「長門、この辺りでいいか?」
「あと2mm、右に」
2mmて、さすがに細かすぎるぞ。こんなところに定規なんざ持ってきてないからな。目算で……こんなもんでいいか?
「いい」
「長門さん。ここはこんな感じでいいの?」
「あと5mm深く」
「分かったわ」
朝倉は持っていたハンマーを握りなおし、数回木の釘の頭を叩いて地中に埋める。向こうではハルヒと鶴屋さん、古泉が同様な作業を実行中である。
「え、えっとぉ、これはこのくらいの長さでいいですか?」
「いい」
朝比奈さんは長門に言われた通りの長さで麻縄をナイフで切った。
材料を集めに森へ入った俺たちは5分も行ったところで、長めで割と丈夫そうな長い木を発見した。根元から倒れこんでいるところから台風か何かになぎ倒されたように思えるのだが、他にあるもっと細い木は真っ直ぐ空に伸びている。どういうことだろうな。人外な何かが踏み倒していったとか……ねーよな。
とにもかくにも、見つけた木の運搬を開始する。もちろんやるのは俺と古泉である。
山の中と海岸から数メートルにあるテント設営予定地を往復して、6本の短めな木と長い1本の木を設置場所に下ろした。
そこからは長門の指示通りに木を削り始める。細いとはいうものの、子供の腕よりは太いためにかなりの量を削らなきゃいけないせいで、滝のような汗が顔中を伝って落ちる。腕も攣りそうになりながら、組み易い形にした。
「ここは麻縄で縛ればいいんだよな?」
「そう」
短い木の片方を一部削って長い杭のようなものを作り、3本の木をそれぞれ地面に突き刺してから組み、それを麻縄で束ねる。そしてその上からビニールシートを被せてから、さっき麻縄で縛ったところを再び縛る。中にはビニールシートを敷いて、移動しないように木で作った釘みたいなもので固定する。最後に上のビニールシートが飛ばないように、大きめの石をテントの4端に括りつけて終了。
とまあ、こんな感じの指示がナイフで木を削っている長門から下って、全員が夏場の働きアリのようにあくせくと移動してはハンマーを振り下ろし、麻縄で縛るをやっていった。
青色のビニールシートはかなり持ってきたお陰で、このテントの完成を見てもまだ半分くらい残っている。こんなにあって、他には何に使うんだ? 正直想像がつかないんだが。
「あんたと古泉君のテント用よ」
……ああ、そういやそうだな。確かに一緒のテントというわけにはいかない。完全に失念していたぜ。
「もしかして、同じテントで寝られるとか思ってないでしょうね」
「いや、思ってはないが……それじゃ、材料足りないんじゃないのか?」
「それは自分たちで探しなさい」
つまり自分が使うテントは手伝わせておきながら、自分はこっちのテントの手伝いはしないってことか?
「そうよ」
さも当然のような顔でしれっと答えやがった。今までも限りなく自己中心的な行動ばかりしていたが、今回ばかりはこっちもキレてやろうかと思うくらいの「何言ってんのよ」という顔だった。
「どうせ小さいのだから、2人でも十分でしょ」
完成したテントの内部を確認して満足とばかりに頷き、荷物を移動させるハルヒ。
……やれやれ。こんなところで言い争いなんかしたところで、体力の浪費以外の何物でもない。さっさとこっちの分も作って、中で休むとしよう。
「行くか」
「そうしましょう」
苦味成分が十分に蔓延した表情の古泉の笑顔と共にもう一度山の中へ歩き出すと、
「待って」
サウナ状態のこの時間でも服や額に汗をかいた様子がない長門が俺たちを引き止めた。
「私も行く」
「いいんだぞ、お前が寝る場所な訳じゃないし」
「構わない」
「有希」
「構わない」
問答無用の返答に、さすがのハルヒもたじろいで押し黙る。
「2人では作るのはかなりの負担。手伝う」
「すまん」
「構わない。その方が早く済む」
「そうね。私も手伝おうかしら」
その流れに朝比奈さん、鶴屋さん、実希も頷く。すると、
「……あーもう、分かったわよ。あたしも手伝えばいいんでしょ」
ハルヒがおろしたての白いブラウスにデミグラスソースでも飛ばしたような顔でそれに倣う。
「嫌ならいいんだぞ」
「他全員がやるって言ってるのに、あたしだけやらないわけにはいかないでしょ」
「お前は立場的に偉いからいいんじゃないのか?」
「とにかく、やるの! やると決めたらさっさとやるわよ」
長門はこのためにわざとハルヒの目の前で引き止めたんだろうか。日本人形みたいな白い無表情は何を考えているか読み取れなかったが、とりあえず感謝しておくことにした。ありがとな。