いつも通りの平穏なSON組室、元1年9組ではまったりとした時間が流れていた。今日は小泉、鶴屋さんが欠席で、ハルヒがさっきからネットをいじっているせいで、遊び相手も特にいない俺は、未だ片付けられないこたつで、ヒーターの前の猫のように伸びていた。
 まだ外は寒いからな、この時間が至福の時だよ、ホント。
 他のメンバーは朝比奈さんが課題を、長門姉妹は本を、朝倉は俺の向かいでやっぱり居眠りをしている。朝比奈さんのシャープペンシルを動かすさらさらという音と、ハルヒのマウスをクリックする音のみが響いて、いい感じに眠りを誘う。
 しかし、そんなのんびりした時間はいつまでも続かなかったとさ。
「何よ、これ!」
 静寂を破ったのはハルヒの怒声だった。どうした、ハルヒ。どっかトラップでも踏んだんじゃあるまいな。
「知らないわよ。ネットサーフィンしてたら、突然パソコンのキーが効かなくなったのよ」
 キーボードの端子がパソコンから抜けてるだけじゃないだろうな。確認してみるが…むう、ちゃんとささってるな。じゃあ…なんだろうな。
「役に立たないわね…。こういうときはコンピ研使いましょ、コンピ研」
 肩たたき券みたいな言い方をするな。
「キョン、呼んできなさい」
 俺がか?めんどくせぇな…、 と言いつつ行ってしまうのは情けないというかなんというか。
 しばらくして、コンピ研部長を連れて部屋に戻った俺。コンピ研に状態を見てもらうが、
「これは…ウイルスだね」
「ウイルス?」
「多分だけどね。コンピュータにもバグを利用して、不本意な動作を起こしたりするものをウイルスというんだ。こいつは入力のデバイスを無視するプログラムが入ってるみたいだね」
 なんとかならんのか、これは。
「僕の技術ではどうにもなりそうにない。ウイルスは最近HPを見ただけでも感染するものが出てきてるし…ちゃんとOSのアップデートはしてるのかい?」
「何よそれ」
 あちゃー、と頭を抱えるコンピ研部長。
「たまに出てきただろう、アップデートをしてください、みたいな表示が」
「ああ、出てたわね。めんどくさいから、全部いいえにしてやったわ」
「それでちゃんとはいを選ばなきゃいけなかったんだよ。これじゃ多分何にもできないだろうし、再インストールした方がいいかもね。OSのディスクは取ってくるよ」
 そう言ってコンピ研部長は部室へ帰っていく。と、ハルヒも立ち上がり、
「明日あたしがここに来るまでに直しておいて頂戴」
 待て、それは俺がやるのか?
「あったりまえでしょ」
 壊したのはお前だろう。
 俺の言葉を無視したままハルヒは部屋を出て行く。おいおい…マジかよ。
「…行っちゃい、ましたね」
 ええ、まあいつものことですけどね。
 すぐにコンピ研部長が帰ってくるが、目を丸くする。
「あれ、団長さんは?」
「直しておけと、言い残して帰りました」
「そうか…お互い、大変だね」
「ですね」
 コンピ研部長がCDドライブをあけ、OSのディスクを挿入した後、何かを思い出したように振り返る。
「そういや、再インストールすると中のデータは消えてしまうんだが、大丈夫なんだろうか」
 それはまずい。ハルヒのことだ、「あたしの大事なデータが入ってたのに!」と暴走しかねん。それに俺の「朝比奈さんフォルダ」が存在している。あれを退避もしてないしな。
「それはちょっとやばいですね…。ハルヒが何を言い出すか分かりませんし」
「そうか…そうだよなぁ」
 男二人でうんうんと唸っていると、突然長門が本を閉じ、自分のパソコンを取り出して立ち上げ、鞄の中からUSBオス同士の端子を取り出してきた。何をするんだ?
 パソコンの傍に座り、両方の端子を自分のパソコンとSON組専用パソコンにつなぐと、またあのときみたいに猛スピードで何かを打ち始めた。
 するとどうだろう、SON組専用パソコンでいろんなウインドウが立ち代り、入れ替わりでついては消え、ついては消えして、全部のウインドウが消えた後、「直った」と長門の一言。
 直ったって…全部か?
 こくり、と頷く長門の言葉通り、キーボードもマウスも全部正常動作を開始した。本当だ、全部直ってるぞ。
「本当に君はすごいな…」
 コンピ研部長も尊敬のまなざしだ。まあ、確かにさすが長門としか言いようがない。
「じゃあ、僕は帰るよ。まだ部活があるんでね」
 お疲れ様です。
 出て行くコンピ研部長を見送って、さて、肩の荷が下りた。なんか疲れたし…もう帰るか。
「そう」
 長門は小さくそう言ってから、俺の耳元で言った。
「朝比奈みくるフォルダは隠しファイルにしておいた。解除方法はまた教える。あれでは涼宮ハルヒが見つける可能性がある」
 ぐあ、お前さっきの間に見つけたのか。
「それと…もう一つ同じところに隠しフォルダを作っておいた」

 後日、そのもう一つのフォルダが「nagato」と書いてあったことは…どうしろということだろうか。