手分けして辺りを探し始めてから数時間の後、再集合が掛かった。もちろん収穫などありゃしない。
 というかだんだん木から離れているのはどうなんだ。あの木について何か不思議なものがついていたり、怪しげなところが無いか調べるはずだっただろうに。まあ意地になってたからだろうな。
「ないわね……」
 その結果に満足いかない人間は1人しかいない。その他は「やっと終わった」という表情がほぼ見て取れた。そういう表情をしていないのは無表情組、長門と実希くらいのものだ。
「無かったんだから仕方がないだろう」
 ちなみに途中で一度戻り、落とし穴を掘ったときと同じ大型のスコップまで取り出してきている。というわけでその根元は掘り返された局地的な場所で明らかな土の色の変化が見られた。もしこんなところを知らない人間に見つけられたらまずい。どう見たってただの見物客といってごまかしが効く状態じゃない。弁解の余地無しで、すぐに学校へ通報されるだろうな。そういう意味でもさっさと俺は帰りたかった。
 ハルヒはしばらく考えた風であって、
「まあいいわ。なかなか見られないものが見れたし、帰るとしましょ」
 笑顔とまでは行かないが、それなりに吹っ切った表情で先頭に立って歩き始めた。どうやら一応の納得がいったらしい。そこまでに時間が掛かりすぎるんだよ、お前は。
 部室へ帰ろうと歩き出して、山を下り始めた途中にある分岐点で俺はあることを思い出した。
「そういや落とし穴とか埋め忘れてたよな」
「……そういえばそうね」
 文化祭のときに設置した、対不思議生命体捕獲装置である。一度も使われることなくその役目を終えたことになるが、そのまま放置しておいていいものではない。
 そう考えていたらハルヒはあっさりと、
「埋めてきておいて。せっかくスコップも持ってるし」
 つまり俺に1人で行ってこいとお前は言うんだな。こいつは本当にどこまで自分勝手なんだ。足取り軽く、さっさと帰るハルヒと、スコップを持ったまま頭痛を催し始めた俺と、そのどちらについていこうか迷っているその他諸々の人間。
 ……まあいいか。どうせスコップも1つしかないから他の人間が居たところで大きな労働の差にはならない。
「先に帰ってて良いぞ」
 手をひらひらとさせて、帰宅を促す。そして俺は落とし穴を掘った場所へ1人向かった。


「……確かこの辺だったな」
 ハルヒが命令し、俺が掘った落とし穴があったはず、という場所までたどり着くにはさほどの時間を要さなかった。丁度さっきの分岐点から真っ直ぐ来るだけだしな。
 さて、さっさと片付けて俺も帰るか。
 と、その前にまず落とし穴自体を探さなきゃならん。雨が上手い具合に落とし穴設置場所付近を均してくれたせいで、どの辺りに落とし穴があるか非常にわかりづらくなっている。片付けるときに落ちたらシャレにならん。
 その他のトラップ、そういやこんなのも設置したんだっけな、からの位置関係で落とし穴を作ったはずの場所へ慎重に近づく。スコップで地面を叩き、他のところと明らかに音が違っている場所を確認してそこを掘る。それを繰り返し繰り返しして、全ての穴を確認してから、盛り土しておいたものを元へ戻す。掘る時ほどの大変さは無いが、これはこれで結構体力を使う。お陰で全てを埋め終えたときにはもう風は冬へ変わる準備をしているというのに、全身汗みずくになった挙句、全身の疲労感のためにその場に座り込んだ。くそ、なんで俺だけがこんなことしなきゃならないんだ。
 毒づいていても片付くわけではないし、はたまた家に自動で帰れるわけでもない。捕獲するために仕掛けていたゴミになったものを束ねて、スコップと一緒に持ち上げる。総重量はそこまで無いが、疲労の体には堪えるな。
 そういやこれはどこに持ち帰ればいいんだろうな。一応部室まで持って行けばいいのか。他に持っていくところもないし、ここに放置していくのはもってのほかだし、それでいいよな。
「……ん?」
 最後に持ち上げた捕獲用粘着テープ。俺が「こんなものいらないだろ」と言ったアレだ。ハルヒはあくまでもそれにこだわって結局作ったのだが、その意味の無さげなテープ上にそこに何か銀色に光るものが付着していた。俺、何か落としたか?
 目を近づけてみると、それは正直「銀色の物体」としかいえないもので、つまり言い換えればよく見ても何が何だかさっぱり分からなかったということだ。なんだろうな、これは。1円玉みたいな綺麗な銀色ではあるが、形状は楕円形で文字は一切書かれていない。軽いし、指で弾いてみると結構な硬さがあるようだ。そして表面は研磨されたようにつるつるしている。
 なんとなくだが嫌な予感がし始めた。ハルヒのことだ、俺たちが目撃していなかっただけで「それらしい何か」をこの辺りにマジで生み出してしまい、徘徊させていたんじゃないか。そしてその一部がここに張り付いていたって可能性は考えられないか。
 まず一般人がここまで来るか怪しいもんだし、これを誰かが意図的に置いたとは考えにくい。とすればぶち当たるのはハルヒが望んでいるような怪しげな生物であって、もしかするとまだこの辺りに潜んでいるかもしれないと考えると怖気が走った。
 早くここを立ち去った方がいい。
 脳内で不可思議現象の空襲警報が鳴り響いていた。俺は慌ててスコップとゴミを全て持って、さっさと逃走を計った。あの怪しげな物体はもちろん捨てて、だ。あれが原因で更なる災難に巻き込まれたらたまったもんじゃない。
 部室までほぼノンストップで帰ってきた俺は学校の外で土を払ってきたスコップを布に包んで仕舞い、ゴミ袋にゴミを詰めて口を閉じ、それだけしたら鞄を持っていつもはゆっくり歩いて帰る坂を全速力で駆け下りた。