「すまん、もう一度言ってくれ」
 本当は言ってほしくないんだがな。聞き違いであってほしいという願いを込めて、もう一度頼む。
「何言ってるのよ、キョン。アンタ耳悪くなったの?だから、今日からSOS団じゃなくてSON組になったの!」
 やっぱり聞き違いじゃなかったのか。
「で、超顧問があたし、組長が有希、副組長がそこの朝倉さんで、鶴屋さんは相変わらず名誉顧問ということになってもらってるわ。みくるちゃんはSON組マスコット、古泉君は基本的に全体の補佐で、キョン、アンタは雑用係!」
 まあ、つまり俺の位置関係は相変わらずということだな。…それはさておきだ。俺はハルヒの手から逃れた長門を確保して聞いてみる。
「長門、なんで朝倉涼子がここに居る」
「呼んだ」
 呼んだって…どういうことだ。またあの暴走するかもしれないんだろう?ハルヒが情報爆発だのなんだので、俺を殺すとか…。
「今回それはない」
「何故言い切れる」
「今回の任務は涼宮ハルヒの監視ではない」
 この3年間、長門と朝倉たち対有機生命体コンタク…ええい、面倒だ。なんか略称あったよな。
「古泉一樹含む機関の略称ではTFEI」
 そのTFEIというのは、自律進化の可能性を見出すために涼宮ハルヒを監視している、とかなんとか言ってなかったか。
「そう」
 だったらもう自律進化を諦めたのか、はたまたもう可能性を見つけたのか?
「とりあえず今のところは大きな変化が見られない。だから一時的制限を付けて、その任を解かれた」
 …失業か?
「あなたの表現は分かりづらい」
 すまん。まあ、とにかくだ。俺が襲われる心配はないわけだな?
「当面は」
 一抹の不安はあるとはいえ、長門がここまでさらりと返すくらいだ、しばらくは大丈夫なんだろう。
「何こそこそ二人で会話してるのよ!」
 いや、これからの活動方針とかだな、お前達は聞いてるかもしれないが俺はまだ聞いてないからどういうものか聞こうと思ってな。
「やることなんかほとんど変わらないわよ。宇宙人や異世界人、超能力者や未来人、それに準ずる人を探すのよ!」
 俺はお前に問いたい。じゃあなんで名前を変えたのか。しかし、きっとこう返ってくるに違いない。
「おもしろそうだからよ!」
 別にリーダーが自分であれば何でもいいんだよな、本当に。
「あ、お茶淹れますね」
 朝比奈さんがいつも通りポットに向かう。向こうにあったSOS団備品(注:一部人から強奪したということは忘れてはいけない。忘れたいがな)は全部こっちに持ってきたんだろう。いつも通り手際良く急須にお湯を注ぎ、コップに入れてお茶を運んできてくれる。
「はい、お待ちどうさま」
「ああ、ありがとうございます」
「あ、みくるー。こっちにもお茶二つねー」
「よろしくお願いします」
「あ、はーい」
 ぱたぱたとまたポットに向かう朝比奈さんを見送って、次は古泉を捕まえる。
「驚きましたか?」
「まあな」
 こういうのは慣れるもんじゃないからな。まずはだな、この教室はどうなったんだ。
「私も驚きました。こちらへ来る前に機関から連絡があり、1年8組の教室へ行くように、と。最初はどういうことなのかさっぱり分かりませんでしたが、来たら納得しましたよ」
 俺にはさっぱり納得できん。分かるように説明しろ。
「なかったんですよ。一般の教室にある机と椅子が。教卓はなぜか残ってましたが…あとは他に何もない」
 やはり最初から全部なかったのか。
「そして涼宮さんに紹介されたんですよ、この教室を。今度SOS団からSON組にする、組って名前が付く位だから教室を部室代わりにしたいと思ったときに、ここに”空き教室”があるということを思い出した、とね」
 空き教室だって?
「最初は僕も耳を疑いましたよ。昨日まで授業を受けていた教室がいつの間にか空き教室になっているのですから」
 そりゃそうだ…。そういや他の生徒はどうなったんだ?
「先ほど機関から8組へ行けと言われた、と話した通り、他の生徒も何の違和感もなく他の教室に散り散りになったようです。クラスメイト数人が同じクラスに居ましたからね」
 これは何だ。またハルヒの暴走した妄想の結果か?
「最初は機関の上層もそう考えたようです。しかし、いくら調べても情報改変の痕跡がない。長門さんたちの親玉、情報統合思念体も、朝比奈みくるなどの未来人も同じようで、何がきっかけでこうなったかはさっぱり分からないようなのです」
 随分と面倒なことを…。
「しかし、今のところ大きな実害もないため、しばらくは様子を見ることで意見が一致したようです」
 そうか。
「さて、今日はどうしようかしら?さすがに今からすぐに外へ宇宙人探しにはいけないわよね。暇つぶしになんか欲しいわ。ゲーム研究会とかないかしら?あったらそこからゲームでも貰ってくるのに」
 訂正しておこう。貰ってくる、ではなく強奪してくる、だ。というかこれ以上罪状増やしてどうするんだ、ハルヒ。
「それとも野球部に冷やかしに行く?前みたいにまたホームラン打ってあげるわよ!」
 それも訂正だ。あれは長門の力だ。まあ、ある程度はお前一人でも十分敵いそうなもんだけどな。
「みんなで人生ゲームとかどうかい?おっもしろいよー!」
 鶴屋さんが八重歯を見せながら笑う。人生ゲームね、ハルヒは都合悪くなったら途中でキレそうだが。
「そんなちっぽけなゲームで自分の人生なんか決められないわ!」
 バンッ、と教卓を両手で叩く。…もしかして、机や椅子が無くなっても教卓が残ってるのはこれをしたかったためじゃなかろうか?この状況をハルヒが作ったとは言い切れないが、非常にそんな気がしてたまらない。
「まあ今日は全員の顔見せってことで、解散にするわ。明日からいつも通りの活動に戻るわよ」
 そう言って鞄を引っつかんで帰るハルヒ。いつも通り…つまり、今とあまり変わらないだらだらした生活なんじゃないか?
 というか、SON組のNって長門のNだったよな?そのある意味団長…じゃなかった組長さんは、それはそれはいつも通り、息もしているのか不安になるくらいじっと本を読んでいらっしゃる。本当に、この組は大丈夫なんだろうか。いやはや、いろんな意味で。
「まあ、今日は特に何をすることもないみたいですし、僕も帰ります。バイトがありますんでね。ああ、あとゲームの方はこちらでまた用意させてもらうことになるでしょうから、心配は要りません」
 ゲームの方は心配してないさ。あいつのことだ、すぐに忘れるだろうし。
「さあ、分かりませんよ?あの涼宮さんのことです、何を覚えていて何を忘れているかなど予想もつきません。案外僕たちにとってどうでもいいことが涼宮さんにとっては大事だったりするのですから」
 いつものキザな笑顔を振りまいて帰る古泉。まあ、そうかもしれんがな。
「さてと、じゃああたしも。あ、みくる着替えるなら、手伝うさ」
「わ、わ、わ…ちょ、ちょっと待っ、待って…」
 まずい、と思う前に体が動くのは、きっとそうだな、この一緒に出てきた目の前の元2年5組、
「元じゃないわ。明日からクラスに戻るわ。先生もまた委員長やってくれって」
 …マジなのか。
「マジよ」
 まあ、この朝倉涼子に例の涼宮体育脱衣事件以降、教室から追い出される癖がついたからだろう。
 …なぁ長門、本当に大丈夫なんだろうな。
「まあ、男の子なのにそんなに心配するの?大丈夫よ」
 実際刺されそうになったことのある俺としてはな、用心に用心を重ねたいものなんだよ。まあ2度も長門が肯定したし、大丈夫だろう。さて、帰るか。
「そうそう。ちょっと刺したい気分になったりもするけどね」
 全力で振り返った。
「くすくす、嘘よ」
 やめてくれ、お前がそれを言うと洒落にならん。

 まあそう言うわけで、正直不安要素ばかり増えて始まってしまったSON組。ちなみに読み方はハルヒ曰く、「えすおーえすぐみ」であって「えすおーえすくみ」ではないらしい。どう違うのか良く分からんが、こだわりだと。なんだか暴力団みたいな名前にしか聞こえないんだがな。
 とりあえずそんなSON組…どうなるのか。正直言おう、俺にも分からん。というか教えてくれ、どうなるんだ!