「も、もうだめ……」
 椅子にぐったりと座りこむ朝比奈さん。お疲れ様です、いや本当に。俺も似たようなもんですが。
 他のメンバーも宇宙人団体以外は似たような状態で、まさに死屍累々と表現してもいいんじゃないかという状況だった。ハルヒに恨み言さえも言えない状態で、椅子になんとか座って肩で息をしている。
「さてと、どうやって食べればいいのかしら」
「私がやるわ」
 疲れを見せない朝倉が袋の中の栗をためつすがめつしていたハルヒから袋を受け取って、一角の調理スペースへ向かった。情報統合思念体のインターフェースは全員タフだな。人間じゃないから当たり前なのかもしれないが、少し不公平だと思う。
 椅子に座っている今の状態は安堵からか、足にほとんど力が入っていない。あの坂を下りきれるかさえ、この足じゃ怪しいところだ。
「そのまま焼き栗にする? あまり常備してあるものが無いから、凝ったものはできないわね」
 ナイフと栗を持って、振り返る朝倉が長い髪を揺らして尋ねる。ああ、俺は何でもいい。
「そうね。本当は栗ご飯とかの方がいいと思うけど、お米が無いし」
 そりゃそうだ。いちいちこんなところで米を常備してるやつなんか居ないだろう。ここで住むつもりでもなければな。
「何よ、なんか疲れた顔してるわね」
 誰のせいだと思ってるんだ。椅子の背にぐったりとしている人間は全員、この飄々とした顔つきでパソコンの前にどこかの会社社長みたいにどっかと座っている自称最高顧問による引きずりまわしのせいでこうなっていることに気づいて居ないんだろうか。
「有希みたいな、いつも本読んでる女子高生でもほとんど疲れを見せてないのよ。体力が落ちすぎなんじゃないの?」
 窓際でじっと本を読んでいる宇宙人の方を指差す。
 あいつと一緒にされても困る。ああ見えて、この中で一番タフだからな。
 ハルヒは部員の不甲斐なさに溜め息をついて、自分用のパソコンを起動させて何か作業を始めたので、俺はこれ幸いにと休憩を再開した。こんなノリで後2日とも何かやったら、間違いなく過労死するな。労災なんか学生に降りないよな。
 というかもっとイベントをばらしてやるんじゃなかったのか。こんな早くから1つ目を入れちまったら、後にはほとんどイベントが無くなるんじゃないか? ただでさえイベント少ないとか言って、カレンダーとにらめっこしてたはずだが。
「その内、新しいことを追加するわよ。それに季節の最初にはやっぱりイベントを持ってくるべきなのよ」
 パソコンの画面をこれでもかと睨みつけながら答えるハルヒ。その心がけは別に構わんが、夏休みの疲れも取れ切ってない俺らまで巻き込むのはやめてもらいたいものだ。せめて後2週間くらいは遅らせて欲しかった。ハルヒ相手ではそんな申し入れも無駄だろうが。
 しばらくすると栗の焼けたいいにおいが漂ってきて、力尽きてぐったりしていた人間も徐々に動き出し、本に夢中な実希や長門も顔を上げた。芳ばしい匂いが部室に広がって、ああ、そういや昼飯もほとんど食ってないから腹が減ってるんだな。
 そして数分もすると、
「はい、どうぞ」
 皿に食べ易いよう既に剥き身にされた栗が整然と並べられていた。
「まだ熱いから気をつけてね」
 もちろん最初に手を出したのはハルヒだ。大きめのやつを選んで、そのまま口に放り込んだ。おいおい、人の話くらい聞けっての。熱いから気をつけろと言ってただろう。
 しばらくはふはふやっていたハルヒは、どうにかそれを落ち着かせて咀嚼を開始、十分済んでから、
「うん、やっぱいいわね」
 満足げな表情で再び手を伸ばした。
 ハルヒみたいに1口なんて危険なことはせず、俺も1つを割ってから食べてみる。
 ……確かにこれは美味いな。かなり甘いし、歯ごたえも無さ過ぎず、あり過ぎず。
「ただ焼いただけなんだけどね。あ、こっちは一応ゆでてみたわ」
 みんな腹が減っていたせいか、すぐに栗の試食会が終わるほどの消費能力だった。疲れたときにはやっぱり甘いものだよな。
 食べ終わると、ハルヒは小分けにした袋を個人個人に配る。これだけ引き回して自分だけ持って帰るということでもするかと思ったが、さすがにそれはなかったようだ。というかこんなことをハルヒがするとは、明日には雹と霧雨と大地震でも同時にやってくるかね。
「何のためにSON組で行ったのよ。それくらいの常識は持ってるわ」
 いつも非常識な行動しかしないコイツがそんなことを言っても何の説得力もない。自分では甚く常識的な行動しかしてないつもりらしいが。とりあえず受け取った数は、4人家族で栗ご飯でもするのには十分な個数だった。
「明日と明後日はしないわ。本当は何かしたいところだけど、やることがこれといってないのよね」
 あっても、今の状況からすると参加できるか怪しいところだ。
「それじゃ、今日は解散!」
 今日は散々だった、そう思いながらも少し楽しい気がしたのはハルヒ脳に毒されているからだろうか。きっとそうだ、そうに違いない。俺はそんなことを考えながら、部室を後にした。