「泳ぎに行くから準備しなさい」
ガラガラと扉が開いたと思ったら、直後こう言って扉が閉められた
誰だと聞くなかれ、あの数年前に埋めて置いたら勝手に地中を移動し始めた地雷型核爆弾、涼宮ハルヒであることはすぐにお分かりだろう。場所を忘れたのがタイムカプセルなら良かったんだがな。いや、あれはあれである意味地雷だが。
「今のはなんだったんだろうな」
「さあ…」
まぁ、分かるわけがないよな、あいつの頭の中はいつも、
「早くしなさいッ!」
追い立てられるように教室から出、ハルヒについていった先は……近くの民営室内プール?
「温水プールで滑り台もあるらしいわよ」
泳ぐとか言うから、寒中水泳でもおっぱじめるかと思ったぜ。
「嫌よ、寒いし」
そりゃそうだ。
それはそうとハルヒ。俺はもちろん、メンバー全員、いやもしかするとハルヒは持ってきているのかもしれないが、それ以外は全員持ってきてるとは思えないぞ、水着なんかな。
「安心しなさい」
お前の安心しなさいは政治家の「絶対大丈夫です」くらい安心できん。
「あたしが全部買ってきたからね」
………。
「なんだって?」
「だから、全部買ってきたの」
「誰が」
「あたしが」
「何故」
「みんなで泳ぐためよ」
…意味が分からん。
「テレビのニュースで寒中水泳やってたの。そしたら泳ぎたくなったわけよ。でも寒いのは嫌だから、温水プールにしようと思ったの。それで、泳ぐには水着が必要だからって揃えてきたのよ」
そりゃどうも。というより一人で泳ぎに行けば良かっただろうに。
「男連れでもしてないと、ナンパでもされそうだし。でも、キョンと二人じゃ、ほら、味気ないし、まあとにかくメンバーで泳ぎに行こうと思ったのよ」
やれやれ…。まあ、いいか。
「さあ、みんな着替えるわよ。はい、キョンと古泉君の分。キョンのは100均のよ」
扱いがひどすぎやしないか。
女性陣はさっさと行ってしまい…、仕方がない、いくか、古泉。
「ええ、そうしましょう」
脱衣所でさっさと水着に着替え、そういや下着の上から水着を着て、下着だけ脱ぐって昔流行ったよな、脱衣所を出て女性陣を待つ。にしても100均は今時水着なんかも置いてるんだな。随分と生地もしっかりしてて、なかなかだ。
くすくすと笑う古泉。何がおかしい。
「いえ、大したことではありませんよ。相変わらずだなあと思っただけです」
意味が分からん。もっと分かりやすくだな、
「待たせたわね」
振り向くと、SON組の女性陣が水着に着替えて整列していた。
ハルヒはクリーム色のパレオ付き、朝比奈さんは花柄の上下である。しかし、その他のメンバーが…。
まず、鶴屋さん。あっはっはと暢気に笑いながら着ているのは競泳用の背中が大きく開いた水着である。これはこれで良いな、うむ。その隣で無表情に立っているのが長門姉妹、さすがに本は持ち込んでいない様子だが、姉は紺地のみで作られた、いわゆるスクール水着、そして妹が首元から肩辺りにかけて白い比較的新しいスクール水着である。
ちなみに、長門姉妹は浮き輪を装着中である。なんだか…初めてプールに来た双子の小学生といった感じだ。
最後に、朝倉涼子。こちらも紺地のスクール水着、長門と同じだ。
「さあ、泳ぐわよ!」
「おい、準備体操というものをだな…」
言い切る前にプールへ飛び込んだハルヒ。おいおい、大丈夫なのか。
「大丈夫よ。プールの中で準備運動するわ」
もう入っちまったら”準備”運動ではないし、そんな奴はお前しか居ない。って、やれやれ、もう行っちまったよ。
「久しぶりにプールに来れて嬉しいんでしょうね」
といっても、夏には嫌というほど入ったと思うんですがね。
「まあ、ほら、キョン君も分かるんじゃないかい?冬に暖房がかかった部屋でアイスクリームを食べるとかいう贅沢をさっ」
ああ、別の時期にやる楽しさ、ってことですか。まあ、それなら確かに分からなくもないですね。
「そういうことさね。じゃあ、あたしたちも遊ぼうか!ほら、みくる、行くよっ!」
「あ、待って」
先を走る、プールサイドでは走ってはいけませんよ、鶴屋さんをとてとてと朝比奈さんが追う。和むなぁ。
そういや、ハルヒのやつ、全員違う水着にしたのかと思ったら、長門と朝倉は同じなんだな。
「あら、違うわよ」
ぺろんと服を脱ぐように胸元まで水着をめくる。
「何をしているんだ」
思わず目を背ける。が、…なんだ、よく見ると肌は見えない。裏布みたいなのがあるわけか。
いや、別に何か期待してたわけじゃないぞ、うん。
…というか、ハルヒは壊れたのを渡したのか。全く…。
「違うわよ。これはもっと古いタイプ、言うなれば旧旧スクール水着よ」
「ええ、そうですね。旧と旧旧の共通点は、全部紺色の生地で、背中はU字型になっていることが多いというところですね。この二つの違いは、旧旧はスカートとブルマーを混ぜたような形ですので、先ほどのようにめくりあげることができますが、旧の方は後ろの生地を前に持ってきてつなげた、という感じであるために、前だけがスカート型になっているということでしょうか」
…詳しいな。
「ええ、割と」
割とじゃない。古泉はスク水マニアだったのか。
「でも、僕も旧旧スクール水着は初めて実物を見ましたね。非常に古いタイプのため、ほとんどお目にかかることはできないんですよ」
俺の問いをスルーして話を続ける。まあいい、よく分からんが、そんなレアものなわけだな。
古泉は「いい仕事してますねぇ」とでもいいかねない様子で、長門姉妹と朝倉を見比べる。本来だったら、もっと違う意味で見るところがあると思うんだが。
「ところでだ、今回もお前のところの管轄のプールなのか?ここは」
「幸いにも。しかし、プールへ行くと突然言われたときは驚きましたよ。何かあったときのためにこちらで場所を提供する、としていたんですが…、今回は完全に涼宮さんの独断でしたので」
ということはたまたま、ってことか。
「ええ。ですから、何かあったときのために、メンバーの待機を今さっき申請してきたところです。これで、何かあっても大丈夫です」
何も起こらないのが一番いいんだが、まあ、適当に楽しませてもらうかね。せっかく来たんだ、楽しまなきゃ損だよな。
軽い準備運動の後、ゆっくりとプールに浸かる。確かに暖かいな、これは。真夏のプールのときのを思い出すぞ。
流水プールであるため、その流れと同じ方向に泳いで、途中で立ちどまる。確かに久しぶりに泳ぐと気持ちがいいな。夏の体育の時間みたいに、毎回毎回プールだとさすがに飽きるが。
と、目の前をぷかぷかと、
「……長門?」
大きな浮き輪の上に尻を埋め、天井を見ながら浮かんでいる。楽しいか?
「少し」
そうか。泳がな、
「あ、ごめんなさい」
浮き輪その2が俺に直撃した。実希である。
「俺だからいいが、他の人に当たったら迷惑だろう。もうちょっと気をつけて浮いてくれ」
「もう人に当たったのは3回目です」
遅かった!
「そういえば、向こうに滑り台がありましたよ」
そう言い残し、ぷかぷかと浮かんだまま実希は下流へ流されて、あ、また人に当たった、だから気をつけろとあいつは…。
まあ、いいか。確かにハルヒがそんなことを言っていたっけな。長門、一度行ってみるか?
「行く」
即答。