白くなった水のみ場の陰に隠れて武器を作る。冷たい玉を数個左手に掴んで、右手でいつでも攻撃できるように臨戦体勢。相手は古泉以外は女だからあまり本気で投げれはしないし、あまり硬く握るのもダメだよな。だがやられっぱなしも癪に障る。仕方がない、敵を選ぶか。
息を潜めて待っているとすぐに標的は現れた。涼宮ハルヒだ。あいつは日頃の恨みなどまとめて玉に込めて投げてやれ。さすがに顔はまずいだろうから、狙うなら肩辺りだろうな。よし、あともう少し。ここだ!
「えい!」
べしゃっ、という音と共に白い武器を顔面に受けたのはハルヒではなく、それを狙っていた俺だった。で、当てたのは……。
「あ、キョン君、ごめんなさい。顔に当てるつもりはなかったんですけど」
いえ、仕方がないですよ。それにこれはそういうスポーツですからッ……、
「きゃっ」
「キョン、みくるちゃん、油断したわね。私にはバレバレよ!」
というか1発雪玉をもらったら試合終了なんだろう。だったら白旗揚げてる兵士に手榴弾を投げ込むような行為をするな。朝比奈さんにまで当てて、お前は。
「そんなこと知らないわ。とにかく敵を見つけたら雪玉を投げつけるのみよ!」
直後、ハルヒの顔が真っ白に染まる。犯人は俺じゃないぞ。
「ルールに則った」
長門だ。
「………やったわね、有希。覚悟しなさいッ!」
「望むところ」
二人でバトルが開始された。まあ、がんばってくれ。
ちなみに、もうちょっと奥で、この二人は仲が悪いのかいいのかよく分からんな、朝倉と実希が全力勝負中である。朝倉が投げた雪玉が木の幹に命中すれば木に積もっていた雪が根元で山になるし、実希が投げた雪玉が雪の積もった地面に飛べば雪を撒き散らして霧のようになるし、まさに死闘の雪合戦だ。あれは当たりたくない。
「あっはっは、ハルにゃん強いねー」
「いやはや、さすが涼宮さんです」
既に狙いうちされていた鶴屋さんと古泉が後から出てくる。お前らは随分早くから脱落してたからな。というか朝比奈さんが最後まで残っていたことに驚きです。
「えっと、ずっと隠れてましたから」
それなら確かに狙われない、というより狙えませんね。
「涼宮さんは上手かったですね。すぐに当てられてしまいました」
お前の場合は即投げられて避けもしなかったように見えたけどな。
「まあ、涼宮さんに投げるわけにはいきませんからね」
そしたらハルヒしか勝てないだろう。
「僕としては涼宮さんが楽しめればいいのですから、特にこのルールに異存はありませんよ」
まあお前はな。
先ほどの長門から宣戦布告したハルヒVS長門戦は見事な長門の全弾回避によって終結したようだ。長門は寒そうでも汗をかいた様子もない。
「ゆ…有希、あんた強いわね」
「そう」
古泉、あっちはそうでもないみたいだぞ。
「そう…ですね。というか、長門さんは最近随分と活動的になりましたね」
お前もそう思うか。
「ええ。いつもでしたらわざと軽く当たるなどしそうなものですが…。それに涼宮さんのやることに異を唱えたり、非なる行動を取ることはなかったと思います」
「私も、長門さんは最初の雰囲気と大分変わってきた気がします。最初は…その、ちょっと怖い感じでしたけど、最近は丸くなったと言うか…」
話題沸騰の長門を見ると、なんだあれ……雪だるまか?熱戦を繰り広げていた朝倉と実希はいつの間にか一時休戦していて、雪だるまの土台を、これは俺が一抱えにできないくらいの大きさだ、にこれまた大きめの頭を長門が載せ、手と鼻と口に枝を、目に石をつける。
顔に対してパーツが小さすぎる気がするが。
「可愛いじゃない」
随分大きな土台を作って満足そうな朝倉だ。そうか?かなり不恰好に見えるぞ。
「ああいうのがいいのよ」
しかし、長門はそれだけでは満足しなかったらしい。手近にある雪を固めて……これは雪うさぎか、雪だるまを取り巻くように作られていく。
雪うさぎが1匹、雪うさぎが2匹、雪うさぎが3匹、雪うさ………ぎを作る手が止まらない。壊れたロボットのように次から次へと雪うさぎを作り続け、2桁目突入。おいおい、大丈夫なのか?
「お姉ちゃん、結構楽しくなってきてますね」
あれはさすがにとめた方がいいだろう。
「そうですか?可愛くていいと思いますけど」
だが数が数だ。いくら可愛いうさぎでも、ん十匹群れてたら怖いだろう。
「…数十匹のうさぎの群れ……」
どうだ、想像するだけでも怖いだろう。
「いえ、どんどん可愛くなってきてます」
お前に聞いたのが間違いだったよ。おい、長門、そろそろうさぎ作るのやめたらどう、
「あっ」
朝比奈さんが小さく上げた声に気づいたときには遅かったな。足元にあるのは長門製雪うさぎ16号、いや適当に名前つけただけなんだが。たまたま近づいたときに足元にあるのが気づかず、蹴って耳が欠けてしまった。と、長門のうさぎ生成の手が止まる。すまん、ちょっと当たっちまったな。ほら、これですぐ元通りだ。
長門はいつも無表情だった。そして今も無表情、だから分からなかったんだな、このうさぎキックがどれだけ長門にとって許せなかったのか。できればこれからは「もう、プンプン!」みたいな分かりやすい表現をしてくれると助かる。
まあ、最終的にどうなったかというと、真夏の砂浜で体に砂をかけて埋めるのあるだろ?あれと同じ要領で俺が埋められていたよ。違うのは熱くて茶色の砂ではなく、冷たくて白い雪だったということだけだ。ああ、夏が恋しい。
「やっぱり長門さん、ちょっと丸くなってますね」
そうですか、朝比奈さん。それはそうとして、この丸く盛られた雪をどうにかしてください。