本日は土曜。週休二日制が執行されてからは全国的に公立学校は休みになった。故に、朝はのんびりと惰眠を貪れる日である。
にもかかわらず。何故7時に俺は既に起きているんだろうな。
そして、夕方には商店街に赴き、ねぎやらしらたきやらを買って、超人の巣窟、SON組総本部へまた足を向けているんだろうな。
「休みだから」
答えになってないぞ、長門。
買ったものから想像するに、鍋でもやろうという話なんだろう。というかだな、あの教室でこんなことばかりしていいのだろうか。火気厳禁、とかあるだろうに。
「涼宮ハルヒのせい」
何、あいつはあんなところにも力を発揮しているのか。
「そういう意味ではない。涼宮ハルヒの行動パターンから、教員の大半が涼宮ハルヒと関わりを持ちたくないと思っている」
ああ、そういう意味でか。確かにそれは言えてるな。
一度想像してみる。
教員から生徒指導室に呼ばれたハルヒ。むすっとした表情で、教員の言葉に耳を傾けないどころか、そっぽ向いている。
指導教官が早々にハルヒへの説教を放棄するが、担任の岡部は大げさな身振り手振りで、外人に話しかけているのかと見間違うようなアピールをしながらハルヒを諭すだろう。それでもハルヒは無視を徹底。
とうとう岡部もギブアップ。説得終了。
岡部が若くして禿始めたら、その理由の大半がハルヒであると言って過言じゃない気がしてくる。
なんというか、ハルヒが「ごめんなさい」と謝っている様子が思い浮かべられない。あんな仏頂面を数時間も目の前に置いておくくらいなら、休み時間に毎回トイレのドアを片っ端から全部開けて、タバコ吸っている生徒が居ないか、携帯電話を使用している生徒が居ないかを探しに行ったほうがよっぽど生徒指導っぽくていい。
なんつっても、あのバニーガール事件で一度連れて行かれているんだ、既にその結果が見えているだろうし、そりゃ教師陣も見ないふりを決め込んだ方が賢いに決まっている。
それに、その後愚痴を聞かされるのは俺たちだ。教師にさんざん説教を食らうと今度はこっちにも被害が来る。
うむ、教師陣の賢明な判断、感謝します。
「やっと来たわね」
来てしまったさ。
「何よ、その嫌そうな顔は」
嫌とは言わんが、疲れたんだよ。毎日顔を合わせてるからな、たまに休みをくれ、休みを。
「SON組は年中無休、コンビニ以上にバリバリ働くのよ」
働くのは周りばかりだけどな。
「あら、有希。実希と一緒じゃなかったからいつ来るのかと思ったら、キョンと一緒だったのね」
「商店街で会った。目的地は同じだから、一緒に来た」
既に俺と長門以外の全メンバーが揃っている。本当にこいつらは律儀だな。
昨日の話を思い出す。あのモノクロ世界した犯人がこの中にいるらしい。
俺にはそんな犯人がこの中に居るとは到底思えない。しかし、実希は「この中に居る」と断言していた。いっそのこと「間違いでした」とか「嘘だったんだよ」と言ってくれればどれだけ気が楽か。
「沈んでいないで」
長門が小さく言う。長門も分かっているのか。
「おそらくではある。しかし、ほとんど確信に近い。確かにこの中に犯人が居る。でも、危害は加えさせない」
ゆるりと俺を見上げる長門。
「私がさせない。約束した」
――ああ、そうだったな。長門が居る。
長門が犯人だったら?まあ、そのときはそのときでまた考えるとしよう。
「朝倉さん、ネギとしらたき、水菜が来たわよ」
「あ、はいはーい」
来たのは俺と長門なんだがな。
もうお馴染みとなったうさぎセットを身に纏った朝倉が他のメンバーに指示を出していたが、ハルヒに呼ばれてこっちに来る。持ってきた荷物を手渡す。これでよかったか?
「ええ、十分ね。もうほとんどできてるし、あとは切って入れるだけよ」
そう言って、朝倉は部屋の端で野菜を切っていた朝比奈さんのところへ。何事か話した後、二人で仲良くネギを切り始めた。
実希は珍しく本を開かず、いつの間に広がったんだ、昨日帰る前にはこんなことになってなかったぞ、2畳ほどだった畳が長机を端に寄せることで得たスペースまで侵食し、その上に配備された大きなこたつの中でこくりこくりと船をこぎ、その隣で鶴屋さんがそれを眺めながら笑顔で蜜柑を頬張っていた。
古泉はガスコンロの準備をしているし、みんな忙しそうだな。
「あんたが遅すぎるから、みんながやってるんでしょ」
そういうお前は何をしているんだ。
「皆ががんばっているか確認する役よ」
お前に監視されなくてもちゃんとやるだろうよ。
「もうそろそろいいわよー」
朝倉の声でそれぞれが席に着く。うむ、腹が減ったし、とりあえず食おう。
「そうね」
こういうところは息がぴったりなんだな、俺たち。
朝比奈さんが沸騰している湯から出汁用昆布を取り出し、煮えやすい菜っ葉系が投入される。白菜の芯などは既に入っていて、大体同じタイミングで食べられるようにと考えてあるのがさすがだ。
「うん、もういいかな。今日は古泉くんのところから新鮮な蟹を持ってきてもらったからね、蟹鍋にしてみました」
ハルヒ係数、もとい機関のハルヒによるSON組エンゲル係数、ぐんぐん上昇しています。
確かにさっきからかなり大きめな鍋からもはみ出しそうなくらい蟹が入っているのが分かる。いただきます、と手を合わせて蟹の足を取り出す。む、取り皿に乗り切らないな。
「ごめんなさい、取り皿それしかなかったから」
いえ、気にしなくてもいいですよ、朝比奈さん。これで十分です。
殻の一部が割ってあって、中身が取り出しやすくなっている。一口食べると、中から汁と旨みが口に広がって…美味い!
月並みな言葉しか言えないため、俺はきっとグルメリポーターにはなれんな、まあなる気もないわけだが、そう思いながらも箸が進む進む。
「あっ、キョン。それ、あたしが食べようと思ってたのよ。渡しなさい」
「お前はもう既に3本目だろうが」
「まあまあお二人さん。まだ蟹はありますから、そんなに取り合わなくても」
「今日もお手伝いありがとう、朝比奈さん。大きいの取ってあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「むむむ、あたしのみくるが取られちゃったねっ。仕方がない、有希ちゃん、実希ちゃん、大きいの取ってあげるっさ!」
「ありがとう」
「おいしいです」
土鍋の上を箸が行ったり来たり。なんだかんだわいわいとやっているうちに、さっきまでの不安感、疑心暗鬼になっていた気持ちも吹き飛んだ。やっぱり、冬は鍋だな。