翌日の会合。
「さて、皆ちゃんと考えてきた?」
小さな手帳とシャーペンを取り出して、きゅうりを値踏みするように俺たちの顔を順に見ていってから、
「じゃあみくるちゃんから」
「え、えええ? あ、あああたしからですかぁ?」
最初の指名はいつも通り給仕係に徹していた、メイド服の朝比奈さんだった。
「そうよ。みくるちゃんは一番何も考えて無さそうだもの」
さらりと酷いことを言いやがった。
「え、ええっと……じゃ、じゃあお料理会、とか……」
「……何それ」
「あの、みんなでお料理するんです」
「それで?」
「…………それだけ、です」
「……次、有希」
どうやら無視の方向で決まったらしい。ほっと胸をなでおろしながら、なんとなく寂しそうな朝比奈さん。
長門は本を広げて、見たこともない文字が若干端が風化した紙に綴られている古文書らしきもののページを捲りながら、
「世界の有名な図書館を回る」
なんていうことを言い出した。世界って、どれだけ回る気だ。そもそも大英図書館1つ取っても、夏休み中に全部の本を読みきることなんかできないし、まずそれ以前に英語で書いてある文章なんか読む気も起きない。読めない、というのが正解な気もするが。
「有希とか実希みたいに三度の飯より本って人ならいいけど、そんな人間がこのSON組に居ると思う? キョンなんか連れて行ってみなさい。あんたなら数分で寝るわよね」
ね、とか同意を求めるな。……まあ、確かに寝るだろうけどさ。
「まあそういうことだから、さすがにそれは無理ね」
「そう」
というわけで次。笑顔の女神と形容してもいいだろう、鶴屋さん。
「んー、そっだねー。登山なんかどうだろう?」
「登山ね、確かに健康的でいいかも。さすが鶴屋さんね」
「いやー、あっはっは」
嬉しそうに大笑いする鶴屋さんと嬉々として新しい項目を書き込むハルヒ。とりあえず、どの山に登るとかいうのは後決めなんだろうな。ハルヒがチョモランマに全員で登るとか言い出さないよう、メロスを待つセリヌンティウスのように祈るばかりだ。
「そうね……海辺なんかでバーベキューなんかどうかしら?」
「確かにそれはいいわね。海のところにバーベキューを追加……っと」
その次は長門の隣でラノベを開いていた朝倉である。ハルヒは事情聴取する警察官みたく手帳に提案を記入していく。
「歴史的建造物を巡るのはどうですか」
「あまりおもしろそうじゃないわね。却下」
実希の案を瞬時に却下。元々実希もそこまで興味が無かったのか、はたまた自分一人で行くから構わないということなのか、すぐさまハードカバーを開いて読書を始める。
最後から2番目は古泉だ。
「古泉君は何か考えてきた?」
「残念ながら考えても思いつきませんでした。代わりに、といってはなんですが旅行先の融通はおまかせください。僕の友人の筋には多丸さん兄弟以外にも、割と私有地を持っている方が多く居ましてね。連絡を取ればその場所を安価、または無料で貸してくださると思いますよ」
「分かったわ。じゃあ古泉君はそっち担当してもらうわね」
最後に、俺に狐疑の視線を向ける。
「キョン、ちゃんと考えてきたんでしょうね」
「勉強会だな」
「それはあんたが宿題写すだけでしょ」
ちっ、ばれたか。自慢じゃないが、大体夏休みの宿題など終了3日前くらいからスパートするのが毎年のパターンだからな。
「あれくらい自分でやりなさい。あんなの真面目に授業なんか受けてなくても全部さらっと解ける問題しか出てないんだから」
こいつの勉強に関する能力はどうなってるんだろうね。こいつが言う通り、俺の背後で授業を受けている様子からして、お世辞にも真面目とは言いがたい態度のことがほとんどないのに成績は上位らしいし、出された課題も気づけば終わらせていたり。不公平だ、不公平すぎる。1人に才能を集めすぎじゃないか?
「で、他に無いの?」
と言われてもだな。俺のところに来る前に、ハルヒが満足して「もういいわ」とか言い出すかなと思っていたんだが、どうやら見事に当てが外れたらしい。このままだとハルヒの辛気臭い顔がアップになってくるので、とりあえず何か言っておく必要がありそうだ。
「……じゃあ無人島に篭る、とか」
たまたま視界に入った長門の本の題名から、そんなことを言ってみた。が、これが悪かった。
「サバイバルね……意外にいいじゃない。持ち込めるのを1人3つまでとかに制限して、どこかの無人島でサバイバル生活ってのも悪くないわね、うん。キョンの割にはいいこと言うじゃない」
適当に答えたのがハルヒ的大当たりを引き当ててしまったらしい。自分が言ったことをよく反芻してみると、意外と大変なことを言ったんじゃないかと今更ながらと悔やむ。まあ今更後悔しても詮無いことではあるが。
「古泉君、無人島ってどこかある?」
「そうですね……尋ねてみなければ分かりませんが、そのような場所を聞いたことはありますね」
「そう。それなら問題ないわね。夏休みのいつか、3泊4日くらいで無人島生活するわ」
怪しげな遺跡とか、その中に居る古代竜とかに出会うような島じゃない場所であってほしいもんだ。
「大丈夫ですよ。何の変哲も無い、無人島にご案内することにしますから」
お前が案内するってのがまた不安要素の濃度を上げているってことに気づけ。それにハルヒのことだ、元々そんなものが無くてもどっかから平気で引き寄せてきそうだからな。
今年の夏はのんびりしていられそうにないことを予感し、楽しそうに「他にないかしら」とか言ってペンを回しているハルヒを見つつ、俺は密かに溜息を吐いた。
やれやれ。