明向けて」
「おまかせください」
 ちなみに今回のコスプレは何かのRPGだかアクションだか格闘だかのゲームのコスチュームを無作為に選んできたらしい。故に全てのコスチュームには特に一貫性がない。まあ別に構わないのだが。
「ほらほら、もっとここは大きく開けないとだめよ」
「も、もう十分ですぅ」
 赤色で、明らかに身を包む布が小さい上に胸元が強調される服装で、下半身はチャイナドレスのスリットというよりは前掛けを前後につけたような感じで、つまりほとんど白い太ももがあらわになっているのである。そんなきわどさの無駄遣いとも言えるくらいの服装の朝比奈さんの帯を緩めて、もっと胸元を広げようとするハルヒ。確かにもう十分すぎるくらいに魅力をアピールしているし、それ以上やったらいろいろと見えてはいけないものまで見えてしまうから、さすがにやめておけ。
「何よ、これくらい大丈夫じゃない。見えたって減るわけじゃないでしょ」
 そういう問題ではない。
「ほら有希も。そんなところで本を読んでないで、せっかく着せたんだからちゃんとこっち来て」
 長門は朝比奈さんとは対照的に、黒の袴を着せられてほとんど肌を見せないようになっていた。これはこれでいい。長門のどことなく儚いというか、静かな感覚を引き立てているとも言える。本を閉じて、ゆっくりと歩いてハルヒのところまで来る長門の背中を途中から押して、朝比奈さんの横へ強制的に並べ、
「ほら、みくるちゃんはこういうポーズで、有希はこう……ほら、もうちょっと。よし、それでいいわ。キョン撮りなさい!」
 言われなくても分かってるって。