しばらく、格闘ゲームだ、シューティングゲームだに付き合わされた後、ゲームに飽きたハルヒはコンピュータの前に座ってネットサーフィンを始めた。もうゲームやらないんだな。
「あ、今日は特にこれ以上何もないから、適当に帰っていいわよ」
 投げやりだな、おい。
 しかし、さっさと帰るのもなんだ、ということで色が分からなくても出来る、というよりは明らかに”白黒つけやすい”オセロを古泉と開始した。このゲームが白と黒で良かった。
 2戦と情けの1戦の全てに勝利した俺は、古泉お前弱すぎるぞ、ハルヒがオセロの試合中ネットも飽きて帰宅したのを確認したため、それぞれ帰宅することにした。
 別れ際に長門が小さく、
「まだ、終わりではない気がする」
「明日もモノクロ世界ってことか?」
 そろそろ終わってくれないと気が狂いそうになるんだがな、この世界。
「それに留まらず、また何か起こる気がする」
 そう言って先に部屋を出て行く長門。残されたメンバーは、朝比奈さんは苦虫を噛み潰したような、古泉はどうしましょうという感じ、実希はしばらくこっちを見ていたが、また読書に巻き戻し動作のように戻り、朝倉は、ホント大好きなんだな、赤と白のはずである本体をまた引っ張り出してきて鼻歌まじりにゲームをやっている。
 ハイキングコースは帰りも短くなってくれることなく、それどころか精神的に参ってるせいで朝以上に嫌と言うほど堪能させられた。白黒の世界になってみると、夜が真っ暗でありながらも、遠目から見える町の明かりが実は思っている以上に様々な色で出来ていることを実感する。だから、夜景は綺麗なんだよな。
 帰り際の「まだ終わりではない気がする」という言葉が杞憂で済んでくれりゃいいんだがな。
 しかし、現実は無常だ。

 痛い。
 頬を抓るな。
 体の上でジャンプするな。
 痛いだろうが!
 思い切り上半身を起こす。相変わらずの白黒世界。何も昨日と変化がないようだった。
 が、一つ問題が新しく追加されていた。
 痛いだろうが!
 目の前に犯行を行った我が妹が居るのだが、口を先ほどからぱくぱくさせているだけで、何も聞こえやしない。そして俺が何か言おうとしても何も声が出やしない。
 ――これか、長門が言っていたことは。
 完全に無音の世界。気味が悪い、どころの騒ぎじゃない。
 朝の鳥の鳴く声、自動車の排気音、窓を開けるときに鳴る乾いた音、シャーペンの芯を押し出すときの小さな音。
 全てが沈黙していた。

 学校に行ったらなんか治っているんじゃないか。根拠もない期待を持って来てみたが、やはり何も変わりはしなかった。まあ当たり前だよな。朝、少し朝倉を捕まえて聞いてみたが、やっぱり朝倉も何も聞こえない状態で、長門や実希も同様だったと。あの長門たちまで巻き込むとは、このモノクロ世界製作者はよっぽどのヤツらしい。
 ちなみに音が聞こえないことって怖いんだな、途中で2回ほど車に轢かれそうになった。普段なら排気音で気づくんだが、無音の世界はそうもいかない。何かあっても気づいた時には時既に遅し、となりそうだ。
 普段頭に入らない授業も、頭に入らないどころか聞こえないんだから仕方がない。ということで睡眠開始。寒い空気と暖かい日差しが相まって、気持ちいいんだよな……。
 目が覚めたときには既に昼。よく当てられなかったな。いや、完全無視で何か言われたのさえ気づいていなかったのかもしれないが。

 さて、放課後のSON組。ハルヒを除く全員集合完了していた。
 いやあ、大変なことになりましたね。
 と言っているように見える、多分ほとんど正解だろう、古泉の面に迎えられながら自分の席に座る。ああ、大変なことになったとも。
”聞いたよ、みんな困ったことになってるみたいだねっ”
 白い紙に鶴屋さんが書く。鶴屋さんは大丈夫なんですか?と、その紙の端に俺が書く。
”大丈夫みたいさ。何故かは良く分からないけど”
 かかる人とかからない人はどこで分かれるんだろうか。SON組関係者ならば、鶴屋さんも巻き込まれるはずだし、元SOS団関係者のみなら、朝倉や実希が巻き込まれる理由が分からない。
”そういや、みんなが喋ってる言葉はちゃんと聞こえるから、そのまま話してくれてオッケーだよっ”
 白い紙に新しい鶴屋さんの文字。
 …ということは、喋っていることが聞こえなくても声自体は出ているわけだ。ますます不思議だ。
”ハルにゃんにばれたらまずいんだよね?このままだとすぐにばれそうだし、みんな帰っておいたほうがいいんじゃないかな”
”今回は色が見えないだけではなく、音まで聞こえませんから。ほとんど世界が止まったような感覚です。このままだと確かにまずいですね”
”確かにこのままと不安ですね”
 それぞれ顔を見合わせて、頷く。よし、今日は鶴屋さんの好意に甘えて、早めに帰るか。
 鞄を持って開けっ放しのドアに次々と出て行き、最後に俺と鶴屋さん、実希の3人になる。ちらりと、実希は鶴屋さんを見て、俺より先に出て行った。
 じゃあ、鶴屋さん、ハルヒのことよろしくおねがいします。
 にこっと鶴屋さんが笑って手を振ってくれる。
 一礼してドアを閉める。さて、帰るか。
 先に部屋を出た実希が紙切れに何事か書き、俺のポケットに入れて逃走。なんだ、あいつ。
 くしゃくしゃにしてポケットに入れられていた紙には、文字は綺麗なんだよな、こう書かれていた。
                ”犯人はこの中に居る”
 探偵モノの見すぎじゃないのか?という前にこの”犯人”という言葉が目を引く。
 もしかして、こんな世界にした犯人を知っているというのか?
 問いただそうにも、本人は既に脱兎のごとく逃げ出している。まあ、真意はいつでも聞けるか。
 帰りは車に轢かれる心配のないよう、ゆっくりと帰ったため、いつもの倍近く時間をかけて帰宅した。